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企業再生メモランダム・第68回 正しい企業文化、制度を守る

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの55枚目は6年前に作成した「正しい企業文化、制度を守る」と題したメモです。

メモの背景

企業再生とは、組織と人の再生です。

ターンアラウンドマネージャーの私の理解では、まず人の再生があって、次に組織の再生があるわけですが、組織の再生は、「組織の論理」の再生、ケイパビリティの獲得、そして、企業文化の再生の3つによってなされると考えています。

会社における人の再生とは、スタッフが、経済合理性を意識しながらお客様や仕事に向き合うなど、安心して、社内外の仲間と協力して、正しいことに努力できるようになることです。

「組織の論理」の再生とは、第19回で紹介したとおり、「普通の会社」では当たり前にあるように、共通の目標を持って、協働の意欲があって、そのためにコミュニケーションが活発に行われるようになることです。会社のルールを守る、会社のために何をするべきか考えるなど、組織人として動けるように、社会常識を取り戻さなければなりません。

ケイパビリティの獲得とは、企業が全体として持つ組織的な能力の獲得です。赤字会社の場合では、仕事の遂行能力だけではなく、約束の時間を守れなかったりゴミを捨てられなかったり、「普通の会社」では当たり前にできることすらできなくなっている場合があります。これを元に戻さなければ、会社ではなってしまいます。

最後に、企業文化の再生とは、これは「組織の論理」やケイパビリティとも連動していますが、一度壊れてしまった組織としての価値観や行動規範を再生しなければなりません。

企業文化の再生には、人の再生よりも時間を要します。「組織の論理」は組織人として当たり前の価値観を取り戻すことに対して、企業文化の再生は、経営判断をはじめ、それぞれの人が判断する際の元となる価値観や行動規範が論点です。

企業文化を再生するには、意思決定の蓄積であったり、ふんわりとした共通理解であったり、時間がかかるものが多いのです。

この時期になると対象会社では、多くの人の再生がなされ、「組織の論理」も再生され、ケイパビリティも獲得できていました。あとは、時間をかけて、企業文化の再生をしなければならなかったのです。

そして、このメモの時点で、4年以上を経過していた対象会社の企業再生ですが、会社が抱える企業再生以外の問題により、もう少しで終止符が打たれようとしていました。

メモ「正しい企業文化、制度を守る」

1.過去に対する反省

対象会社は、古くは労働組合が強く前身の会社を潰し、近年では経営者による放漫経営により慢性的な資金不足・倒産危機を余議なくされてきました。

直接的には、古くは労働組合の過度な経営への介入、近年では経営者による放漫経営が、会社を傾けた要因です。

しかしながら、会社を構成するのは、労働組合や経営者だけではありません。

幹部社員やスタッフらが自分たちの会社を守るという意識が乏しかったから、会社が実際に潰れたり潰れかけたりしたのだと思います。

2.正しい企業文化、制度の導入

現経営陣は、この過去に対する反省を活かして、世間一般の会社と同じような正しく真っ当な企業文化、制度の導入を進めています。

正しい企業文化とは、スタッフを単なる労働力・労働者と捉えるのではなく、社員それぞれがリーダーシップ(主体性)を持って、社会のためお客様のために、個人の能力を最大限に活かし協力しあって、仕事に邁進する文化です。

また、正しい制度とは、透明性のある人事制度、情報開示(月次決算)など日々の仕事を支える仕組みです。

対象会社の場合は、① 今までの企業文化は、知らず知らずに労働組合に毒され、「仕事」ではなく「労働」、「(総体としての)会社・みんなのため」よりも「自分のため」といったような企業文化になってしまっており、② 今までの制度は、放漫経営をする経営者の都合のいいような情報のみを開示する乏しい情報開示制度となっていました。

現経営陣は、会社を良くするために、またスタッフらのためにも、これらを変えて、正しく真っ当な企業文化、制度の導入を進めています。

3.歴史に学ぶ

一般の人々が自分たちの生活を守るために権利を勝ち取ってきたことは、歴史と同じです。民主主義社会も、フランス革命など多くの血が流れる過程で、一般の人々が自由を勝ち取り、一つずつ発展してきた経緯があります。

対象会社が「普通の会社」になるために正しい企業文化、制度を導入することは、一般スタッフが自分たちの生活を守るために重要なことであり、とても価値があることなのです。

4.正しい企業文化、制度を守る

残念ながら、対象会社は未だ訴訟を抱えるなど経営的に不安定な部分もあります。

そのためスタッフ一人ひとりが、この会社で中長期的に働くためにも、ここで導入する正しく真っ当な企業文化、制度を大事にしていってもらいたいと思います。

もし昔のように、中長期的な目線で会社を良くしようと思わない経営者や労働組合などが、会社の実権を握ってしまえば、すぐに会社は傾いてしまうでしょう。

これらの人から、スタッフが自分たちの生活・自分たちの会社を守る手段ですが、この正しい企業文化、制度を大事にして、会社と切り離せなくなるようにしてしまうのです。

そうすれば中長期的な目線で会社を良くしようと思わない人たちは手出しができなくなるでしょう。

歴史と同じように、(会社の場合は、革命が起きたり血が流れたりすることはありませんが、いろいろな苦労の末に・・・)一般の人々が手にした権利は、決して手放してはいけませんし、大事にしなければなりません。

そのためには、ここで導入する正しく真っ当な企業文化、制度を大事にして、積極的に活用していくのです。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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