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何故、蓬と夢芽は「かけがえのない不自由」を選んだのか「SSSS.DYNAZENON」の魅力を語りつくす。アニメ考察(推察)&批評

意味なく従兄弟に殴られた、世知辛い、世知辛い~。

前回の挨拶は痛すぎる八九寺真宵の副音声ネタを披露してしまったので「アイドールズ」の劇中歌「世知辛い」の一節をド頭に持ってきました。
自分はアニメを語り始めると真剣になり過ぎてふざける気持ちを忘れてしまう傾向にあるので、例え最初の挨拶でスベリ散らかして読む気を無くさせたとしてもこれは続けるべきだと自分に言い聞かせています。

今回は「SSSS.GRIDMAN」の考察(推察)&批評に続いて

「SSSS.DYNAZENON」

について語りつくそうと思います。
前回の「SSSS.GRIDMAN」は「新条アカネ」を深堀しながら魅力を伝えましたが「SSSS.DYNAZENON」の場合は主人公周りの主要人物を一人ひとりじっくり深堀する必要があるので、前回よりも情報量が多く濃密な記事に仕上げたつもりです。私的解釈に過ぎませんが、もしよければ私のわがままに最後までお付き合いください。

※ネタバレ込みで語るので本作を視聴していない方にはお勧め出来ない記事となっています。
↓Youtubeにも投稿したのでコチラもご視聴頂けると幸いです。

GRIDMANから引き継がれたミスリード

蒼い瞳に赤色が混じった「宝多立花」と同じ瞳
「アレクシス・ケリブ」を彷彿とさせる
背後のシルエット

本作の話をする前に一旦、前作の「SSSS.GRIDMAN」を遡ろうと思います。
前作の主人公「響裕太」
彼は至って普通の高校生でありながら、別次元から遥々とやって来たハイパーエージェント「グリッドマン」と一体化し、怪獣と戦い続けました。

「自分を響裕太と思い込んでいるグリッドマン」
という大胆なミスリードにより視聴者が淡々と怪獣と戦う姿に対して違和感を抱いてしまうのも当然であり、最終的には「新条アカネを救う物語」で片付いたので真の主人公は新条アカネでした。

だからこそ「SSSS.DYNAZENON」ではどの様に主人公達を描いてくるのか楽しみで仕方なかったんですよね。主人公像の描写だけではなくて、前作で明かされなかった謎、考察する上で必要不可欠な要素がどの様に引き継がれるのか始まる前からワクワクが止まらなかったんです。

しかし結果としては「SSSS.GRIDMAN」から引き継がれた要素はミスリードであり気にするまでもなかったんです。

何故なら「SSSS.DYNAZENON」は前作でも描く事ができなかった、正真正銘の青春群像劇を描いていたからです。

居場所のない主人公達

この物語は、突如として現れた怪獣とダイナゼノンの戦闘に巻き込まれた「麻中蓬」「南夢芽」「山中暦」「飛鳥川ちせ」が協力し合いながら怪獣との戦いに身を投じていく物語です。

偶然その場に居合わせてしまっただけで、元々縁もなかった5人が巨大合体ロボ「ダイナゼノン」を通してどんな物語を描くのか期待を膨らませてくれた第1話。
前作のミスリード構成だと表向きの主人公に中々感情移入できず、裏主人公を自分の解釈で定める必要があるので「SSSS.DYNAZENON」では真っ直ぐに主人公達の成長や葛藤を描いてくれるんじゃないかと勝手に期待していました。

実際、自分の思った通り「SSSS.DYNAZENON」は主人公達の性格や成長と葛藤が全話通してじっくり描かれていましたね。

「響裕太」と似ている様で似てない「麻中蓬」

麻中蓬。
彼は前作の主人公「響裕太」と似ている無個性な主人公タイプなんですよね。バイトのシフト入れまくる放課後忙しい系の高校生であり、ダイナゼノンと出会わなければ彼自身「主人公」ではなくて「モブ」的なポジションで終わってもおかしくないキャラです。蓬の素朴感を生み出す為に榎木淳弥さんが起用されたのも納得で、主人公とは程遠いキャラである彼が最終話にかけて着々と主人公らしいキャラへと成長を遂げる過程も魅力の一つです

