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この夏、精神闇底だった私の回復記録


※このnoteは、2020年夏に精神闇底だった私が回復していくまでの個人的記録です。その方法を推奨する目的はなく、感情の詳細を覚えているうちに書き残しておきたかっただけの人間標本です。一切参考にしなくて大丈夫です。


8月中旬、きづいたら精神が闇底に落ちてた。
幼稚園へのお迎えに向かう歩道でも晩御飯を作る夕暮れの台所でも、散らかったニューブロックを片付けるリビングでも前触れなく涙が溢れる。梱包材のプチプチで私だけぐるぐる巻きにされてるようで社会とのあいだに隔たりがあった。思考回路にヘドロが詰まったようで考えが進まない。何を考えても「消えたいなあ」という気持ちで行き止まる。自傷行為をしたいと思ったのは14年ぶりだった。明らかにおかしかったのに「おかしかった」と断言できるのは2ヶ月経ってやっとだった。

全員が敵だった

この8月に一体なにがあったかというと。
はじめての本が出た。発売日は8/6だった。有名でもない私からすれば帯も出版記念イベントもめちゃくちゃ豪華にしてもらい、さらに異例なほど多めの初版部数だった。出版社の担当編集さんは私の願いを馬鹿にすることなく全部叶えてくれた。本当に良くしてもらった。発売して数日でスッキリの森アナウンサーがおすすめツイートしてくれたときは心の底から嬉しくて笑顔で眠った。……はずだったけど、それ以降爆発的に売れるという感じはなかった。本が出て1週間くらい経って、あるインタビューの現場で「売れてますか?」と聞かれた。

純粋な質問だ。重版してなかったので曖昧に答えた。日々感想ツイートはたくさんあるのに、重版してなかった。売れてます!と断言しなかった私にその場の空気が明らかに微妙になった。そこにいた数人の表情をみたとき、わ、そうなんだ、と思った。

「もうこの著者終わりだな」という目をされているように感じた。相手はまったくそんなつもりなかったと思うし私の受け取り方の問題なのだけど「このタイミングで重版してないってこんな感じなんだ」という重い衝撃があった。帰り道、エレベーターの下がるボタンが押されたみたいに世界が沈みだした。夜には地下15階くらいまで落ちてた。この日から本の事を考えるたび苦しくなった。

そこからは悪い意味でトントン拍子だった。もう時系列は覚えてないけど、仕事以外で誰かに会ったり連絡することができなかった。もともと約束していた仲の良い友達とだけ一度お茶した。そのとき「本も出た事だし、これからしたいことある?」と聞いてくれたその子に何も返せなかった。そんなこと初めてだった。特にここ数年の私はやりたいことで溢れてた。なのにその時の私は先のことがまったく考えられなかった。未来を想像すると無だった。

孤独だった。繰り返すが編集さんや出版社さんや連載編集者さんはめちゃくちゃ手厚く親身だった。これは、私のもともとのメンタルの特性と「1冊目の本を出すこと」の食い合わせの問題だったと思う。世界で自分だけがこの本のことに命がけで、家族以外の「地球上の全員が敵」に思えた。「悲しい」が「憤り」に変化していた時期だった。

だけど日常は続く。連載の原稿も書く。インタビューも受けるし書店挨拶も行く。Twitterやインスタも淡々と更新する。2回くらいだけ、インスタのストーリーズに「精神が闇かも」と明るめに書いたりした。それ以外ふつうっぽくこなした。

これはまずいかもしれない

メンタルを扱う本を出しているのに、自分のメンタルに関して「ちょっとまずいかもしれないな?」となんとなく思えたのは、その状態で2週間くらい経った9月初旬だった。子供達にあまりに強くあたってしまうようになってた。心療内科に電話した。希望した日がいっぱいだった。またかけなおしますと言って切った。

今でも信じられないが、その瞬間わたしがしたことがなんだったかというと、ほとんど無意識にamazonを開き、断食ドリンクを3本注文していた。3本で15000円。6日分。

届いたのは5日後。
その頃あまり判断能力がなかったのだけど、ひとまず「15000円を無駄にするのはもったいない」という気持ちだけで断食をはじめようとした。断食は何度もしたことがあるのでやりかたはわかる。だけどあのメンタルになって初めて気付けたのだけど、そのときの私にとって断食はかなりハードルが低い行為だった。行動を増やす必要がなく「しない」を増やせばいいだけだったから。

「断食ドリンクしか飲まない」は楽だった。何を食べようとか選ぶ必要もないし、頭を使う回数が減ってよかったと思った。

断食期間前半は自然と眠くなり、ひさしぶりによく眠れた。その時期は抱えていた締め切りもちょうどない週で、断食ドリンクを飲むか寝るか子供を迎えに行くかご飯をたべさせてお風呂にいれるかとかだけを淡々とこなし毎日20:30に眠った。

