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ショートショート 誕生日パーティーにきて


 来週の日曜日。その日は私の誕生日。おうちで誕生日パーティーを開いてもらえるの。今年はいつもより特別な誕生日だから、盛大にお祝いしようって家族も言ってくれたんだ。綾子とひなちゃんが色々計画を立ててくれてる。他にも何人か来てもらおうって。
 といっても大きいおうちじゃないから、仲のいいよっちゃんとあきこちゃんに来てもらえたら充分かな。

 それと。

 ずっと気になっていたタカさんにも来てもらえたらなぁって思ってる。できたら彼を誘いたいんだけど、でも恥ずかしすぎる・・・!
なのによっちゃんは電話して誘えばいいって簡単に言うの!みわちゃんの誘いを断る男はいない、だなんてからかって・・・!
他人事だと思って、もう!

 だけど、タカさんにきてもらえたらどんなに幸せだろう。でも、私から誘うなんて恥ずかしくてできない。断られたら私、もうクラブに行けない!
今年はやめようかな。
でも、来年はわからないな・・・・。

 もじもじしてる私を見かねてひなちゃんが、
「もう!そんなんなら私が電話しちゃうよ!」と、すまほを操作しだした。


 「あっ、まってひなちゃん!じ、自分でかける!」
すまほの画面をじっと見て、タカさんの番号をおそるおそる押してみる。
ゆっくり押したのに、あっという間に電話のマークを押すだけになった。
心臓がドキドキして苦しい。やっぱりだめ!

「それ押さなくちゃかからないよ!」

 ひなちゃんの声にびっくりして、指が電話マークに触れてしまった。

するとすぐに呼び出し音が聞こえた。かけてしまった!

「はい、高瀬です。」

素敵な声が聞こえる。

「あっ、タカさん!こ、こんにちは。みわです。」
「おぉ、三輪さん。こんにちは。どうしたの?」

こうなったら言うしかない!

「実は、来週の日曜日に私の誕生日のパーティーをやるの。もしよかったら遊びに来ない?」

い、言った!!!

「それはおめでとう!ぜひ行くよ。」
「あ、ありがとう!嬉しい!」
「楽しみにしてるよ。プレゼント、何がいい?」
「プレゼントはいいの、来てくれるだけで。」
「そんなわけに行かないって笑。駅前のクリームどら焼き、好きだって言ってたね。花は何が好きかな。」
「えっと、バラ・・・。ピンクの・・・。」
「了解。来週の日曜日ね。」
「うんっ・・・。」


気が付くと、電話は終わっていた。

 頭が真っ白で、そのあとのことは覚えてなかった。
なにか言葉を交わしたと思うけど、わからない。
心臓はまだバクバクしてる。呼吸を整えて顔を上げると、ひなちゃんがぴーすを向けてきた。

「ばぁば、最高の誕パにしようね!」

 孫の可愛い笑顔に、やっと私の心はほどけていく。

台所の娘、綾子もいたずらっぽく笑っている。

来週の誕生日が来ると、私は七十七歳になる。
そう、喜寿のお祝いよ。だから今年は特別なの。


思わず私もぴーすをすると、三十年前に旅立った夫の遺影もニヤッと笑ったような気がした。




 高校生の女の子が、憧れの先輩を誕生日パーティーに誘う話かと思いきや・・・。というお話でした。
恋する気持ちに年齢はないと思い、書きました。

ひなちゃんの「すまほ」を借りて気になるひとに電話をかける三輪さん。いいえ、みわちゃん。
不安のあまり、今年は諦めようとするも、来年の誕生日の保証はないと、ふと正気づくところがジワジワきます。
ちなみに彼女の言う「クラブ」はいきいき健康クラブです。よっちゃんとあきこちゃん、もちろんタカさんもそこでの仲良しです。

四十代半ばで夫に先立たれた彼女の淡い恋心を、孫も、娘も、そしてきっと亡き夫も応援してくれている。
そんな、なごやかな一瞬を切り取りたくて書きました。
これを書けたのは、私のまわりでは「自分が先立ったら、次の人生を考えて欲しい、遠慮無く幸せになって欲しい」というひとが多かったことと、その時その時の幸せを大事にできるようにいたいなという自分の考えからです。
添い遂げたい、添い遂げて欲しいというひとの気持ちも大事にしながら、色々と考えて行けたらと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

峰 筋子



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