陽キャでも陰キャでもなく、絡める友達がそこそこいる普通の高校生ですが、彼は自分の居場所に疑問を感じているんです。
両親が離婚したことで母子家庭になり、母親と祖母の3人で暮らしている中、蓬の中で自立したい気持ちが芽生え始めると同時に母親の再婚相手になるかもしれない男性との食事も増え、居心地の悪さと心の中にある違和感が蓬の自立したい気持ちを加速させます。放課後、友達と遊ぶよりもバイトに勤しむ蓬の優先順位がなんとなく理解出来るというか...

喜怒哀楽を表情に出さない「南夢芽」

南夢芽。
彼女も本作の主人公でありヒロインです。
喜怒哀楽を表情に出すことはあまりなく、自分の領域に踏み込まれることを極端に嫌う程の人見知りで彼女の表情や行動原理から意図を汲み取るのはかなり難しい様に感じます。
第1話で語られた通り、
「自分の話を聞いてくれる気がした」
と適当に男子を呼び出した挙句、その場に姿を現さないと言う、迷惑な行動を頻繁に繰り返しており、ミステリアスな風貌も相まって学校では夢芽の悪い噂が多数存在しています。

蓬も夢芽の被害者の1人であり、待ちぼうけされた時は多少ショックを受けていましたが
「私って、どうかしてるんだよ」
と言う夢芽の台詞の意図を知りたい気持ちが蓬の中で生まれてきます。
蓬と同様で夢芽も家族との関係性に悩まされており、姉「南香乃」の事故死がきっかけで両親が不仲になり、自分がその場に居なくなると両親同士で喧嘩が始まる程、家族仲が悪い。
普段からイヤホンで音楽を聴きながら鼻唄を歌っている彼女ですが、入浴中は裏で喧嘩している両親の声をシャットダウンしたいが為に爆音で音楽を流しており、彼女の性格や家庭での狭苦しさを表現していて細かい心理描写に仕上がっています。要するに南夢芽には自分の居場所がない。

引き篭もりニートの「山中暦」
不登校の「飛鳥川ちせ」

「山中暦」
ガウマ隊の中では年長者でありニートです。
彼がニートになってしまった原因は、中学時代にミステリアスな少女(蓬のバイト先に先輩)と出会った事によるもの。学校の窓を石で割った不良行為紛いな現場を目撃してから、友達とは違う奇妙な関係になり、廃墟の中から見つけた大量の札束で「ここではないどこか遠くへ行こう」と誘われるものの、非行に走れる程の度胸がない暦先輩は彼女から逃げてしまい引き篭もりニートとなった今でも未練はタラタラ。

数年ぶりに彼女と出会った時は上機嫌ではあったけれど、暦先輩の目からはミステリックに見えた筈の中学生時代の稲本とはかけ離れた大人になった姿を何処か残念そうに感じており、結婚もしている事から自分との差を否めなかった。しかも、その結婚相手が自分とは正反対のイケイケおじさん。

中高時代好きだった人に対して、大人になった今でも未練がタラタラな人間は何処か一歩踏み出せない印象があるし、その時の姿しか知らないことで自然と当時の姿が理想として定着してしまい、常識人として大人になった時の姿に対して寂しさと物足りなさ、そして過去に囚われ過ぎている情けなさが暦先輩の共感ポイントだろう。
俗に言う「青春コンプレックス」だ。

従妹の「飛鳥川ちせ」は中学の人間関係に馴染めず孤立し、自分とは違ってダイナゼノンを与えられたガウマや蓬、夢芽、暦先輩の輪に入れているか不安な気持ちを抱いていた。OP映像で明らかに怪しい雰囲気を漂わせていたり、目の色が「宝多立花」と同じ色等、考察できる要素はありますが、4人の共通点は「自分の居場所がない」に尽きるんですよね

