言葉が通じない不安と共に生きた海外旅行
けたたましく鳴り響く電話。
眠りの中で揺蕩っていた私は、その音に叩き起こされた。
見知らぬ天井だ…。
スマホを見ると朝3時、横には妻の姿。私は、自分が置かれている状況を思い出した。
◇
その前日、新婚旅行4日目となる日のことだった。バルセロナ空港にて、イスタンブールに向かう航空便を待っていた。
ただ、航空便が遅延していた。11時発の航空便が、13時発予定に後ろ倒しになり、さらに14時発に変更となっていった。
航空会社の社員たちがソワソワしていて、嫌な予感がした。だけど、まさか自分が乗る航空便が欠航することはあるまいと思った。
そのまさかだった。14時30分頃に欠航が決定した。
その瞬間、目の前には、航空会社の人に一斉に詰め寄る人たちの光景が広がった。まさしくパニック状態だった。
ニュースで「欠航」と聞くことはままあるが、どんなことが起こるのかということは想像すらしたことがなかった。
しかも、ここは異国の地だ。インターネット上にも、海外で欠航したときの情報がなかなか出てこない。飛び交っている外国語が全く理解できず、周りの人たちともうまく会話をすることができない。
明朝に予定していたカッパドキアのツアーに間に合うのか。間に合わなかった場合どうすればいいのか。バルセロナからイスタンブールへの代替便はあるのか。明日以降のフライトになった場合にバルセロナのホテルはどうすればいいのか。そもそも欠航した場合の再入国はどうすればいいのか。
色んな不安が頭を過った。けれど、時間は刻々と過ぎていく。
そうした中、なんとか周りの人たちについて行って再入国し、ここで待っていれば良いのではないかと思われる場所に着いた。
だけど、待っても待っても案内はされない。時刻は、19時に差し掛かっていた。空港に着いてから、12時間が経とうとしていた頃だった。
みんなが待ち焦がれていた、航空会社の人による案内が始まった。どうやら、今日はイスタンブールに向かうことができないため、航空会社でホテルを確保したということで案内があった。
色んな不安があったけれど、ひとまず安心した。空港近くのホテルにバスで移動し、ホテルへのチェックインも終えた。
普通のビジネスホテルのようなところだったが、新婚旅行として滞在していたホテルよりも綺麗なところで、僭越ながらもリッチな気分を味わっていた。
そして、夕食もバイキング形式で美味しかった。美味しかったのだけれど。ゆっくり味わうことができないくらいの大きな気がかりがあった。
「いつ、イスタンブールに行けるのだろう?」
安心に包まれていた心の中が、ざわつき始めた。明日もイスタンブールに行けなければ、どこに泊まればいいのだろう。そんな考えを頭に巡らしながら、24時過ぎに、航空会社からメールがあった。
「代替便として朝7時の航空便に案内するので、朝4時にバスで迎えにいく。」
そのメールを見た瞬間、安堵とともに、色んな気持ちが込み上げた。
ほとんど寝れないじゃん!!!
既に疲れがピークを超えていた私は感情がおかしくなり、眠気よりも、笑いしか込み上げてこなかった。
◇
そして、今日の朝3時に至る。ホテルの人たちも私たちを起こそうと、必死に電話をしていたのだ。
急ぎ支度を済まして、ホテルのフロントに向かう。この時間に呼ばれたのはトルコ人とスペイン人以外だったようで、私たちを含めて10人くらいが集まっていた。
そして、迎えの予定の時間であった4時になってバスが来たため、乗り込もうとした。そうすると、「そのバスは違う」と、異国の言葉で話しかけられた。空港へのバスを待っていた10人のうちのひとりだった。
結末から言えば、その1時間後にやっとバスが来た。しかも、そのバスには人が乗り切れず、ホテルの人が別途タクシーを頼み、一件落着となった。
4時集合とはなんだったのかという感じではあるが、誰もが待つことに抵抗がなくなっていた。
そんなことはさておき、待っている間、私たちを安心させようと外国人たちが積極的にコミュニケーションを交わしてくれた。
バス待ちの時間だけじゃない。時間を遡れば、昨日空港で欠航した直後、顔が真っ青になっている私たちに色んな人が話しかけに来てくれた。
彼らも私たちと同じ状況で余裕がないのにも関わらず、言語が通じなくても、めげずにずっと話してくれた。
それがとっても、温かかったのだ。
日本人が珍しいということもあっただろうが、彼らは他人に対してとても開放的だということが感じられた。
島国の日本とは違って、色んな国と陸続きが当たり前の人たちにとっては、国籍という壁を超えて、他人と融和して生きることに慣れているのだろう。
日本の空港で同じことが起きたとして、言語が通じないのに、外国人に積極的にコミュニケーションを取ろうとする人はここまで多くないように思う。
そして、英語ができない妻も積極的に会話をして盛り上げていた。私はここ最近、TOEICを必死に勉強していたのにも関わらず、英語ができない彼女のほうが圧倒的に意思疎通ができていた。
これがまさに、勉強と実践が違うと言われる所以だ。私一人だったら、きっと、ここで野垂れ死にしていただろう。
それと同時に、言語が通じず外国人に話しかけられない私が、いかに意気地なしなのかということも明白になった。
海外にいけば普段の人間関係から解放されて、孤高に生きられると思ったのに、トラブルに陥れば孤独による不安に苛まれた。
人はひとりでは生きていけない。
人間関係が苦手で小心者である私だからこそ、孤高に生きるなんて無理なんだ。
他人を拒絶する癖はやめたいと、強く思った。
こんな経験ができるのは稀なので、とても良い思い出になったけど、二度と経験はしたくはない。
その後はと言うと、カッパドキアのツアーには間に合わなかったため諦めざるを得なく、バルセロナとイスタンブールの2箇所を満喫して旅を終えた。
最後に、旅中で撮った写真を貼って、幕引きとしたい。
【バルセロナの路地】
【イスタンブールの路地】
【イスタンブールの猫たち】