何かに誘われてセンチメンタルジャーニー

車を買って、どこかへドライブに出かけようとなったものの、行くあてもなし。
『まぁ...とりあえず走らせるべ...』と何も考えずに走らせると、国道246号線を東京方面へ。
江田駅東を左に折れて、ふらふらと住宅街を抜けて行く。
『この辺はいいなぁ...道幅が広くて』などと脳天気なものだ。
土地開発が上手にされているんだなぁとかいろいろ脳裏をよぎる。
そこで行く先々に目にする表示。
やがて、『登戸』という表示を目にするようになる。

幼い頃に住んでいた町だ。
人生最初の『モテキ』がやって来た時に住んでた町。
小学校の記憶はこの町に住んでた時の記憶がほとんど。
転校を機に卒業までは良い思い出はなくて、あったとしても空白でしかない。
この町には転校前の楽しかった小学校時代の記憶が残っている。
当時住んでたアパートや、通っていた銭湯や小学校、駄菓子屋はどうなってたんだろうかなどなど...思いはグルグルと巡る。
そして、その思いをどうにかすべく、行先は登戸に決まった。

専修大学の横をすり抜けて生田緑地へと抜けて、多摩警察署前を右折して、登戸交差点を左折。
『あれ...?こんなに狭かったか?』
当時は広く感じていたはずの道は、対向車とすれ違うのもやっとの幅で、運転が下手なヤツは左側には寄せられないほど狭い。
体が小さかったが故に体感していた大きさや広さは、それゆえの錯覚だったのだろうか。
すぐに当時通っていた幼稚園の正門にたどり着く。
地元じゃ名門で、今でも続いている。
自分らの時は願書をもらうためだけに徹夜してまで並んだほどだったというが、少子化の今はそこまではなかろう。
それでも入園者は絶えない。
そして、人生初のモテキを経験した場所、逆プロポーズまでされた。
女の子はませてるもので、肉食系なのだろうか。
しかも用意周到にうちのお袋殿にちゃっかり許しまでもらっちゃってる。
『本当にうちの子でいいの?』
『うん!』
『じゃぁ、よろしくね』ってな具合。
子供の言ってることだから大したことでもない。
ただ、その『未来の奥様ぶり』の献身は転校まで続いたから、それなりに真剣だったのかもしれない。
そんなことを思い出しながら車を進める。
よく遊んだ場所はほとんどが住宅地に変わり、広がっていた梨畑も然り。
通っていた小学校は地元じゃ古く、創立は140年を超える。
当時は裏門があって、裏門の真ん前に住んでいたアパートが建っていた。
銭湯はなくなってしまっていて、閑静な住宅街になってしまっていた。
この地に留まっていれば、いるであろう未来の嫁の家は貸家だったのだろうか。
跡形もなくなってしまって、見知らぬ人の表札がかかった立派な門構えの家が建っていた。
当時にしては『大冒険』だったはずの距離は案外に短く、大冒険へ臨んだ場所も点と線で結んだら大した面積にもならないことを知る。
『意外と狭い中で遊んでたんだなぁ...』と。
コンビニなんてなかったのに、今ではあるし。
『変わっちゃって当然だよなぁ...なんだかんだと40年以上は経ってるんだし』と缶コーヒーなんぞをすすりながらコンビニの駐車場で一息つく。
未来の嫁もどこに行ったのかは知らぬ、知ったところでどうにもならぬ。
どこかで良い人に出会って幸せに暮らしてますとさ、めでたしめでたしであれば良し。
そんなことを思い登戸を後にして、多摩川沿いを川崎方面に進めた。
ちなみに...それ以降はモテキは来ていない。

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