何故、ダイナゼノンに乗って戦うのか

急に話変わりますが、この作品の地味に面白い所ってなんだと思います?
個人的にはダイナゼノンを乗りこなすためにちゃんと操縦訓練してる所だと思いますね。
操縦者の意思でダイナゼノンが動くのかなと思いきや、操作する為のコックピットがあるんですよ。しかも、上手く扱える様になるにわざわざ朝方か夕方に集合して、訓練しちゃってるんですよね。
いや細かッ!って思わずツッコミを入れたくなりますが、この訓練の行程がガウマ隊の絆を深める要因にもなるんですよね。

先ほども言いましたが蓬は将来、自立するために放課後の時間を使ってバイトに勤しんでます。当然、ダイナゼノンの操縦訓練や怪獣との戦闘よりもバイトを優先する訳ですから、適当な理由を付けては訓練をサボろうとするし、昼休みの時間に怪獣が現れた時は「午後の授業は体育とホームルームだからダメージは少ない」的な会話を夢芽としていたり、序盤の段階ではダイナゼノンに乗ることに対しての優先度が低かった印象ですね。
戦うことに対しての使命感もそこまでないので、夢芽は怪獣に攻撃するとき「なんとかビーム」とか言っちゃうので緊張感がまるでないっすね笑

前作の「SSSS.GRIDMAN」では怪獣が現れたら授業中だろうと教室を抜け出してジャンク屋に向かうし、野外授業の時もわざわざ中古のパソコンを買収してわざわざ持ってくる等、怪獣と戦うための優先度がバカ高い。謎に面白い要素ではありましたが「SSSS.DYNAZENON」では怪獣と戦う優先度が良い意味で低いお陰で、謎に現実味のある会話劇に仕上がってます。
前作に登場していた内海が物語の終盤、テスト勉強に向けて計画を立てていた行動と同じように学生の本文は学業なので、怪獣と戦うこと自体が彼らにとってはハンデ

だからこそ蓬はダイナゼノンに乗って戦う理由を考えます。
戦場と化した町の風景を見て若干使命感が芽生えた蓬は、この戦いに巻き込んだガウマさんが怪獣と戦う理由を知ろうとします。この主人公像の描き方は「響裕太」ではやらなかったので、主人公としての葛藤や成長の一部が「麻中蓬」で描かれたことに若干、感心しました。割と家族や友人との関係に一定の距離を取っているので、誰かの領域に踏み込むこと自体、珍しいと思うんですよね。

ガウマさんは中々口を開きませんでしたが、最終的には「会いたい人をみつけるためにダイナゼノンで戦う」という意外な答えが返ってきました。

この第3話はガウマ隊の絆を深め戦う理由をそれぞれで見出す話だと思っています。その為に自らの目的や秘密を告白し、納得しなければ仲間同士の絆が芽生えることもなく、ダイナゼノンで怪獣を倒すことも出来なかった筈です。この行為を蓬は自然と行っていたんですよね。

ガウマ隊とは対照的な怪獣優生思想

ガウマも元々は怪獣使いで、彼らと同じ怪獣優生思想の一人でしたが、ガウマのいない4人組の目的はバラバラで怪獣を操る時は基本一人任せです
対してガウマ隊は個々の連携を駆使しながら戦い、自らの目的や意図を明かすことでチームとしての一体感を出しています
オニジャとムジナの2人で怪獣を操った時は蓬と夢芽の心情が複雑だったとは言え、敗北寸前でした。ガウマ隊の様に支援し合いながら戦えなかったことが怪獣優生思想の敗北の要因であり、戦闘が終わってしまえばガウマ隊よりも早く解散する等「こいつら本当にやる気あるんか?笑」と彼らの使命感が思ったよりも見えてこないんですよね。

