ちっちゃい店のオーナーシェフ青春雑記#1「料理人になったきっかけは?」
聞いた相手が納得しやすいテンプレートを探すか
それとも多少の誇張を交えてでも起伏のある物語に仕上げようか・・・
どちらにしたって聞き手にもメンツが有る
「子供の頃、何の気なしに作ったカレーを両親が褒めてくれて・・・それが切っ掛けかもしれないですねww」
嘘を吐いたつもりはないけど、たったそれだけで人生の方向を決めるほど短気でもない
本当の理由なんて
「なんとなく」
以外の何物でもない
「同級生より上手くやれた」
「飲食のバイトが楽しかった」
「親が褒めてくれた」
「彼女が喜んでた」
ちっさなピースを組み合わせたら、「なんとなく」って書かれたジグソーパズルが出来上がった
大層に額に入れて飾ってみたら、それっぽく見えるようになっただけ
それでも2年通った専門学校の教師が呆れる程度には就職先にこだわった
「僕がこちらの店で1番料理が上手くなったら、料理長になれますか?」
我ながら不躾な若僧の質問
面接担当者のほぼ全員が真剣に
暴言とも言える若気の至りを受け入れ、聞き流してくれた
「お前オモロいなwwやれるもんならやってみいよ。そない甘ないけどなww」
従業員から「マリオ」とあだ名された、ちょび髭の社長は、笑いながら20歳の小僧を採用してくれた
4年後に諸先輩を差し置いて、「料理長」と呼ばれた僕が
「長」にこだわるのには、相応の理由があった