企業再生メモランダム・第44回 会社と地域社会
「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。
メモの34枚目は7年前に作成した「会社と地域社会」と題したメモです。
メモの背景
対象会社は地方企業の大会社でしたから、地域社会への社会貢献も求められていました。
毎回、地元の花火大会になるとお金を出していましたし、地元の業界団体にも所属して会費を支払っていました。これは地方の大企業は、みな同じような状態だと思います。
特に、対象会社の場合は、前社長が赤字会社にも関わらず嘘をついてまで業績好調をアピールして、地域社会にお金をばらまいていたため、一時的に地域社会との関係がいびつになっていました。
会社が黒字ならば、地域貢献も大事なことでしょう。しかし、自社の存続すら危機的な状況にも関わらず、第三者に資金提供していたのでは、本末転倒も甚だしい状態です。
ターンアラウンドマネージャーをしている私の感覚からすると、異業種交流会や政財界の付き合いほど、目先の商売から遠いものはないと思います。
中長期的な目線では、こういった財界活動も大事な場合もあるかと思いますが、目的が不明確なふわっとした交友関係ではビジネスは動きません。会社が本当に困ったときに、その人たちは助けてくれるようなビジネスパートナーなのでしょうか。
話を戻すと、対象会社と地域社会の関係では、地方企業ならではの問題なのかもしれませんが、スタッフが地元の人間関係に絡め取られてしまう場合があったように思います。
地元で良い顔をしたい、地元の先輩・後輩の人間関係がある、地元の地域社会のコミュニティでの人間関係がある。東京では信じられないぐらい、地方では、濃密かつ閉鎖的な人間関係があります。
私は、生まれは横浜、中学・高校以降は東京で育ってきたため、地方のこういった濃密な人間関係は古き良き日本のようで良いなと思う反面、会社と切り分けするルールを作ってあげないと、苦労する人が出るだろうなといった感覚がありました。
このような状況もあったため、会社と地域社会に関するメモを作成したのです。
メモ「会社と地域社会」の内容
1.地域貢献をすること
対象会社は、地元地域の大企業という社会的責任から、ビジネスを通じて、地域社会に貢献しなければなりません。
対象会社のサービス利用者は、地域全体でのサービス利用者数を考えると、極めて高いシェアとなっています。
このことからも対象会社が、地域社会において多大な影響を与える社会性を備えていることが分かると思います。
2.優先順位について
地域貢献が大事なことについては、全スタッフが理解できていると思います。ここでは優先順位について考えてもらいたいと思います。
優先順位は、顧客満足が優先、すなわち会社の利益が優先であり、地域社会への貢献は後回しになります。
なぜなら対象会社が営業し続けることが、地域社会に対する一番の貢献だからです。対象会社が営業し続けるためには、お客様にサービスを利用していただき売上をあげ、利益を確保していかなければなりません。
まずは私たちの会社が、十分に利益をあげて、お客様や社会に受け入れられる素晴らしい会社にならなければなりません。
3.地域社会に頼らない
対象会社は、地域社会に頼らず、むしろ地域社会を牽引する存在にならなければなりません。
助成金をもらったり、地域社会の協力を仰いだりすることが前提の会社は弱くなります。これは戦後の日本経済発展の歴史の中でも既に証明されています。
特に(クロネコ)ヤマト、ホンダ、ソニーは有名ですが、現在、大企業と呼ばれている会社のほとんどは、地域社会や行政に頼らず、自力で発展してきた会社ばかりです。
これは私たちも同じだと思います。例えば助成金で広告をしても、広告をする中身を良くする努力をしなければ、継続した効果は出ません。
本来、私たちが努力し向き合わなければならないのは、中身を良くすることであって、広告をすることでもありませんし、ましてや行政関係から助成金をもらうことでもありません。
むしろ、お客様に対してより良いサービス・より良い商品を提供するという、私たちの会社の志が低くなってしまうのであれば、助成金などもらわないほうがいいのです。
4.自分たちの運命は自分たちで切り拓ける!
ビジネスの素晴らしいところは、自分たちの運命を自分たちで切り拓くことができることです。素晴らしいサービスや素晴らしい商品を作ってお客様に受け入れられれば、収益が上がり、社会にも貢献できるようになります。
これは行政の年度予算に計上される助成金程度の比ではありません。努力した分だけ、お客様や社会に受け入れられて、収益が上がっていくのです(お金だけでなく、仕事に対する評価や、やりがいもついてきます。)。
特に対象会社は、幅広い地域や年齢層のお客様が顧客ターゲットになっています。そのため、地域社会の、しかも、そのうち、ごく一部の人たちの意見に必要以上に引っ張られる理由はありません。
目の前のお客様と向き合うことが、対象会社の利益を拡大させビジネスを発展させることであり、スタッフの生活を守ることでもあります。そして、地域社会に貢献することでもあるのです。
地域社会をないがしろにしていいとは決して思っていません。逆です。
対象会社は地域社会のリーダーたる企業ですから、地域社会にどのように還元するかを本気になって考えなければなりません。それは地域社会に頼るのではなく、地域社会を牽引するようにビジネスで成功することです。
それが会社の醍醐味なのです。
※ 本連載は事実を元にしたフィクションです。
株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。