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20世紀最後のボンボン 第一部 東京篇 第十三章 思い
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そうこうしているうちに私は究極の気晴らしを見つけた。
毎日新聞社が「人間と教育」というタイトルで論文を募集していた。これは400字詰め原稿用紙に50枚程度、書けばよかった。私は夢中で書いた。今の日本に足りない教育とは人間についての考察がなされていないからだと論じた。
ボンボンもいろいろアイデアを出してくれた。たとえば、
小学生に田中角栄の顔を見せて、好きか嫌いか言わせる。その理由もちゃんと説明する時間を与える。そのように自分の意見を発表する時間をもたないと、日本人は永遠に人前で自分の意見を言えなくなると熱く語りだしたりした。
私も渡辺淳一の「遠き落日(野口英世伝)」を持ち出してきて偉人といわれる野口英世の人間らしい面も一緒に教えることでどれほど救われる生徒がいると思うかと論じた。
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遠き落日(上) (講談社文庫)Amazon
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遠き落日(下) (講談社文庫)Amazon
私たちは夢中で書いた。
ほとんど書き終わったころ、ボンボンはまた旅行を計画してきた。今度は夏の旅行である。
家庭教師業にとって、夏休みに休むなどもってのほかである。私もこの職業に就いて以来、夏休みに旅行に行ったことは数えるほどしかない。指導している家庭からも反発が出た。それでも、私もここまで尽くしてくれるボンボンに答えないわけにいかなかった。
博多 天神の地下街をまず見に行った。
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と熊本城
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と倉敷
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と大阪に出かけた。
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大阪では主にプールで泳いでいただけだった。
が、いい骨休めにはなった。
ボンボンは会社を辞めたがっていた。
私はボンボン一人くらいなら養えるから
いつ辞めてもいいと言った。
9月になって、私たちはまた旅行に行った。
今度は仙台だった。
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戻ってきて、病院に検診に行くと
妊娠が確認された。
今度こそ、ちゃんとお母さんになってみせると
決心した。そしてボンボンも会社を早期退職した。
第十四章 ママ、お願いだから、卵、食べてね。
に続く
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