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1-1 その子供、要注意?




「……あれ…ここ……どこだろ…」

 そもそも、さっきまで、何してたっけ。

 少し考えて、思い出せる気がしないと思った。つまり、特に何もすることがなくなった彼女にとって、この時は睡眠の時だと確信する。

 寝よう。

 そう思ったときだった。視界に突然光がさす。


「……見つけた……!」


 微かに聞こえたその声は、彼女の記憶にはない。

 誰だ?


「やっと……見つけた………!」

 声音から、随分と長い間探していた何かを見つけたのだろう、と推測した。

 なにか落としたのかな…300円とか……。

 300円を甘く見てはいけない、なんて考えている時だった。

「探していたんだ………!君の…………コトを……!!」

 間違いなく、その声は彼女に向けられたものだった。


「ふぁ?」


 その声に、何か答えねばと思った。結果、随分と間抜けな声が出てしまった。

 辺りはおなじみの教室の光景が広がっている。黒板にはいくつかの英文に解説が加えられていた。

「あぇ……?」

 どうやら先程の風景は夢だったらしい。夢から覚めた彼女――村崎りんごは、ちらりと黒板の上にある時計を見た。

 授業終了20分前。

「なんだ…まだ終わってないのか……英語…」

 つい、呟いてしまう。

 りんごが授業中、特に英語で寝ることは日常と化している。
 勿論、良くないことに決まってはいるが、先生は注意しない。またりんご自身も、今日は例外ではあるが、一度寝てしまえば授業が終わるまでぐっすりである。

「………」

 20分もあるのだ。寝よう。

 決心したりんごは、まぶたをシャットアウトする。

 それから残りの授業は特に何事もなく終わり、りんごは真っ直ぐ帰路についていた。

「ッはぁ〜〜〜ッ!やーーーーッと学校がフィニッシュだぜ〜っ!」

 特に誰もいない中、一人叫ぶ。

「今日も快眠快眠…あとは帰って寝るだけですなーっと〜。レッツホームスリープ! グッスリープ!」

 我ながらいいワードを生んだと、謎の達成感を感じながら帰路を歩く。

「おい、おねんねすんな、毒リンゴ」

 聞き慣れた声。いや、聞き飽きた声。

「何気に小学校のあだ名のまんま呼び続けるの、あんただけだよ、あおばクン」

 あおば。りんごの幼馴染みの山江あおばの声だった。

「あだ名もなにも、お前は立派に毒リンゴだろ。紫リンゴで毒リンゴ〜だ」

「言い方ムカつく。なによ、チビのくせに」

「なんだと!」

 そう。彼は文字通りチビなのである。りんごの身長は151cm。あおばは147cm。

「あははははははは!まずはアタシの身長を超えやがれ!悔しかったらなッ!」

「こンのヤロォォオオオオオ……」

 あおばの成長期に期待しよう。

「ってオイ、りんご!」

「へ?」

 あおばの突然の声がした。それからすぐに、衝撃が走る。

「ちっちゃい子とぶつかったぞ、お前…」

 あおばの言うとおり、衝撃の近くにはあおばよりさらに小さい子供。白い紙に白い肌。とにかく白を印象付ける子供だった。

 ゆっくりと顔を上げた子供の瞳は、不思議な色合いを持っていた。あどけなさの中に、神秘的なものをどこかから感じてしまう。

「―――光の戦士…!」

「へ?」
「は?」

 子供から発された言葉に、間抜けな声を出してしまった。

「やはりまだ……人間に宿っていたのだな…よかった……」

 格好に似合わない大人びた声音と話し方をする子供に面食らいつつ、あおばは子供が何者なのかと疑念を抱く。りんごは夢かと思い直す。

「私は『光の戦士 ルミエル・クルール』を見出すモノ、イルミネ。これは夢ではない。夢であるはずがないんだ」

「夢じゃないのぉ!?」
「なんで俺の思ったこと答えるんだ?!」

 間抜けな声に続いて二人は思うがままに驚きをみせた。

「私は戦士達の思うことはわかる。伝わってくるのだ」

 当たり前のように、自分達を知った人と扱う子供の奇妙さに、あおばは鳥肌を立てた。

「おいりんご! に、逃げるぞ!」
「えっえっ」

 返事も聞かずにりんごの腕を掴んで、自分の方へ引き寄せる。子供から離すように。

「うぉっ、おうッ!」
「! 待ってくれ」
「ハイッ!」
「馬鹿ッ! 行くぞ!」
「ハイッ!!」

 やたら返事がいいりんごを引っ張りながら、あおばは全力疾走した。