企業再生メモランダム・第5回 経費削減アクション・プラン
「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。
メモの3枚目は10年前に作成した「経費削減アクション・プラン」と題したメモです。
なお、同じタイミングで、他にも2つの「売上拡大アクション・プラン」と「資金繰り改善アクション・プラン」という簡易的なメモがあります。そちらについても次回以降でご紹介したいと思います。
メモの背景
企業再生の経験のある人ならば、同じことを言うと思います。
「経営改革の最初のうちは、チームからの信頼を勝ち得るために、『勝てる戦い』から着手すべきである。」
私は20代前半の頃から、いつも株主サイドから送り込まれて、赤字会社のターンアラウンドマネージャーとなってきたため、スタッフからの新役員の「お手並み拝見」といった冷ややかな視線を幾度となく経験してきています。
対象企業の幹部社員や一般スタッフは、期待と不安の中、以下のようなコメントとともに、ターンアラウンドマネージャーが、信頼に足りる人物かどうか、その一挙手一投足を見ています。
・株主から送り込まれただけで、仕事ができないヤツじゃないか?
・こちらはこの業界に何十年もいるのに、業界外の人間が、ただ株主に近いというだけで上司として送り込まれて来たとしても、急に何ができるというのか?
・こんな自分の子どものような年齢の若僧に何ができるのか?
・こいつはどっちの派閥に属するつもりなのだろう?今までの社内政治のどこかの派閥に入るに違いない。
・こいつにゴマすれば、自分の地位は安泰なんじゃないか?(どうせならば気が良いヤツだといいな。)
このような状況下で、ターンアラウンドマネージャーに求められているのは、人として清く、正しく、強いこと、そして、一番重要なことは「勝てること」なのです。
いかに日常生活において聖人君子で尊敬できる人だとしても、例えば、売上を増やすことできたり、利益を増やすことができたりするなど「普通の会社」の「組織の論理」で評価される「勝てる人」でなければ、他のスタッフはついて来ません。
そのため、私が企業再生に関与する場合は、まずは、小さくて良いので、相当な確率で成果をあげることができる内容から手を付けます。
しばらくの間は「常勝できる人」であることを演出しなければ、社内政治が残る対象会社で、スタッフがついてくるわけがありません。
まず直近においては「勝てる」ことが兎にも角にも重要です。そして、中長期的にも、この人についていけば、自分たちも正しいことができる、組織に貢献できると思わせなければ、スタッフは動かないのです。
当時、過去に大臣を務めた経験のあるメンターの方から、「しかるべき地位に就いている人間が、人として正しくあって、組織に対してしっかりと成果を出していれば、社内政治で負けることはない。」と教わりました。
大人の世界ですから、社内政治といっても、表向きは、それっぽい正論の応酬です。
短期的に、社内政治に屈せず、力を発揮するためには、確実に成果を積み上げなければなりません。
そして、企業再生において、具体的に、相当な確率で成果をあげられることとは、私は経費削減だと思っています。
営業活動は、例えば100件営業先を訪ねて、100件成約とはなりません。そのため、「常勝」を演出するには不適当です。PR活動も同様です。非常に話題性のあるプレスリリースをメディアに提供したからといって、必ずしもメディアで露出するわけではありません。
では、オペレーションの改善はどうでしょうか。オペレーションの改善も、自社の努力だけで完結できるので、成功確率は高そうです。しかし、実際は違います。
企業再生が求められている会社は、組織力(ケイパビリティ)が弱い会社が多いため、他の会社ならば当たり前にできることができないのです。また、社内政治があれば、反対派から嫌がらせを受けて、オペレーションの改善自体に横やりが入ってしまうリスクすらあります。そのため、オペレーションの改善は、成功確率が低く、着手しづらいと思います。
こういった中で、相当な確率で成果をあげられるのが経費削減なのです。
経費削減は、無駄な業務自体を無くしてしまうのであれば、取引先への外注を辞めてしまえばいいだけです。外注先の切り替えであれば、より良い外注先を数社ピックアップして相見積もりを取得して、品質を維持して、価格を安くすればいいだけですから、自社の組織力(ケイパビリティ)に依存しませんし、各段に失敗の確率は下がります。
繰り返しになりますが、企業再生の最初の時期に大事なことは、小さくてよいので成果を上げていくことです。まず周囲のスタッフから信頼を勝ち得なければ、役職に就いていたとしても、裸の王様になりかねません。
メモ「経費削減アクション・プラン」の中身
「経費削減アクション・プラン」は、当時の経営課題が列挙してあるため、残念ながら、秘密保持の観点から、今回は記載できません。
しかし、概略について記載すると、社長関連の無駄な経費の削減が大半でした。対象企業の社長が地元財界の付き合いで費消した外注費、自己ブランディング関連で費消していた宣伝広告費、そして、多額の交際費。
残念ながら、企業再生ではよくあるのですが、これらが原因となって会社が傾いているのかと思うと、スタッフには申し訳ない気持ちで一杯になります。
※ 本連載は事実を元にしたフィクションです。
株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。