勿論これは終盤の展開で面白く描かれるので、マイナス的には捉えてはいません。

夢芽が抱える姉との蟠り、寄り添う蓬

ガウマさんが自分の目的を明かしたように、夢芽もまた蓬に「自分の姉が事故で死んだ」過去を打ち明けています。表向きは事故死でも自分の中で何処か引っ掛かる違和感を解消したくて、姉が通っていた学校に入学し、姉と関係のある人達から情報収集する夢芽し始め、蓬も夢芽に寄り添うかの様に彼女の情報収集に付き合います。

元々、姉の「南香乃」とは仲が良かったけれど互いに歳が上がるにつれて、姉から距離を置かれるようになり、喜怒哀楽を顔に出さない人であったと振り返っています。
上の兄弟や姉妹から距離を置かれるという話は現実でもよくある話だと思いますが、事故で死んでしまう前に、距離を置かれていた筈の姉から定期演奏会に誘われた違和感は夢芽の中に残り続け、その気持ちを理解したいが為に姉が死んだ水門で誰かを呼んでは待たせていたのだろうと考えられますね。

最初は夢芽の意図がわからなかった蓬は次第に「姉の死を一緒に受け入れていく」関係性に発展し、蓬なりに夢芽のことを支えようと歩み寄ります。
しかし、自分の知らなかった学校での姉の一面を知っていくと同時に、事故死ではなく自殺だったんじゃないかという考えるようになり、どうにかしたい気持ちが先行し蓬を拒絶したり、無視したり、愚痴を聞いてもらったりで夢芽の繊細さ蓬の鈍感さと誠実さが描かれていました。

姉「南香乃」の形見 知恵の輪

夢芽が肌身離さず持っている知恵の輪は死んでしまった姉の形見であり、知恵の輪をカチャカチャしている時は夢芽の中に残る違和感姉との蟠りを解消したい心理描写を現しているので「SSSS.GRIDMAN」を語るうえでは外せないキーアイテムです。

前作の「SSSS.GRIDMAN」でいう所のラムネ瓶の玉です。

距離を置かれていた時から、香乃の知恵の輪に興味があったから
「この知恵の輪を手にすれば香乃の気持ちも理解できるかもしれない」
と幼い頃から思っていたのかもしれませんね。遠い存在となってしまった姉に定期演奏会に誘われたことで、再び香乃との縁を取り戻せるかもしれない僅かな希望を夢芽はずっと持ち続けているんです。

拒絶されたとしても夢芽に寄り添い続け、夢芽の口からやっと本音を聞くことが出来た蓬は思わず涙してしまい、過度なお人好しと評された彼の口から「南さんのお姉さんが、南さんの一部なら、もう他人なんかじゃない」
と夢芽の心の拠り所でいられる様に蓬は寄り添うと決心します。

夢芽もまた蓬を異性として意識し始め、今までよりも言葉数が多くなり2人の距離感はより一層近くなりました。
しかし、蓬は過度なお人好しであると同時に滅茶苦茶、鈍感なので夢芽のアプローチに全く気付けないんですよね。
他人を見過ごせないからこそ、夢芽への一方的な感情しか見えず、ストレートな言葉のみしか伝わらないので夢芽から遠回しにアプローチされても彼は正解か不正解かを考える前に受け取って行動するので「惜しいッ!」の連続なんですよ。

夢芽はいつも通りの表情を装って、遠回しに2人で花火大会に行こうと蓬を誘ってるのにも関わらず、ガウマさん達も誘おうとする等、夢芽も呆れて溜息を交えて返事をしてしまう所とか「うちの蓬がすいません」と何故か親目線で詫びたくなります。

ガウマ隊最後の欠片(ピース)