断食5日目くらいから、視界が晴れていくのを感じた。今までの断食でもそれは感じたことがあったけど、今回は特に、ヘドロと油汚れで真っ黒な排水溝状態だった脳をパイプユニッシュでぜんぶ洗い流すみたいに、晴れていった。6日目には「プリン食べたいな」と思えるようになってた。


それから明らかに調子は良くなっていったけど油断しないよう食生活にも睡眠時間にも細心の注意を払い生活を続けた。多めに歩いたりもした。

出演イベントのために料理コンプレックスのnoteを書かないといけなくて、それだけはちゃんとしようと思って書いた。すると、それが思いの外読まれた。そのとき、「本が重版してなくてもnoteが読まれることもあるんだ」と、今思えば不思議な不安理論が大きく覆った。そのまま、藁をも掴むという感じでその週、立て続けにnoteを二つ書いて公開した。元彼に関するnoteとビンテージショップに関するnoteだった。とくにビンテージショップのnoteが凄く読まれた。そこで書いたお店にお客さんが殺到した。私の文章を読んで実際に動いてくれる人までいるんだとかなりびっくりした。

そのあと、そのnoteを読んでくれた大型書店さんが、発売一ヶ月半という異例のタイミングで書店入り口で私の本を大展開してくれた。そして私のnoteをみてくれた文藝春秋の方から執筆依頼がきた。救われた、と思った。だんだん「あの夏、私はひどい精神状態だったな?」と客観的に実感するようになった。そして最近、新たに出版社さんから「本を出しませんか?」という連絡をもらった。重版してなくても、また別の本が出せる世界線なんだ…!と心底驚いた。この人生は終わってないかもと思った。

断食もnoteもしなくていいが

このnoteで私が言いたいことは、断食しよう!とかnote書こう!ではない。全然違う。そんなん人それぞれだ。違う。そういうことじゃない。何が言いたいかというと……

・少しでも心の異変を感じたらすぐ無理矢理、身体的に休もう

・本を出すという行為はメンタル生命に関わる可能性があるから今後本を出すときは事前に行きつけの心療内科を作っておこう

という自分への伝言。8月に出た本のなかで私は「死ぬまでにやりたいこと100」を書くことを勧めているのだけど、メンタルが地下にあるときそれは無理でした。そこに至るためには身体から根本的に回復させるしかない。私の場合「断食」という強制身体回復ツールを使ってしまったけど、これは相性があるし人による。太陽を浴びる、適度に歩く、できるだけ添加物を取らない(私は添加物取るとイライラしやすいので普段からとってません)無理やりでもお風呂に入る、とか。身体回復を最優先にすることこそ重要だったと思う。

そして、本を出す事に限らず自分の状況が大きく変わりそうなとき、感情が大きく一喜一憂しそうなとき、相談にいける心療内科に目星をつけておくことは本当に必要。ぜんぶ当たり前のことかもしれないけど、そんな当たり前のことがなんなのかわからなくなるときがあると強く実感したのでここに残した。

頼れなかった私がはじめた活動

闇底だったあの頃を振り返りはじめた10月初旬。改めて最大の発見だったのが、あの頃自分が「人を頼ることができなかった」ということ。

もともと誰かを頼るのは得意なほうなのにあの頃は「(重版もしてない自分は)価値のない人間だから」という思いが強すぎて、何かをお願いしたりできなかった。振り返ってそれに気づいた私は突然「あのときの私のように、自分に価値がないって思ってる友達がいたらどうしよう!!!!!!!!!!!????」と急に思い立ち、めちゃくちゃ久しぶりの友達も含めて1日20人くらいの相手に【あなたのどこが好きか、すごいか、価値だと思うか】を一方的にメールする活動をはじめた。(みんな急にごめんね)

ほとんどの相手からの返信が「どうした?w」だったが、みんな嬉しそうに長文で返信をくれて、色々久々にやりとりできた。こんなに脆い自分にできることなんてほんとに少ないんだけど、自分が好きな相手に「なんで好きか」伝えることくらいはできる。そんな少しのできることを、し続けたいと思った。それが何にもならなくても。

あとちょっと話は変わるのだけど、これまで私は恋愛でもそれ以外でも「誰にどう愛されるか」ばかり重視してた。だけどこの活動で私は「誰をどう愛してるか」こそ自分らしさなのかもしれない、と気づいた。いろんな相手に好きなところを書きまくって送りまくるあいだ、ああ、こんなふうに私は誰かを愛しまくってきたんだと噛み締めていたら、エレベーターの「のぼる」ボタンでじわじわ日向に上昇するように朗らかな気持ちになった。


日々、悲しいニュースが飛び交う。
それを全部嬉しいニュースに変えることはできない。だけど今日もこれからも私は誰かにその子の好きなところを送りつけようと思う。それだけはどうしてもしたい。生きる価値がない人なんていないのだ。

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