目覚めた裸足のシンデレラ ~ Secondo viaggio 第2章「暗礁のゲネラルパウゼ」
はじめに:Secondo viaggioについて
スマートフォンアプリ「金色のコルダ スターライトオーケストラ」(通称:スタオケ)における長編シナリオシリーズ「Secondo viaggio(通称:SV)」について、紹介と感想を兼ねて書く。Secondo viaggioはスタオケのメインストーリーの続編であり、スタオケのメンバーたちがそれぞれの音楽と人生に向き合っていく青春物語が描かれる。
Secondo viaggioのストーリーはイベント形式で配信されていくが、基本的に「最新章のみイベント報酬として解放される」仕組みであるため、最新章以外のストーリーは常設されている。閲覧にはアプリのホーム画面の ストーリー > イベント > SV へ遷移する必要がある。
Secondo viaggioのストーリーはイベント形式で配信されたが、オフライン版では1~11章まですべて解放されている。閲覧にはアプリのホーム画面の ストーリー > イベント > SV へ遷移する必要があるが、イベントへの参加・不参加を問わず、オフライン版をインストールしたすべてのユーザーに解放されているコンテンツである。
本記事ではSecondo viaggio 第2章として配信された「暗礁のゲネラルパウゼ」について書く。メインストーリーの続編の物語なので、メインストーリーやその他イベントストーリーの内容を踏まえる、つまりネタバレを含むことをご了承いただきたい。
ストーリーライン概観
全休止の春休み
Secondo viaggio 第1章の終盤で、世間から“スタオケの国内予選優勝の妥当性”についての疑義を突き付けられたスタオケ。スタオケとその出資者である日本オーケストラ協会に不利な報道が各メディアで取り沙汰される中、メンバーたちは菩提樹寮で悶々と過ごしている。
一連の情報の発信元をたどると、「全国シンフォニー連盟」なる団体が、日本オーケストラ協会の腐敗について国際オーケストラ協会に訴え出たことに始まるらしい。そのひとつが、前年末に開催された日本代表選考会(メインストーリー第9章)の不正疑惑であった。
スタオケメンバーにやましいことはないが、それを世間に信じてもらえるかどうかはまったく別の話。スタオケにまつわる報道を見た一般の人たちも、SNSで疑惑を増幅させるという悪循環を作り上げていく。
――そんな中、一ノ瀬銀河から呼び出しがかかる。
木蓮館に向かう途中、ゴシップ記者の突撃取材に見舞われるスタオケ。銀河との関係、朝日奈のコンサートミストレスとしての資質についてぶしつけに尋ねてくる。凛&流星のアイドルコンビの機転で鮮やかに危地を脱したものの、スタオケの面々を待っていたのは、「無期限の活動休止」の通達だった。
要するに、日本オーケストラ協会に対して強まる批判を躱すための話題逸らしとしてスタオケが使われるということになる。
従いがたい通達に怒りを露わにするメンバーたちだが、銀河はただひとり前向きに「これは世間に信じてもらうための期間」「個人練習をがんばって、活動再開時にパワーアップしたところを見せてやろう」「春休みなんだから自由に過ごせ」と諭すのだった。
それから一週間が経過。高校を卒業したメンバーたちは進学の準備を進め、星奏学院以外に所属する下級生たちは帰省したことで、菩提樹寮は静穏に包まれる。寮に残った朝日奈はというと、ガラコンサート以来、ヴァイオリンから遠ざかってしまっていた。
朔夜とともに補習を受けた後、朝日奈は正門前で篠森と遭遇する。聞けば、スタオケの活動休止に伴う事務作業に追われており、銀河に至っては日本オーケストラ協会から外出禁止の要請が下っていること(先のゴシップ記者のような連中に絡まれないよう銀河を守る意味もある)、さらにそんな状況で銀河への連絡がつかなくなっていることを聞かされる。