一旦「飛鳥川ちせ」を深掘りたいと思います。
彼女はダイナゼノンとの戦闘に巻き込まれた一人でありながら、ダイナゼノンに乗って戦うことは一回しかありませんでした。風邪をひいた蓬の代行としてダイナソルジャーを操縦した結果、上手く戦えず、それ以降はダイナゼノンに搭乗することはありませんでした。
居場所を失った者達が集うダイナゼノンにおいて、ちせのみ前線で戦うことが出来ず疎外感を感じており、周囲に馴染めず不登校になった過去の自分と今の自分を見比べてしまいます。
中学生にしてファンキーな服装やタトゥーに似合うデザインにハマっていたから周囲から孤立したのだろうと推測できますが、普段から隠している彼女の左腕に彫られたタトゥー(塗られたボディーペイント?)からは学校で孤立してでも、自分のアイデンティティを貫き通す小さな意地が見えてきますね。

ちせのキャラデザと人格は「宝多立花」と「新条アカネ」を足して2で割った様なキャラなので、新条アカネが特撮好きであるように、飛鳥川ちせはタトゥー(ボディーペイント)等のファンキーな物を好み、学校へ行かないことに対して完全に逃げてる訳でもないのが「新条アカネ」との大きな違いですね。

迎えに来た「ゴルドバーン」

そんなガウマ隊でも疎外感を感じていたちせの元に現れたのが、偶然拾った怪獣の種から進化した「ゴルドバーン」です。怪獣なのに人間と意思疎通が取れたり、ちせのアイデンティティが具現化されていたのは、ちせが無意識に「自分の居場所」を欲していたからダイナゼノンと合体できる姿に怪獣の種はゴルドバーンへ進化したと思います。

一番最初に触れたOP映像のちせの背後にいる怪しげな赤目はゴルドバーンでしたね。「新条アカネ」と匂わせ方は一緒だけれど、アイデンティティの貫き方は全く違うことが見て取れるので面白いです。

あんた、贅沢なんだよ

自分の知らない香乃の一面を知れたと同時に、香乃が部活では陰湿な虐めを受けていたこと、実は香乃に彼氏がいたことを事実を知ります。
香乃を助けられる存在がいたのにも関わらず、見て見ぬふりをしていた人に対して怒りをぶつける以前に自分ではどうすることも出来なかった絶望感を味わい、再び心を塞ぎ込み、歩み寄る蓬を拒みます。

今の夢芽を独りにしてしまう程、蓬が鈍感な訳ではなくて今の自分でさえも夢芽の心を癒すことが出来ないと判断し、夢芽の「大丈夫」を鵜呑みにしてしまった故の行動なんですよね。

夢芽は心を塞いだ時、誰かに歩み寄られると「関係ないでしょ」の一言で片付けがちですが、事情はどうあれ歩み寄ろうとしたちせからすると、今の夢芽は自分が欲しいもの全てを手に入れてるいます。
自分を理解してくれる存在を受け入れたり、拒絶したり、ましてやダイナゼノンに乗って前線で戦えてるのにワガママ言ってんじゃねーよ!となるのも当然。

あんた、贅沢なんだよ

ちせが夢芽に対して嫉妬を込めた喝を入れられたのは、その様な意図や立場があるかこそなんです。
蓬も同じくガウマさんから
「2人でも戻ってこい、夢芽を連れてくるのはお前にしか出来ないことだろ」
と喝を入れられ
「俺にしか出来ないことは俺がやらなきゃいけないんだ」
と蓬は自分の中で初めてダイナゼノンで戦う真の理由を見出しました。
それも喝を入れたガウマさんと同じ「愛する人のために」戦い、夢芽を迎えに行く蓬の姿からやっと主人公としての成長が描かれました。

正真正銘の青春群像劇

この日、花火大会がある事を蓬よりも早く知っていた夢芽が蓬に観て貰う為に最初から浴衣を着る気が満々だったのは言うまでもなく、一方的に夢芽に寄り添っていた蓬からの気持ちを答えるかの様に、直接表現して来なかった夢芽もまた蓬からの好意を受け入れているんですよね
蓬の線香花火から夢芽が火を分けて貰うこの演出は、先ほど自分が述べた解釈通りなのかなと思っています。これ程、距離感が縮まった2人を観れるとは正直思いもしなかったですね〜

