4月13日のにっき



大学の食堂前、黒いカバンが落ちている。

落ちているは幻想的すぎるかもしれない。

空から降ってきたとか無から突然現れたわけではない。黒いカバンは完全な日常の一部で、大勢の学生が見逃しているし、数人の学生がカバンを一瞬見たとしても瞬きした次には昼ごはんを何にするかという方に意識は戻っている感じに存在感は薄い。


だから落ちているというより置いてある。
黒いカバンが大学の食堂前、営業時間の案内看板の横に置いてある。置いてある。

それが当たり前みたいに置いてある黒いカバンが、もし爆弾だったらどうする。

全国各地の大学に爆破予告が届きすぎている。今、予告の数と爆弾の数を天秤に乗せたら予告の方に傾く。このまま予告が嵩むと天秤は倒れて天秤じゃなくなる。天秤のもう1つの方に爆弾があるから予告に恐怖が伴うのであって、そのバランスが崩れてはいけない。

誰も爆破予告を怖がらなくなるし、大学の講義は休講にならない。そんなの予告もやりがいがなくなるし学生も真面目に登校しなきゃならなくなる。
そんなのは嫌だ! だから、予告に負けないように爆弾魔が爆弾を予告なしに置いてくれている。目立ちすぎて爆弾の方に天秤が傾いてしまわないようにこっそり数人が「そういえば爆弾置いてあったな」と思うくらいの存在感で置いてくれている。

その思いやりを無駄にしないよう、私は置いてある黒いカバンの中身は見ない。記念撮影だけして食堂に入る。

カレーを食べる。

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