星造りの女神と人間
雨の中、緑が鮮やかに潤み、宝石のように光っていました。
「もう生きたくないよ。人生とか、人間とか、だって結局はむやみやたらとこすりあい、傷をつけたり直したりしながら、死んでいく。」
「じゃあもう生きなくていいよ。ここで眠っていなさい。その代わり、あなたの魂は私の世界のエネルギーになってもらう。」
「わかった、いいよ、たましいをあげる。」
女神と人間は契約を結び、人間は心地のいいところで眠りにつきました。
女神は人間の魂からエネルギーを取り出して自らの星に率いれ、核として埋め込み、一つの星に命を引き込みました。人間は幸せな夢を見ています。自分の命が大地となり、生命を育む美しい夢です。世界は穏やかさに満ちていました。それでもそのうち星の上では争いなどがおきはじめ、だらだらとしていた平和は終わりを告げました。
人間はひどい悪夢にうなされて目を覚ましました。
辺り一帯が燃え尽きて焦げ、地面はえぐられて大変な様子です。その星の様子に女神が不本意でその土地を見に来ました。
憔悴した風景に呆然とする人間を見つけて女神はいいました。
「あら残念。あなたを起こしてしまったわね。あなたとはなんの関係もない星なのよ。また眠りなさい。」
それを聞くとふわんりと眠気が襲い、人間は眠ってしまいました。女神は残った大地を再び融かして、今度は水の星を創りました。
人間はまた幸せな夢を見ました。美しい青い水が星をみたし、その中でいくつもの生き物が生まれては死に、生まれては死んで、命が輝きながらめぐっています。水の底から沸き上がる銀色の泡は、いつも光に照らされながらきらきらと空の上へと昇っていきます。
心地よい潮騒が人間の耳に届き、人間は安らかでした。しかし海を見つめているうちに、だんだんと生物は大きくなり、やがて争いを始めました。青い海は真っ赤に染まり、大地は火を吹いて水を煮え立たせました。最後には大きな火の玉が海を焦がし、大地は砕け散りました。
人間は自分の心臓の音で目を覚ましました。水があったはずの大地はグツグツと燃え盛り、煮えたぎるマグマ、それから、焼けた生物の死骸の匂いが辺りに充満して、人間はどうして、と悲しい気持ちになりました。
やがて女神がやってきていいました。
「あーあ、またこうなのか。命というものは面倒なものね。気を付けていてもいつかはこうなってしまうわ。」
そして人間に向かって、
「やっぱり起きていたのね。眠りなさい。あなたはもう、いないのだから。」
人間は女神の言葉を聞いて、心地よい眠気が襲ってくるのを感じ、目を閉じました。
私に必要なのは、なんなのだろう、と心の底で問いながら、永い眠りにつきました。
女神が星を創るたびに、人間は安らかさと染みのようににじむ不安を感じました。
おわり
2023.11.12