SSSS.シリーズ総じて言えることですが、会話中に敢えて一呼吸置いたり、特徴的な仕草や言動を挟むことで謎の現実味が生まれているんですよね。
特に蓬と夢芽の会話はこのテンポ感を上手く活かして描いているので、ラブコメ作品としての完成度が非常に高くなってますね。

ガウマ隊の仲間意識が高くなる過程にご都合主義は一切なく、葛藤を繰り返し成長した登場人物達の繊細な心理描写を描くことで1人として欠けてはならない運命共同体の青春群像劇がここに完成しました。

バラバラだからこそ、
俺たちは出会えたんだ!!

そんな最高な第9話を観た上の第10話が非常に素晴らしいのです。怪獣によって、過去の自分がやり残してしまった出来事、そして過去のトラウマと向き合う話です。
夢芽は香乃の死の真相、暦先輩は駆け落ち出来なかった後悔、ガウマさんは5000年前の焼き直し、ナイト君は新条アカネとの交流。
自ら怪獣の中に飛び込んだ蓬は他4人とは違い、幻想を見る事なくダイナソルジャーを手にし、真っ先に夢芽を連れ戻そうとします。

この時の蓬がまた滅茶苦茶カッコいいんですよ。
蓬にとって母親と再婚するかもしれない男性と出会うきっかけを作ってしまった事への後悔はあった筈なんです。自動的に自分の使命を思い出すのではなくて、自分がしてきた筈の後悔よりも夢芽を救い出すことが彼にとっての最優先事項になっています。夢芽に思いを届ける為に身体をボロボロにしながら奮闘している姿は、当初からは考えられない彼自身の成長によるものです。

背中で見守る蓬

夢芽と香乃が奇跡の再会を果たした時は、下手に介入せず背中で見守り、互いに精神的に強くなったからこそ、蓬は夢芽を置いて他の仲間達を救いに行けるし、前回の失敗を最高な形で取り返せる程、男として蓬は成長しているんです。
勿論、彼は主人公としても成長しました。

「バラバラだからこそ、俺たちは出会えたんだ!」

ガウマさんのセリフを体現するかの様に主人公として、救世主として蓬は覚醒するんです。

救世主・主人公の象徴
それが「ウルトラマン」のオマージュ

希望という名の 風に乗って

丁度、当時の香乃と同い年ぐらいの年齢になった夢芽が奇跡の再会を果たします。
水門の上で「少年の日は今」を歌いこれから飛び降りる勢いの香乃を止める為、夢芽は今まで出せなかった分、ありったけの感情をぶつけて香乃の自殺を止めようとしますが、香乃自身、自殺するつもりはなかったそうです。本当に事故死だったんです。

夢芽がこれまで抱えてきた違和感と集めてきた情報はあくまで夢芽がどの様に捉えたのかによるものなので、自殺と決めつけてしまったのも無理も無い話です。実際(前回)、夢芽が水門の上で知恵の輪を落とした時、真っ先に知恵の輪に向かって飛び込んでいるので、香乃の事故死もこんな感じだったのでは無いでしょうか。

しかし、事故死だとか自殺だとか、どの様に死んでしまったのかは今の夢芽にはどうでもよくて、唯々切実に「死んで欲しくない」とだけ香乃に思いをぶつけることが大事なんです。

「夢芽はちゃんと相手に合わせられるんだよ」

夢芽の本音が爆発したのと対照的に、香乃は冷静に自分の内面を振り返ります。
高校で部活に入ってみたり、友人や先輩の彼氏を作ってみたり、夢芽と距離を置いてしまったのも自分自身が変わる為に必要だった。誰かに頼ってしまうと行為が自分の成長から遠ざけてしまうと思っていたから、先輩の彼氏にも家族にも相手にちゃんと合わせられる夢芽にも自分の本心を打ち明けることが出来なった。
今まで誰にも頼らず独りで頑張ってきた自分を夢芽に見て欲しくて定期演奏会に誘ったと解釈できます。この種明かしが本当に綺麗で泣ける。