銀河は、名指揮者として活躍していた頃、心を壊し失踪した過去がある。銀河を心配した朝日奈は篠森から銀河の住所を聞き出し、彼のもとを訪ねることにした。
魔法使いの家
翌日、銀河の自宅を訪ねた朝日奈。銀河の無事、銀河の音信不通の理由がスマホ水ポチャであることもわかったが、銀河のことをさんざん心配した朝日奈の心情は穏やかでない。
篠森から託された書類の確認作業を待っていた朝日奈は、1週間会っていなかった銀河に、ヴァイオリンをしばらく触っていないことを指摘される。銀河に諭され、朝日奈は自分の「音楽が好き」「ヴァイオリンが好き」という思いが揺らいでしまったことを吐露する。
銀河は、息抜きにピアノで連弾しようと持ち掛ける。曲は「ガヴォット」。初心者向けで、かつ銀河と朝日奈の出会いにまつわる楽曲だ。
銀河は大学時代、ヴァイオリン教室を開いていた叔父の自宅に居候していた。そのヴァイオリン教室に習いに来ていたのが幼き日の朝日奈唯だ(残念ながら朝日奈からすると忘却の彼方のようだが……)。大学生の銀河は、「ガヴォット」に朝日奈とともにさまざまなアレンジを加えて弾きこなし、小学生の朝日奈を喜ばせた。楽しくなって興奮した朝日奈は、「お姫様になった気分」「童話に出てくる魔法使いは、よくお姫様に魔法をかけるから」と話した――――
それらのことを思い返した現在の銀河も、「アイスで当たりが出て店へ戻る時のガヴォット」を初め、さまざまなアレンジで「ガヴォット」の演奏を繰り広げる。銀河の伴奏をつけることで、「ガヴォット」が別物に変化する――まるで魔法のように。朝日奈にとっても、銀河にとっても、あのとき奏でた「ガヴォット」は、音楽の楽しさと音楽への愛を思い起こさせる宝物のような音楽だったのだ。
「音楽が好き」でつながる、「音楽が好き」がつながる
銀河と様々な曲を弾くうち、「ヴァイオリンを弾きたい」という感情が再び生まれてきた朝日奈。それを受けた銀河は、朔夜を電話で呼び出し、元町通りで突発路上ライブを行うことにした。
演奏したのは、モーツァルトの「ピアノ四重奏曲第2番」。スタオケが初めて活動を開始した頃(メインストーリー第1章)、人数が少ない中で演奏した曲だ。明るく華やかなハーモニーに、元町通りのギャラリーは好意的な歓声と惜しみない拍手を浴びせてくれた。
ずっと朝日奈のことを心配していた朔夜は、朝日奈の笑顔を見て安堵する。「諦めたくない」と述べる朝日奈に賛同し、彼もまたスタオケの再生を誓う。
翌日、元気を取り戻した朝日奈は、さっそく日本オーケストラ協会へ陳情の手紙を書き始め、成宮もスタオケのWebサイトの更新作業を進めていた。一方、竜崎は昨日の朝日奈・朔夜・銀河の路上ライブの演奏動画が観客によってSNSに投稿されているのを発見し、憤然とした様子で食堂に駆け込んでくる。
竜崎は、朝日奈らが勝手に演奏活動をしたことではなく、しばらく練習していなかった朝日奈の“無様な演奏”を叱責する。朝日奈・成宮・竜崎の3人は、木蓮館で香坂と合流し、ともに練習や清掃に励むことになった。香坂を含む3年生たちも、「スタオケのために何かしたい」と模索していたのだという。
5人は改めて「ピアノ四重奏曲第2番」のアンサンブル演奏を行い、その様子を撮影した動画をSNSに投稿することを思いつく――作曲者と曲名、そしてたった1行のハッシュタグを添えて。
さよならの手紙
一方、日本オーケストラ協会の理事会に召喚された銀河。彼は理事たちからスターライトオーケストラの活動再開を条件つきで認めるとの通告を受ける。その条件とは、一ノ瀬銀河がスタオケの音楽監督を外れることだった。
銀河は即答せず、協会を辞した後に沈思する。この騒動はスタオケだけでなく、協会の理事や銀河にまで矛先が向いており、形だけでも誰かが責任を取ったことにして事態を収束させたいというのが協会の意向だろう。とはいえ自らが音楽監督を外れなくとも、数ヶ月待てば騒動は鎮静化し、スタオケが活動を再開しても問題ない状況が整うだろうと、銀河は推測する。
