ちっちゃい店のオーナーシェフ青春雑記#3井の中の蛙
「お前は指が長いから、職人向きやな」
事ある毎に繰り返した父の気持ちが
今なら少し理解も出来る
戦前から繋がれた伝統を、自分の代で終わらせる無念さは有っても
時代に取り残された職業に向いているとは言えなかったのだろう
勉強が出来ないわけでも、運動神経が鈍いわけでもなかったし
ある程度の努力でそつなくこなすが、トップには立てない
器用貧乏は自覚していたものの、それほど嫌悪感は無かった
「本気出せば誰にも負けない」
今となっては、恥でしかない
そんな自分を疑わなかったし、それを裏付ける程度の才能には恵まれていた
はずだった
年齢も体格も、それほど変わらない20歳の青年に対し、副料理長と名乗ったその男は
明らかに他者とは違う何かをまとっていた
「お?今日から出勤か・・・よろしく〜。」
「何年産まれ?」
「・・・って事は俺と4つ違いか。若いねぇ」
冗談言うなよ
たかだか4年でここまで差がつくわけないやろ・・・
彼と職場を共にしたのは、20年以上に及ぶ飲食業人生でたったの3年程
なのに、いまだにその光り輝く最悪な日々が
脊髄にこびり付いて離れない