「夢芽はちゃんと他人を頼るんだよ」

とアドバイスし夢芽は
「それは最近わかった様な気がする」
と返すんですよね。ダイナゼノンを通して蓬と言う頼れる相手を見つけたからこそ、夢芽は心を塞がずに生きている。
お互い自分のことを嫌っていると勘違いし、夢芽もまた香乃と同じ様に独りで解決しようとする様になってしまった。そんな2人が本音で話し合ったことで

夢芽と香乃の蟠りが解け、知恵の輪が解ける

素晴らしい演出でした。
夢芽と香乃が歌っていた「少年の日は今 」は香乃からのメッセージとも受け取れたりします。
互いに悪い意味で意識し合い、空回りしてきたことで、蟠りが解けた今、正々堂々と広い世界を羽ばたける様に生きて欲しいと夢芽に告げたと捉えました。夢芽がダイナウィングに選ばれたのもこれを見通してたのかもしれませんね。

因みに現実世界へ戻ってきた時は、知恵の輪は元通りになっています。ここは六花が新庄アカネに定期入れを渡した様な感覚と似てますね。ですが私は、
香乃の想いを受け取った夢芽を表現しているのかと解釈しました。香乃からのメッセージ性を受け取ったと同時に夢芽もまた「少年の日は今」を歌いながら知恵の輪を弄っているのでかなり前向きに捉えられますね。最後、香乃が歌い始める直前で途切れたのも、視聴者を差し置いてまでも夢芽にだけはメッセージを届けさせたかった香乃気持ちを最優先したメタ的な配慮なので感動しました。

怪獣の存在意義とは

怪獣が姿を現さなくなったことで、当たり前の日常が再び戻ってきました。ダイナゼノンによって日常が大きく変わったガウマ隊にどの様な変化が訪れたのか触れる必要がありますね。

夢芽は香乃との蟠りが解けたことで、改めて墓参りすることを両親に告げ、父親からは車を出そうか提案されました。娘が変わったのだから、父親としても寄り添いたい筈。父親らしいぎこちない提案からは、ダイナゼノンと言う大きな存在がなくとも夢芽をきっかけに家族同士の蟠りが解ける未来を示唆していました

引き篭もりニートだった暦先輩は履歴書を書き、スーツを探して証明写真を撮り、怪獣優勢思想のムジナとちせは焦りを覚えます。怪獣を失ったことで怪獣しか自分にはなかったことを自覚するムジナ、自分の身近な存在でもある暦先輩に影響されて制服で登校しても、ちせは一歩を踏み出せずにいる等、怪獣のいない日常への変化を怖がっています

ちせに関しては、暦先輩とゴルドバーンが自分の元から消えてしまうのは、居場所を失う様なものです

では何故、怪獣優生思想のシズムが怪獣を欲しているのでしょうか。
それは「無秩序な自由」を掴む為に必要だからです。
前作の裏主人公「新条アカネ」が怪獣を利用して神になった様に、シズムが望んでいた「無秩序な自由」とは新条アカネが築き上げた怪獣による都合の良い世界だったのでは?
怪獣の力によって、過去に捉われかけた蓬達に怪獣の存在が悪い方向ばかりに働いた訳でもなく、夢芽に関してはシズム寄りの思考に近づいていました。
しかし、ダイナゼノンによって繋がった縁を引き離したく無い蓬は、夢芽に告白します。
人間らしい感情、つまり愛によって自由の障壁が築かれることを否定するシズムは最後の手段に出ました。結果としては、怪獣優生思想は合体したダイナゼノン達によって倒され、自らの使命を終えた蓬達が最後どんな生き方を選んだのか振り返って行きましょう。

