火力発電設備の劣化と保守
再エネが重要視されるようになってきた昨今ですが、現状では火力電源は、押しも押されぬ主要電源であることは事実です。再エネ電源の変動の大部分は、火力発電の出力調整で吸収しています。
ゆくゆくはカーボンフリーな社会を目指す必要がありますが、当面は火力発電の力を借り続けなければなりません。そんな日本の電力供給のかなめである火力発電所は、日々、過酷な条件の下で稼働を続けています。
本記事では、火力発電設備の経年劣化でどのようなことが起きるのか、また、保守面で、そのような経年劣化をどのような方法で検査し、把握しているのか、まとめていきます。
劣化の種類
火力発電設備は、高温や高圧・水蒸気やそのほか種々の化学物質にさらされ続けます。厳しい仕様環境の中で、どのような欠陥が生じるのでしょうか。
クリープ
発電所の躯体は、基本的に鋼材で造られています。クリープ現象は、金属材料が、高温環境下で長時間にわたって荷重を受けた際に、徐々に生じる変形です。その受ける荷重が、常温下では全く問題のない弾性変形しかしない程度の者でも、高温化では、クリープ現象として、不可逆的な変形が起こりえます。
疲労
材料に繰り返し荷重がかかると、静荷重(一定の荷重)では破壊しないような小さな荷重でも、徐々に強度が低下し、変形・破壊に至ることがあります。これを疲労現象といいます。
火力発電所では、起動・停止時の温度変動によって、肉厚部の内外面の温度差が生じたり、異材質の組み合わせによる熱膨張差が生じたりすることで、応力という形で、繰り返し荷重に相当する力が加わり、破損が生じる場合があります。
腐食
火力発電所のボイラでは、様々な要因で腐食が起こります。高温水蒸気による水蒸気酸化やバナジウムやナトリウム溶融物の付着による高温腐食などが要因として挙げられます。バナジウムやナトリウムは、燃料に含まれる微量元素です。
検査方法
続いて、こうした劣化を検出するための検査方法に目を向けていきます。
超音波探傷
試験体の内部の傷や亀裂の有無を検出することができます。これは、試験体内部に亀裂等によって、空隙が生じていると、そこで超音波が跳ね返るため、試験体を破壊することなく、内部の異常を見つけることができるものです。
走査電子顕微鏡(SEM)
クリープ現象が起きると、劣化箇所にはボイド(泡のような微小な隙間)が集中する現象が来ます。走査電子顕微鏡は、試験体表面のボイドを検出するのに有効です。
ただし、SEMで検出できる範囲は限定的ですので、劣化が予想される部位に絞った検査がをすることが重要と考えられます。