高校生・大学生の“数ヶ月”の大切さを、銀河は先日スタオケメンバーに説いたばかりだった。自分が音楽監督の座にしがみつくことでスタオケメンバーの貴重な時間を空費させるとしたら、それは銀河にとっても不本意なことでしかない。
考えながら、銀河は予定通り篠森と待ち合わせていた店に向かう。が、彼を待っていたのは篠森だけではなかった。
リーガルレコード社長にして成宮智治の実姉・小百合は、星奏学院高校出身で、銀河&篠森の先輩にあたるようだ。彼女は先般亡くなったイグナーツ・ザイドルから銀河に宛てた手紙を託されており、それを渡しに来たのだという。学生時代から銀河に目を掛けていたザイドルは、銀河が音楽からいっとき離れたことを惜しみ、再起を促す内容の手紙をしたためていた。手紙を読んだ銀河は、改めて篠森に自らの進退について相談する。
銀河にとって親友であり、スタオケを支える仲間であり、教育者でもある篠森は、銀河に留任を促しつつ、「お前の人生はスタオケのためだけにあるのではない」と考慮の余地を残す。一方、ライバル楽団のスポンサーで、未成年とはいえ自立した音楽家たちを相手にビジネスを行う立場である小百合は、「あなたが守ることが、本当にあの子たち、特にコンミスを守ることにつながるのか」と問いかけるのだった。
大人たちの相談をよそに、スタオケの星奏学院メンバーがアップロードした「ピアノ四重奏曲第2番」のアンサンブル動画は、一晩のうちに広く拡散されていた。さらに、もとの動画に合わせてネオンフィッシュが、ポラリスが、国内に散っているほかのスタオケメンバーが、星奏学院の生徒が、これまでにスタオケに協力してくれた各地の演奏者たちが、次々と動画をアップロードしていく。
そして、とうとうスタオケの活動停止が解除されることになった。再び木蓮館に集まり、活動再開を祝するメンバーたち。しかし、銀河の姿はそこになかった。
日本オーケストラ協会に従い、スタオケの活動停止解除と引き換えに音楽監督の座を退くことを決めた銀河。彼は故ザイドルの導きに従い、海外で指揮者として活動することになる。それは、彼が朝日奈やスタオケメンバーから遠く離れていくことを意味していた。篠森はただひとり銀河を見送り、彼からスタオケメンバーへの手紙を言付かる。
「スタオケ」のストーリー内において、オーケストラはしばしば海を航行する船に喩えられる。SV2章で活動停止命令が下されたスタオケはまさしく暗礁に乗り上げ航行不能状態となったわけだ。加えて、サブタイトルに付された「ゲネラルパウゼ(Generalpause、楽譜上ではG.P.とも記される)」とは「全停止」を示すドイツ語由来の音楽用語で、特にオーケストラの全声部が同時に休むことを示す。
原点を遡る物語
拡散する #オーケストラが好き
Secondo viaggio 第2章のストーリーにおいて、「ピアノ四重奏曲第2番」と「ガヴォット」の2曲が取り上げられている。前者はスターライトオーケストラの、後者は朝日奈と銀河の音楽にとっての“原点”として描かれている。
メインストーリーの第1章、朝日奈・朔夜・銀河という最少メンバーの時点で演奏された「ピアノ四重奏曲第2番」(メインストーリー第1章のストーリーの進行とともに成宮と竜崎が加わり、名実ともに四重奏になる)。Secondo viaggio 第2章では同じ曲を同じ最初期メンバーで演奏することによって、原点に立ち返ることが強調されている。
そして、彼らの演奏動画に触発された他メンバーが加わることで、朝日奈・朔夜・竜崎・成宮・香坂の5名が同じ曲をアンサンブルで演奏し、動画を拡散する。そして遠方にいる他メンバーや、スタオケを応援する人々がさらに演奏を重ねる。メインストーリー(1章~9章)での出会いと経験がすべてが集約されてスタオケを後押しする。時も場所も異なる演奏が、ただひとつ、「オーケストラが好き」という感情によって一体になっていく描写が実に熱い。
