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手のひらに君の季節を

「閉じ込めちゃったの。私の一番好きな季節だから」

そう言って笑う彼女の手の中。

透明な球体の中で、紅葉が舞っていた。


「ブ、ガァ」「ヒッ!」

隣のクラスの不良が迫ってくる。

伸びた指先は透明だった。顔の全部の穴からも透明な結晶が『生えて』いる。
「くるな!」
校舎の壁が背中に当たった。

ザラリとした感触。結晶を生やした生徒が増える。

「ダ、ズゲロ」「来るなぁっ!」

「葉月吉雄!」

久し振りに名前を呼ばれた。

「伏せろ!」

ガシャアァン!

ガラスの砕ける音が響く。

同級生だった物は、キラキラ輝く破片になっていた。

鋭いそれが手の甲に刺さり、血が零れ落ちる。学校で流血するのは三日ぶりか。

「あ、あぁ」

「しっかりしろ」

迷彩服の男が歩いてくる。重そうなブーツが散乱した破片を踏み砕く。

男はため息をつくと、吉雄の手を取った。

硬く太い指が繊細に手当てしていく。

「深くは刺さってない。大丈夫だ」

「ありがとう、ございました…」

強烈な日差しが溢れた涙に反射して目が痛む

乾燥したグラウンドには自分達以外誰もいない。

「気持ちはわかる」

「え…」

自分に話していると思わなかった。

傷だらけの手がシリアルバーを差し出す。険しいと思った男の顔は、よく見ると若い。

「状況が滅茶苦茶だ。だが、この状況を打破できる手掛かりは今のところ君しかいないんだ」

キミシカイナインダ―アニメやマンガによくあるセリフだ…

もそもそとシリアルバーを噛みながら考える。
校門の向こうには透明な柱が突き刺さった風景が見える。

「松田秋絵と知り合ったのは?」

「お、幼馴染みです。6歳から一緒でした」

よっちゃん、輪唱しようよ! あーきのゆうひにー

「いつも一緒でした。中学で別になっちゃったけど」

「嘘だな」
男の声は硬い。

「この市に松田秋絵という人間は存在しない。」

ウソ。こっちがそう言いたい。

「アレを作り出したのは松田秋絵なんだ」

青空の真ん中。茜色を閉じ込めた巨大な球体が浮いていた

【続く】

 

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