企業再生メモランダム・第66回 幹部社員としての矜持 前編
「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。
メモの54枚目は6年前に作成した「幹部社員としての矜持」と題したメモです。
今回は長くなってしまったので、前編・後編の2つに分けて記載します。
メモの背景
第26回で「会社は頭から腐る」という話を紹介させてもらいました。
結果として株主の意思決定のミスによるものですが、対象会社は不幸なことに2代続けて、社長が社長という役割を果たさない状況がありました。さらに、残念ながら、一人に至っては明確に金銭にかかる不正までもしていたことも発覚しました。
内部統制の限界という言葉があります。適切に内部統制を構築したにも関わらず、統制が機能しないことです。その要因としては、担当者の不注意や共謀、環境変化や非定期型取引、費用対効果の限界、そして、経営者による無視が挙げられています。
対象会社のように一般スタッフには情報共有されないところで、社長や幹部社員が腐っていたら、どうしようもないのです。
企業再生では、赤字になっていく過程で世間とズレてしまったスタッフの価値観を、「普通の会社」の価値観に戻さなければなりません。
「普通の会社」の価値観とは、「お客様のため」や「売上・利益の拡大のため」に仕事をすることが前提ですし、会社のために頑張る、会社のルールは守る、上司の指示に従う、社会性も大事にする、そして、時と場合でこれらに正しく優先順位を付けられるなど、日本の社会人として当たり前の共通理解のことです。
このメモが作成されたときには、対象会社の企業再生も終盤に差し掛かっていました。
経営陣は真っ当になり、全員とまでは言いませんが、一部にはやる気ある幹部社員と若手スタッフも生まれ、経営成績も黒字になり、まだ病み上がりではありますが「普通の会社」と呼べるような状況が近づいていました。
私の経営感覚では、経営者としては、一般スタッフ全員がやる気に満ちあふれていることを目指さなければなりませんが、そこまでいけば、それはもう「普通の会社」ではなく「優良企業」だと思います。
しかし、全ての幹部社員にやる気があふれているは「普通の会社」だと思います。
リーダーシップに立場は関係ないといっても、組織上の権力を持っている経営陣や幹部社員にやる気がなければ、会社はおかしくなってしまいます。もし毎回、一般スタッフが、非公式な影響力で、経営陣や幹部社員を動かしていたら、極めて非効率な組織運営になってしまうからです。
企業再生の仕上げとして、対象会社に求められていることは、幹部社員がそれこそ「普通の幹部社員」にならなければならなかったのです。
メモ「幹部社員としての矜持」の中身
1.職位とは役割
(1)会社は運命共同体
会社とは、経営陣、社員、パート、株主、取引先、地域社会など全てのステークホルダーの幸せのための運命共同体です。そのため、私たち経営陣やスタッフは、日々の仕事を通じて、会社を存続させること、会社を発展させることが至上命題になります。
(2)職位とは役割
会社は多くの人で成り立っています。そのため私たち経営陣やスタッフは、会社の存続・発展のために、役割を細分化して仕事の分担をしています。
この会社から期待された役割を果たす義務を持つ役職のことを、職位と言います。
つまり職位とは役割です。
もし会社の存続・発展のために、会社から期待される役割を果たせないのであれば、その人は会社のため、全てのステークホルダーのためにも、その役職に留まっていてはいけません。
(3)役割を果たした人が評価される
過去において、対象会社に関わる多くの人は勘違いをしていました。上司だからというだけで、決して偉いわけではありません。
会社から期待された上司としての役割を果たした人、もしくは期待以上の役割を果たした人が、会社から評価され称賛されるのです。
上司の職位にあるにも関わらず、その役割を全うしない(できない)、例えば、上司の職位にある人が、部下と同じ仕事しかしていない(できない)や社員にも関わらず、パートと同じ仕事しかしていない(できない)は、由々しき問題です。
なぜなら職位が高くなれば、会社のために求められる役割、つまり、仕事の質も上がりますし、その仕事の対価も上がるのです。
その職位に求められる役割を果たしていないにも関わらず、その対価だけ高くもらっている役職者がいたら、それは給料泥棒と非難を受けても致し方ありません。
※ 本連載は事実を元にしたフィクションです。
株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。