Secondo viaggio 第1章では、目指していたコンクールが無期限延期となったスタオケに、コロナ禍によって活動が阻まれた若者たちの姿が投影されていると書いた。Secondo viaggio 第2章では、前章と同じく、コロナ禍によって活動自粛を求められた末に人々が見出した、音楽と映像によるSNS上の連帯が描かれていると言えるだろう。
(余談ながら、外出禁止を言い渡された銀河が朝日奈にネットスーパーの話をするのも、緊急事態宣言下の自粛生活を連想させる)
Secondo viaggio 第1章ではSNSを通じてスタオケのネガティブイメージの拡散が行われたが、これを承けて、第2章ではポジティブイメージの拡散が行われている。マスメディアの報道が乗っかっている以上、スタオケの悪評はこれのみで収束するわけではないが、SNSは使われた方によって正にも負にもなるというわけだ。
リアタイ勢としてはなにより、Secondo viaggio 2章のストーリーが配信されたその日のうちに、ユーザーが「#スタオケが好き」「#オーケストラが好き」のハッシュタグを付与したツイートを次々と投稿する様子を観測できたことは僥倖だったと思う。
さて、"原点に立ち返る”楽曲として描かれたゴセックの「ガヴォット」は、シリーズ過去作「金色のコルダ」に縁のある楽曲である。本来はヴァイオリンと管弦楽で演奏されるが、今日ではピアノとヴァイオリンの編成で演奏されることも多い。シンプルでかわいらしい旋律は初心者でも奏でやすく、「金色のコルダ」でも最序盤から演奏曲として登場する(=主人公の技術レベルが低くても演奏できる)。
呉由姫氏によるコミカライズ、そしてそれをもとにしたアニメ版では、主人公(日野)がコンクール参加を戸惑う中、同じコンクールの参加者である火原和樹とともに合奏することで、音を奏でる楽しさに目覚めるという印象深いシーンがある。ここで合奏している曲こそが「ガヴォット」なのだ。
音楽の魔法 ~シリーズ過去作へのオマージュ
スタオケにおいて、“魔法”という言葉はこれまでほぼ使われていなかったが、「金色のコルダ」シリーズ過去作をプレイしたことのあるユーザーにとってはピンと来るだろう。「金色のコルダ」シリーズの舞台となる星奏学院高校には、音楽を愛し魔法を扱う妖精“ファータ”が加護を与えており、「金色のコルダ」の主人公は、その魔法によって音楽の世界へ導かれていくのだから。
「金色のコルダ」の主人公(デフォルト名:日野香穂子)はヴァイオリン未経験者の普通科生徒であったが、ファータの一人であるリリに見初められ、“魔法のヴァイオリン”を与えられる。未経験者でも音を奏でることのできるこのヴァイオリンを使って学内コンクールに参加してほしいと懇願された主人公は、初めのうちは仕方なく引き受けたものの、やがて自分で音楽を奏でる楽しさに目覚めていく。
だが、主人公が「もっとうまくなりたい」と練習を重ねるうちに、魔法のヴァイオリンは負荷に耐えきれず壊れてしまう。これ以降、主人公は普通のヴァイオリンを使ってコンクールに挑んでいくことになる。
(以上の話は呉由姫氏によるコミカライズでよくまとまっており、魔法のヴァイオリンの故障への深い哀惜の描写が際立つ。なお、魔法のヴァイオリンは“自転車の補助輪のようなもの”と説明されている。コミカライズを元にしたアニメでは魔法のヴァイオリン故障のエピソードは17~18話あたりで描かれる)
「金色のコルダ」から10年経った世界が舞台となる「金色のコルダ3」では、派生作品となる「金色のコルダ3 AnotherSky feat.天音学園」においてファータや魔法の存在が描かれる。ファータの魔法によって腕時計を修理するシーンで、「変わらない魔法は妖精王しか使えない」「魔法の効果を弱めないようメンテナンスが必要」という設定が語られている。
日野香穂子は“魔法のヴァイオリン”によって、朝日奈唯は“魔法使い”によって、それぞれ音楽の楽しさを知るとともに技術的な加護を得た。だが彼らの魔法は期限つきであり、永遠ではない。日野が魔法のヴァイオリンを失ったように、朝日奈もSecondo viaggio 第2章において魔法を失ったのだ――――離別の前の「ガヴォット」の連弾で演奏者としての朝日奈を蘇生させたのは、銀河の“最後にして最大の魔法”と呼べるかもしれない。
