ドイツ・ベルリンでの撮影現場における Covid-19 対策ガイドライン
コロナ禍により世界中が日常生活や経済に大きな影響を受ける中、ドイツ・ベルリンにおいてはコロナ対策を講じた上で撮影が許可されるという発表がありました。それに伴い、撮影現場におけるガイドラインが EUFCN (European Film Commisions Network)から発表されましたので、要点をまとめていこうと思います。
出典:bbfc ( Berlin Brandenburg film commission )ホームページ https://www.bbfc.de/WebObjects/Medienboard.woa/wa/CMSshow/1011318
EUFCN 資料 (英文)
この対策は大きく分けて4つのフェーズに分類されます。
①感染データの収集
②リスク分析
③対策の確立
④実施計画 - 誰が/いつ/どのように/どのような責任で
その上で、製作者は10の基本的なルールに則り撮影をしなければなりません。また、このルールに従わないクルー及びクライアントは撮影現場より退去しなければなりません。以下に要点をまとめたいと思います。詳細が必要な方は上記のリンクより資料をダウンロードして下さい。
ルール1:俳優と関連する職業のための基本対策
メイン俳優およびメイン俳優と接触する俳優・エキストラ・スタントマン・ボディダブルは、全てCovid-19陰性検査を行わねばならず、これは簡易検査であってはなりません。
エキストラは撮影以外は専用の待機場所を用意し、待機中は必ずマスクを着用します。また、俳優と2m以内に入るエキストラは他のエキストラと区別をし俳優同様に事前検査を行います。
メイクアップはメイン俳優とエキストラのメイクアップを別途用意しなければならりません。可能であれば、それぞれにスタッフを配置する事。また、必ずマスク・手袋等の保護具を着用する事。
ルール2:個人用保護具 (PPE)
個人用保護具(以降PPE)とは、マスク、Respirator(呼吸補助具付きのマスク)、手袋の事を指します。
まずは、どのような保護具を配布・交換・管理するか決定します。現場に出入りするスタッフは全てPPEを着用しなければなりません。12時間の長い撮影の場合、マスクは1人につき4枚配られるべきです。また、使用されるマスクはFFP3クラスのRespiratorが推奨されます。これは、安全面だけでなく繰り返しの使用が可能でありコスト面においても利点があるためです。
ルール3:個人的な消毒
まずはPPEと同様、配布・交換・管理の計画を立てます。撮影する場所が広域にわたる場合、クルーはベースに戻って消毒する必要が無いようにポケットティッシュや携帯消毒液を携帯しなければなりません。また、消毒液を撮影場所の各所に置かなければなりません。
公共空間や人が密集する場所はスプレーによる空間消毒が必要です。また、クルー・俳優が使用する車両、メイク・衣装スペース、俳優が着用する衣装は消毒が必要です。
ルール4:撮影現場での区別
スタッフ・キャストそれぞれの接触を最低限にするための場所を確保し、可能な限り区別します。
食事は十分なスペースがある必要があり、長椅子よりも個別の椅子が望ましいです。特に、交代がいない俳優・メインクルーは他のクルーと区別されるべきです。セットに出入りする人間は最低限に抑え、搬入出は専用の場所を確保し、搬入された荷物は消毒されなければなりません。
ルール5:体温測定
撮影開始前に全てのクルー・キャストは体温測定を行なって下さい。撮影中に入ってくる外部業者や人員においても必ず体温測定が必要です。体温は、各国の保健当局の基準に従って下さい。
ルール6:ケータリング
ケータリングは軽食も含め、各自が社会的距離を保ちながら各自の元に持ち帰って食事を取れるようになされなければなりません。全ての食事が梱包されていれば、複数のケータリング場所を用意する必要はありません。
ルール7:撮影場所の安全性の確保(撮影時およびロケハン時)
撮影時:許可されていない外部の人間が撮影現場に入ることがあってはなりません
ロケハン時:全ての場所は汚染されていると考え、PPEの着用が徹底されなければなりません。
ルール8:ルールの文章化
各制作会社は全てのクルー及びクライアントにリスクアセスメントを実施する事を要求しなければならず、撮影前にリスクと対策を熟知し、書面化して署名などで確認されなければなりません。
この確認作業及び事前のCovidテストの義務は従来の損害賠償責任と同様になされるべきです。これは、パンデミック以前とは業務フローが根本的に変化している事を周知する上でも重要な作業です。
撮影現場には以下のような案内板を設置する事を推奨します。
ルール9:撮影中の管理者
全ての対策は、映画安全の専門家、労働安全衛生管理者(OHS)、または訓練を受けた権限のある者によって調整・監督されます。
もっとも権限がある映画安全の専門家は撮影現場の技術的・芸術的な課題に対し実効性のあるリスクアセスメントを適応させ、文章化し監督する能力と資格を持ちます。
OHSは上記の対策に対し、あくまで芸術的な観点を除いた安全衛生の対策の助言・修正を行うことができます。
訓練を受けた権限を持つ個人(一般クルー)は、作成されたチェックリストを遵守・監視する権限を持ちます。
ルール10:廃棄物管理
使い捨てマスク、手袋は有害廃棄物として扱われなければいけません。布製マスクを使用する場合は、密閉できるビニール袋、煮沸消毒できる体制を用意しなければなりません。
以上が、遵守すべき10のルールになります。
個人的に印象に残ったのは、衛生管理専門のスタッフを配置して現場の安全対策を策定・管理させ、それを文章化した上で撮影前に必ず全スタッフの同意を取るという点です。
感染対策に関しては、すでに各国で草案が出されている内容とあまり変わらないかなと感じていますが、これを現場で周知徹底させるためには専門の職種が必要になるという事でしょう。
この考え方がある背景には、欧米各国の撮影現場においてはコロナ以前から必ずOHSという安全管理専門のスタッフが配置されていた事があるのではないでしょうか。日本においては場合によっては制作部・車両部など手空きのスタッフが行なっていた、現場の衛生・安全管理という作業を見直す良いきっかけになるかもしれません。
ウィズコロナの環境下における撮影はこれまでとは全く違ったルールのもとで進める必要があります。旧来の日本の撮影システムにこだわる事なく、コロナも含めた全ての現場での安全対策が改善できるような根本的な改革の時なのだと思います。