ありがとう、ゴルドバーン

ちせが導き出した答えから振り返りましょう。

暦先輩の影響を受け、学校へ再び登校するべきか悩んだ彼女なり考え出した答えは、不登校を続けること。社会人として生きて行く暦とは正反対な答え。ちせは新条アカネと似ているキャラと言いましたが、新条アカネは最終的に現実へ帰還することを選び、自分の本来いるべき場所を見出し学校へ登校しましたが、ちせは不登校を続けるんですよね。
それは、周囲に受け入れて貰うために自分のアイデンティティを隠すぐらいなら、本来の自分を貫くと決めたのでしょう。常識的に考えると不登校はマイナスに捉えられますが、彼女の場合、自分を受け入れてくれた存在と一緒に生きることが大事なんです。

その存在こそが別れを告げたゴルドバーンであり、次元を越えたとしてもゴルドバーン(タトゥー)はちせの左腕に心の拠り所として有り続けます。

新条アカネによって作られたアンチ君がグリッドマンに成り代わるヒーローとして生まれ変わったと同じ様に、ゴルドバーンも怪獣優生思想とは真逆な道を歩み誰かを救える存在になって行くのでしょう。

「あんなもん(制服)似合ってたまるか」

かけがえのない不自由とは

最終決戦で蓬はシズムと対話を果たしました。
シズムとしては蓬は怪獣を操れる素質があるのにも関わらず、愛を選び無秩序な自由への壁を作ってしまったことに理解することができないんですよね。

「俺にしか出来ないことは俺がやらなきゃいけないんだ」

と誰かを助ける為には全力を注ぐ蓬の性格上、ダイナゼノンをきっかけに繋がった夢芽を始めとする人達との関係を終わらせたくない気持ち、そして後悔や葛藤を共に繰り返せる存在がいるからこそ、蓬は「かけがえのない不自由」を選びました。

蓬と一緒に「かけがえのない不自由」を生きることになった夢芽は蓬からの告白に返事を返してはいません。しかし、あの日水門の下で蓬を待ちぼうけさせていたのとは逆で、最後は独りで待っている夢芽を蓬が迎えに来る形で今の2人の関係性を示唆しているのがとても良いですよね。

告白の返事

再びバラバラになってしまったガウマ隊ですが、彼らの身体にはガウマと同じ「S」の傷跡が出来ました。合体によって真の強さを発揮するダイナゼノンで闘ったことへの証明そして誰かと共に傷つき合いながらも、かけがえのない不自由を乗り越え生きる決意表明でもあるのかなと。

それではいつものタイトル回収でもしますか。

「SSSS.DYNAZENON」「SSSS.」の部分はガウマさん達の傷跡とちせのホクロでダイナゼノンによる繋がりを示唆していますが「SSSS.」は何を意味して略されているんでしょうね。
第1話と主題歌「インパーフェクト」の歌詞の一節でチラッと描写されているので引用します。

Scarred Souls Shine like Stars」

傷付いた魂達は星々のように輝く

前作の「SSSS」は新条アカネの救済を意味していましたが、今回は傷ついたことで教訓や美徳が得られることを伝えていますね。
そして、かけがえのない不自由を選んだ蓬と夢芽、そしてダイナゼノンと合体して戦った者達の姿と決断を現していると解釈しました。

最後は実写的な演出が入る訳でもなく、2次元という媒体で現実世界で生きる上での苦悩や葛藤に悩まされる人々へのメッセージが込められているので「SSSS.GRIDMAN」でやれなかったこと、物足りなかった描写を新しく「SSSS.DYNAZENON」で描いていました。

蓬と夢芽の笑顔から溢れ出る尊さは「かけがえのない不自由」そのものなので、ポジティブに現実を生きていきましょう。

果たしてここまで読んでくれる人が何処までいるのやら...これでも1人でも多くの人に「SSSS.DYNAZENON」の魅力を理解して貰える様に最善を尽くしたつもりです。
3/24公開の「グリッドマンユニバース」非常に楽しみですね。本質に辿り着いたとしても全力で深掘りしまくりましょう!

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