回想シーンで、幼い朝日奈が彼女自身と銀河を「お姫様と魔法使い」に例えるシーンがある。銀河の“魔法”に永続性がないことを合わせて考えた上でこの表現をより正確に言い直すと、「シンデレラと魔法使い」がより的確に当てはまる。指揮者・一ノ瀬銀河の魔法によって一流のコンサートミストレスに変身していた朝日奈唯は、12時の鐘によって魔法を失ったのだ。
「シンデレラ」のストーリーにおいて、同じ魔法をかけてくれる魔法使いは二度と現れない。だがシンデレラはその心優しさから周囲の助けを得ることができ、危地を脱して、自分を探していた王子様と再び巡り会って幸福を手に入れる。
「金色のコルダ」の日野も、魔法のヴァイオリンが壊れた後、通常のヴァイオリンを手に舞台に立ち続ける。その後輩にあたる朝日奈も、きっと明るい運命を切り開くことができる。そのような予感を思わせるストーリーラインである。
対等に向き合うために ~「オペラ座の怪人」より
さて、朝日奈と銀河の関係に立ち戻ると、彼らはともに「世界一のオーケストラを作る」という約束を実現させるための同志であるにも関わらず、朝日奈は銀河なしではコンサートミストレスとして自立できず、銀河もまた朝日奈の音楽に執着するという、共依存関係に陥っていたことが明かされる。小百合の言葉の中で、朝日奈は「かごの中の鳥」に喩えられているが、デフォルトネームの「朝日奈」の中に「ひな(雛)」が含まれているのは偶然ではなかったはずだ。イベントストーリー「バレンタイン トリロジー」「Music and the Fatal Ring」や一部のカードストーリーでそのような兆候があったとはいえ、お互いここまで依存しきっているとは……と驚いた記憶がある。成宮小百合から「耳の痛い」指摘を受けた銀河は、対等な音楽の同志として彼女との関係を結び直すために、離別を選んだのだ。
(メインストーリー第7章、御門浮葉と鷲上源一郎の共依存からの離別の展開の引き写しになっていることにも留意しておきたい。いずれも師からの一方的な離別宣言によって道が分かたれる)
朝日奈と銀河について、「日野と魔法のヴァイオリン」「シンデレラと魔法使い」の関係を適用できると先述したが、これでは前者が後者から一方的に魔法を享受するだけの関係である。Second viaggio 第2章で、銀河にとっての朝日奈の存在こそが「(自分を魔法使いにしてくれる)魔法」であると述べており、結果として共依存に陥っている。彼らのモチーフとしてもっと適切なのは、「オペラ座の怪人」のクリスティーヌとファントムではないか。
「オペラ座の怪人」の原作小説は20世紀初頭に発表され、その後も各種メディア化や翻案を繰り返されて現代に至っている。幻想とドラマチックな愛を描く文学・演劇作品として優れているのだろう。
「オペラ座の怪人」では、オペラ座のコーラスガールであるクリスティーヌは正体不明の謎の声(クリスティーヌは“天使の声”と呼んでいる)から音楽の教導を受け、歌姫として頭角を現す。“天使の声”の正体は、オペラ座の地下に棲みつき、仮面で素顔を隠した男(ファントム)だった。ファントムは音楽をはじめ天才的な才能を持つ男だが、醜い素顔のために迫害された経験から、オペラ座の地下に隠れ住んでいた。
ファントムはクリスティーヌに執着し、彼女をプリマドンナとして自らの作り上げた音楽を歌わせるために様々な策を講じる。だがオペラ座には別にお抱えのプリマドンナがおり、ことはファントムの思う通りに進まない。さらに、クリスティーヌが幼馴染の青年貴族と愛を育むようになったこともあってファントムは激しく苛立ち、オペラ座に様々な怪異を引き起こす。クリスティーヌはファントムと対面しその醜さや身勝手さに恐れをなすが、やがて真摯に向き合うことで、ファントムの心に愛を目覚めさせていく。
