アナログバイリンガル
「俺、こいつと喋れるんだ」
掌にカブトムシを乗せて、少年はニッカリ。
「じゃあ、今カブトムシがなんて言ってるか教えてよ」
少年はフンフンと、たくましく光る甲虫に耳を傾けた。
「早くバトルしてぇぜ!だって」
「対戦相手は?」
また子供の冗談だろと思っていると、少年はポケットからチョークを出してコンクリートに何か書き始めた。ミミズみたいな線がうようよと書かれている。
するとカブトムシが突然私の肩に乗ってきて、角をグワッと上に持ち上げた。
「ああ、クワガタらしいよ」
少年はまたコンクリートにうにゃうにゃとチョークを走らせる。
「もしかしてそれ、カブトムシ語?」
「そ」
「君自身はしゃべれないの?カブトムシ語」
「あ~無理無理、こういう通訳しかできない。種族が違うからね」
「種族とか言っちゃうんだ」
ひととおり字を書き終えると、カブトムシが私の肩を離れ、少年の頭の上に乗った。
「ふんふん」
「今度は何?」
「お姉さんに惚れたらしい」
「ええ」