リーダーシップ往復書簡 088
前々回で、ここ数年の日本の産業界の問題点である事業承継について少し触れましたので、本日は、リーダーの引き際について記載をしたいと思います。
「マッチョなリーダー像」に固執していると、常に自分が隊列の先頭に立って旗を掲げなければならないと考えがちですが、本当のリーダーとは、夢や目標の実現のために、リーダーの座を譲ることもできる人なのです。
リーダーもやはり人間ですので、得意・不得意もありますし、疲労も溜まればミスジャッジもあります。謙虚なリーダーであれば、必要に応じて、旅の途中であれ、誰かにリーダーの座を任せることができるのです。
そのため、全体のために身を引く行為ができるリーダーは賞賛を集めるわけですが、なかなか引退できない大物政治家や大企業の経営者たちを見れば分かるとおり、スポットライトを一度でも浴びてしまうと人間はなかなかフロントマンの座から降りることはできません。
これは事業承継に限ったことではなく、ベンチャー企業の経営でも似たようことが起きているように思います。
具体的には、いわゆる「0⇒1(ゼロイチ)」の事業立ち上げが得意なアイデアマンの創業社長が、事業成長させる過程で、スキル不足からボトルネックになってしまうケースです。本来は他のマネジメント・スキルの高い経営幹部に社長を交代したほうが良いわけですが、なかなかスムーズに社長の座を移行できる場合は少ないように思います。
もちろん創業者ですので、多くの場合は株式の持ち分比率も高く、企業価値を向上させることによる経済的メリットは一番享受できるはずなのですが、そうは問屋が卸しません。理由は、将来の寂しさからか不安からか、これぞ社長の椅子の魔力だと思うのですが、まだまだ駆け出しのベンチャー企業であっても、社長という地位に汲々としてしまうのです。
世のため人のため、誰かのために身を引くという決断ができるがリーダーなのですが、歴史に名を刻むような優秀なリーダーたちでさえ、晩節を汚すことが多いことを考えると、いかにこれが難しいことかをご理解いただけるものと思います。
リーダーシップについて疑問がある、質問をしたいという方がいらっしゃいましたら、コメントや個別にメッセンジャーでご連絡ください。
また、コメントも大歓迎です。もし興味ある人がいれば、これを酒の肴に一杯やりましょう!
【Q.88】
どのタイミングで、リーダーシップのない上司を見限ればいいのでしょうか?
<コメント>
リーダーシップとは、ありとあらゆる人が発揮すべきもので、リーダーシップに組織における立場は関係ありません。そのため、部下であってもリーダーシップがあれば、上司を動かすことができます。
しかし、現実的な問題としては、部下という立場にいながら、自分よりも強大な組織的な権限を有する上司を動かすことは、非常に難しいことです。
ご質問者の方のように、現実的な問題として、上司を見限る、上司を諦めるということは、たった一度しかない人生で貴重な時間をどのように費やすかという観点からは、合理的な選択肢になり得るものと思います。
長らく本連載を続けてきた私としては、読者の方には自分の可能性を信じてリーダーシップを発揮してもらって全ての人を動かせるようになってもらいたいと思いますが、やはり本件については軽々しく回答を言うことはできません。
正直なところ、私もいつも似たような問題で悩まされているのが実際です。
それは自分を信じてリーダーシップを発揮して多くの人を動かさなければならないと思いながらも、このまま突っ込んでいって、万が一、上手くいかないことになってしまった場合、ついてきてくれた人たちに迷惑をかけてしまったらどうしようとも思うのです。
リーダーが多くの人々から尊敬を集めるのは、誰も知ることのない明日に向かって、勇気を出して一歩踏み出しているからだと思います。
※この記事は、2021年5月7日付Facebook投稿を転載したものです。
株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。