企業再生メモランダム・第56回 真実と向き合う
「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。
メモの45枚目は7年前に作成した「真実と向き合う」と題したメモです。
メモの背景
企業再生の仕事をしていると、赤字会社の価値観に染まりきって感覚の狂った人をたくさん見てきたように思います。
人間は、目の前に見えているものが全てですし、それが基準になってしまうのです。そこは客観性もなければ、バランス感覚もありません。
ただ、毎度こういった人たちに出会うたびに思うのですが、彼らのほとんどは、薄々、自分がおかしいということを理解しているのではないかと思うのです。少なくとも、おかしいのではないかぐらいの疑問は持っているような気がします。
しかし、正常には戻れない人がほとんどです。一度狂った感覚を元に戻すことは本当に難しいのです。
一度成功した経営者が、運転手による送迎のある毎日を送っていたら、歩いて電車に乗ることができなくなってしまうことと同じです。できなくならないにしても、歩いて電車に乗ることが苦痛になってしまうのです。
これは、一度、肥大化してしまった自意識が問題なのです。「俺はこんな人間じゃない」「俺は選ばれた人間だ」。このような狂った感覚です。
赤字会社で、湯水のごとく経費を使えば、それが長続きしないことなど分かり切ったことだと思います。まさに破滅へ向かって一直線なのですが、分かっていても止められないし、止まらないのです。
多くの場合、社長といえども、ほとんどの人は弱い人なのです。自分と向き合うことは、いかに難しいものなのかと考えさせられます。
これが真実のように思います。
誰かに止めて欲しいと思っていても、誰かに止められるのはプライドが許しません。けれども、なかなか自分の力だけでは止まることができないのです。
優秀だった人が社長になった途端に豹変する人もいますし、調子が良い時期はイケイケどんどんなのですが、悪い時期になると大崩れするような方もいます。
私のことを新卒採用してくれた上場会社の会長から、「10年ぐらいで景気のサイクルがあるのだけど、乗り越えたヤツはほんの一握りしかいない。そんなもんだ。」と言われたのを今でも鮮明に覚えています。
中長期的に成功をする人物は、やはり強い人で、自制心があったり引き返せる強さがあったりするような人ばかりです。
プライドをかなぐり捨ててでも、いざとなったらやりきる力がある人でなければ、経営者として長い間、生き残ることはできません。
メモ「真実と向き合う」の中身
会社のために何ができるか?
実はこの答えを既に皆さんは知っていると思っています。正確に言うと、スタッフのほとんどの人は、会社のために何ができるか?を知っていながら、その真実と向き合う強さがないだけではないでしょうか?
会社のためとは、良い会社になるためです。
では、良い会社とはどういった会社でしょうか?良い会社の特徴には以下のようなことがあります。
1.スタッフ全員が、お客様が喜んでくれる商品・サービスを追求している。
2.「売上-経費=利益」を意識して、どうすれば売上の最大化、経費の最小化、利益の最大化ができるかをスタッフ全員が考えている。
3.スタッフ全員が一生懸命になって働いている。
4.スタッフ全員が一緒に働く仲間を大事にしている。
5.儲かった利益を、株主、スタッフ、将来の投資などに適正に分配している。
現在の対象会社は、果たして本当に良い会社でしょうか?
皆さんは、会社のために何ができるのか?、自分が何をすべきか?を理解していると思います。
しかし、例えば、目の前の仕事よりメンドクサイが勝ってしまったり、会社にとって良い提案にもかかわらず上司に否定されたらそれですぐに諦めてしまったり、自分の部下や他部署のスタッフが間違っていた場合に、それを注意することをためらってしまったり・・・など、自分の弱い部分が、この真実と向き合うことをやめさせてしまうのです。
会社のために何ができるか?
それは真実と向き合うことによって実行されると思います。
真実と向き合うとは、自分の弱さと向き合うということです。
会社のために、今一度、真摯に、謙虚に自分と向き合ってみてください。必ず会社は良くなりますし、自分も成長することができると思います。
※ 本連載は事実を元にしたフィクションです。
株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。