企業再生メモランダム・第48回 会社の進むべき方向について
「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。
メモの38枚目は7年前に作成した「会社の進むべき方向について」と題したメモです。
メモの背景
このメモの頃には、私の企業再生も早いもので3年が経過していました。
その前に、「何もしない。」という経営方針の社長の顛末についてお話しなければなりません。顛末は長くなってしまったので、メモの背景に、今回と次回と2回に分けて記載をしたいと思います。
経営改革を推し進める立場にあった私と「何もしない。」という経営方針である社長の間に、すきま風が吹いていたことについては、以前も記載したとおりです。
会社のため、スタッフのために危機的な資金繰りを早く脱したい私からすると、それこそ会社を代表する社長が経営改革に邪魔をする気持ちが分かりませんでしたし、当初は怒りすら覚えたものです。
しかし、ある日、天から何か降ってきたように、私は気が付いたのです。
社長は弱い人であると。
彼は会社が変わってしまうことが怖かったのです。
繰り返し記載をしてきたとおり、実際には株主も、彼が社長としての任務を全うすることを望んでいました、彼自身も自分で社長という役職を望みました。その結果、その地位に就いたわけですが、実際には何をやっていいか分からなかったわけです。
そういった中で、一部の幹部社員や若手スタッフがしっかりと実績を出してイキイキと変わっていくことが恐怖だったのでしょう。
普通の社長であれば、会社が良くなっていくことは喜ばしいことだと思うでしょうし、それこそ、図太い社長であれば、部下の手柄は全て自分の成果と思う人が多いように思います。
しかし、彼は、そう思わなかったし、そう思えなかったのでしょう。彼は、昔のままの会社を望んだのです。
ある日、社長と二人きりで話をしたときに「何をやればいいのか分からないんだよね。」と切り出されたことがありました。私が、少し困惑しながら、「あなたは社長なのだから、ドーンとみんなの上に乗っていればいいと思いますよ。」といった話をしたら、「そういうもんかねぇ。」と寂しげに言っていたを覚えています。
当時、社長が、私に、このような話をするとは思わなかったのでビックリしましたが、長年にわたり対象会社のフロントランナーだった彼としては、会社が良くなっていくこと、変わっていくことについていけない疎外感たるや、想像以上のことだったのかもしれません。
社内において長年にわたり社内政治をしたり嫌がらせをしたりしていた社長は、普通の人と同じように実は弱い人間で、不安と孤独に苛まされていたのです。
そして、ある日、彼は会社から姿を消したのです。
メモ「会社の進むべき方向について」の中身
会社組織は、それぞれがバラバラに好き勝手やるのではなく、みんなが同じ方向に向かって走っていかなければなりません。
対象会社ですが、長い歴史の中で、資本主義社会の根本的なルールが一部抜け落ちてしまっているので、再確認をしたいと思います。
幹部社員の皆さんにとっては当たり前のことだと思いますが、幹部社員だからこそ、日々の仕事に力も入るし、逃げたくなることもあるかもしれません。
<ルール>
1.お金や利益ともっと向き合うということ
お金がないと会社は維持できませんし、利益がないとお金は増えません。一人ひとりが、もっとお金や利益を意識しなければなりません。
対象会社が大企業病になってしまっているのは、多くのスタッフが、業績に関係なく給料や賞与が常にもらえると信じこんでいて、主体性のない大きな組織の歯車の一つになってしまっていることです。
私たちは毎日商売をしているのです。意識改革が必要です。
2.会社の利益と個人の利益を同じ方向にすること
会社の利益と個人の利益を同じ方向にしなければなりません。スタッフが頑張って、会社の利益に貢献することによって、会社が安定し、個人に還元されます。
但し、もっと還元して欲しい(分配の問題)、すぐに還元して欲しい(時間の問題)など、会社と個人の間で利益相反は起こります。この2つが利益相反する場合、もちろん、会社の利益が優先です。
原則ですが、中長期的な目線で、会社も個人も利益が最大化されるということを目指さねばなりません。
地域社会における個人の名声や地位、取引先など社内外における人間関係など、会社と個人の間で利益相反が起こる可能性は、予想して、できる限り排除していかなければなりません。
補足ですが、会社の利益と事業の利益など部署単位の利益も利益相反することがあるかもしれませんが、会社の利益が優先です。全体最適を目指して下さい。
3.資本の論理という厳然たる事実
私は会社の役員ですが、好き勝手に会社のお金を使うことはできません。あくまで私は、株主の信頼を得て、企業価値の向上のため(株主のために、社員のために、社会のためにも内包されます。)に働いているわけです。
「会社は誰のもの?」というと、法律的には株主がオーナーと言えます。
そのため、経営者になったから、または、役職者に昇格したからといっても、役職手当などによる給与所得の増加以外には、個人的な利得がついてくることはありません。もちろん、企業価値を上げれば、社内外からの信頼や名声を得ることはできるかもしれません。
本当に好き勝手やりたい人は、将来の夢として、株主(=資本家)になることを目指して下さい。
※ 本連載は事実を元にしたフィクションです。
株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。