“無垢にして聖なる少女”であるクリスティーヌと、“正体を隠した孤独なる天才”ファントム。この二人をモチーフとしたと思しきカップルやコンビは、実は過去のルビーパーティー作品の中で散見される。
筆者がプレイした中では、主人公の聖性が強調されやすい「遙かなる時空の中で」シリーズで多く思い当たる。「遙かなる時空の中で」(1999年)のあかねとアクラムが最もわかりやすい。あかねは聖なる力をもって京を救う“龍神の神子”で、仮面の男アクラムは京を滅ぼそうとする“鬼の一族”の首領である。「遙かなる時空の中で3」(2004年)の望美とリズヴァーンでは師弟関係が強調された形となる。「遙かなる時空の中で3 運命の迷宮」(2006年)では望美にしか感知できない謎の存在が登場し、ご丁寧に“幻影”と名付けられている。「遙かなる時空の中で5」(2011年)のゆきと天海、「遙かなる時空の中で6」の梓とダリウスも、聖なる少女と、彼女を利用して目的を達成しようとする謎めいた男の組み合わせだ。近年だと「バディミッションBOND」(2021年)においても“ファントム”と呼ばれるキャラクターが登場し、明らかにというよりはもはや露骨に「オペラ座の怪人」をモチーフとした場面や設定がそこここに見られた。
20年以上前から“クリスティーヌとファントム”のモチーフが繰り返し用いられているということは、シナリオライター個人の好みに左右されているわけではなく、「オペラ座の怪人」がシナリオチーム全体に“必須教養”として共有されているのではないかと思う。朝日奈と銀河は、そんな中から生まれた新たな“クリスティーヌとファントム”の一形態なのではないか。スタオケに登場するメインキャラクターにはそれぞれイメージカラーが設定されているが、銀河のイメージカラーが“ファントムシルバー”とされているあたりからも、これは確実である。
朝日奈と銀河は師弟であると同時に“年の差のある昔なじみ”であり、その出会いは朝日奈が小学生、銀河が大学生の頃に遡る。銀河のキャラクターストーリーでは、銀河は昔から朝日奈の頭をなでる癖があることが示されている。
年上の男性が女性の頭をなでるというしぐさは、特に家族間において、目上から目下へのいたわりや親愛の情を示す定番のアクションだ。
一方、今後銀河のキャラクターストーリー終盤で公開されると思われるムービーの断片が、オープニングムービーに挿入されていることは特筆に値する。夕暮れの中で銀河が朝日奈の頭をなでようとするが、逡巡し、結局手を引っ込めてしまうというシーンだ。
Secondo viaggioとキャラクターストーリーとの関連は不明瞭だが、いずれにしても、朝日奈と銀河にとって師弟関係は心地よいものだった。だがそこから一歩踏み出し、対等な関係を結ぶことを示唆するものだろう。
ストーリーの本筋が込み入っているが、もちろんほかのキャラクターについても特筆したい箇所がたくさんある。いつもドライな篠森が、銀河の親友として助言したり別離の挨拶をしているところは最高だったし、さらに成宮小百合が絡んでくるのは完全に想定外だった。スタオケ活動休止に伴って食欲を失っていた朝日奈に、菩提樹寮居残り組の朔夜と成宮が食事を用意するシーンもとてもよい(スタオケの物語は、全体的に食事を生の象徴として肯定的に描いているところが個人的に好ましく思う)。無様な演奏をするなと発破をかけてくる竜崎のまっすぐさ、まぶしさはこの場面だと癒しのようにも感じられる。かっこよく演奏動画を撮影しようとしてブレる日向南コンビと、地元で小躍りする源一郎の映像もほしい。
アプリ内ではSecondo viaggio 第10章もイベントが開催中だが、今後もSecondo viaggio 3章以降について記事をまとめて書く予定である。サービス終了までに……間に合うか……!?
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