20世紀最後のボンボン 第十部 ヨーロッパ テーマ旅行 第十章 イタリアの真実
イタリアでの最初の夜が明けるとおそらくは昨日と全く変わらない朝がやってきた。これは年を取るとわかることだが、たいていの場合、昨日も今日も天気に変わりはないし、今日がそれほど特別だという場合は少ない。カリフォルニアもそうだが、本当に何もないただ晴れた日が続く。若者はそういう風に考えない。カーっと晴れた日に期待一杯で、外に繰り出していく。
その日の通訳は日本語の上手な、けれども英語も流ちょうな古風なイタリア美人であった。彼女は20代で、ナポリで生まれて育ち何かの翻訳を仕事にしていた。けれども、こういう観光案内がお金になるので、日本からの観光客が多い、場所ではよく泊りがけで働いていると言った。
年の近いカンクン君がいたせいか、話が最初からかなり弾んでいた。
まず、ソレントに向かった。
アマルフィから西に19キロで、ちょうどお昼になるころ、「帰れソレントへ」というカンツオーネで有名な歌手をたたえた有名なレストランがあって、お店の入り口も大変いい感じだったので、そこで昼食にした。彼女はお昼は一緒にいないというので、一緒に選んで楽しく一緒に食べよう。もっと話が聞きたいからと言って、引き留めて、さらに話をし続けた。
彼女にはボーイフレンドがいて、そのうち結婚するということだった。東京にいたときはボーイフレンドはいなかった。それは日本の男性は筋肉がなく、女性のようだからだとはっきり言っていた。当時、松潤が人気だったが、彼女には女性にしか見えず、なぜもてるのか全然理解できなかったということだった。これは2000年初頭の彼女の経験なので、今の東京であれば、もう少し筋肉ムキムキの男性がいるのかもしれない。それに日本のライフスタイルはクレイジーだと思うといっていた。自分の生活が全くないから、東京に残るというのはあり得ないと言っていた。給料は比較にならないほどたくさんもらえる。けれども、好きなタイプの男性がおらず、夜中まで全員働いて、遊ぶ文化がない東京にいるのは彼女の描く人生とは違うということだった。イタリアでは女性が仕事をもって、たとえば、ローマで一人暮らしをしていくというのは、ほぼ絶対に可能性のないことだとも言っていた。
「ではそれほどの能力を持っていながら、一生、ナポリにいるのか」
と尋ねると躊躇なく
「そうだ。」
と答えた。
家族と一緒にいると、物質はそんなにいらないのかも?
とも思ったが、カリフォルニアの生活を思い出すと、家族ごと物欲にまみれているし、家族ごといろいろな地域に引越しをするので、
また違うカルチャーを見た気がした。
確かにイタリア人の子供が珍しいシャープペンがあるからと言って、それを競い合って買うというのはなかなか想像しにくいかも、と思った。アジアだとちょっと違うかな。
携帯でも、確かに世界中ではやっているかもしれないけれども、携帯にいろいろおもちゃみたいなものをくっつけるのは国でいうとかなり限られているかも、と感じた。
そして食事が終盤に差し掛かった時にミルクの話になった。
イタリアではミルクは子供が飲むものだから、大人は飲まないし、
仮に飲んでも午後3時までだ。という。
カンクン君もそういえば、ミルクは牛の体液だから、もう飲まないといって、高校時代くらいから飲まなくなった。それまでは2リットルのものをラッパ飲みしていたこともあったように記憶しているが。
大人はエスプレッソを飲む。子供はミルクを飲む。午後3時ころのおやつのころはカプチーノを飲むことはある。そうだ。
もちろん、カプチーノがイタリアで生まれたからと言って、日本で飲むときに、イタリアのやり方で飲まなければいけないということはないが、大人はミルクを飲まないということの後ろ側には、その国なりの理由があるのだとは思う。それがミルクの成分は成人にはいらないという判断なのか、何か別の文化的な習慣なのか、その両方なのかはわからないが、面白い話だと思った。
そしてポジターノに行った。
なんとなく街の様子で、スペインのセビリアを思い出したのは、お店で売っているお皿の感じが似ているせいか。
セビリアに行ったのは結婚前の初めての海外旅行でスペインに行った時
なので、そんな前の景色も人間は覚えているのかと感慨を覚えた。カリフォルニアでもイタリアのお皿の店は見たが、思い出さなかった。お皿をたくさん不規則に壁に並べるというのは日本では見たことがなかったし、カリフォルニアではむしろ写真を壁にたくさん並べているのを見た、かな。
道が混んでいたので、アマルフィ自体はまわれなかった。
けれども、とても充実した一日で、しゃべり倒した疲れで、
よく眠れそうだった。
20世紀最後のボンボン 第十部 ヨーロッパ テーマ旅行
第十一章 そしてカプリ
に続く
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