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ナントカカントカ、パレルモ

 乗り換えは旅である。

「わかった!私たちいま船に乗ったのよ。列車ごと、乗ったの」
「・・・・線路はどうなったの?」
「・・・・線路ごと、乗ったんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・」
でもその通りだった。あのマークは、列車を降りて船に乗れ、という意味ではなくて、ここで列車が海を渡るぞ、という意味だったのだ。

江國香織「旅ドロップ トーマス・クックとドモドッソラ」

旅は些細な出来事で溢れている。

 これはイタリアを舞台に描かれている。主人公たちはパレルモという街を目指す。日常と違って、とおいとおい国での物語。異国の寝台特急は電車ごと船に乗り上げ、そしてそのまま乗船する。情景は船内で真っ暗なのに、”私たちは行き先を間違えていなかったんだ”と明るい光を見せてくれる。描写とは裏腹に主人公たちの心は高揚感で満ちていてボクのとても好きなシーンの一つだ。いつか行ってみたい。そんな気持ちにさせられた。
 シェークスピアだっただろうか。「人生は選択の連続である」と格言として残している。ボクの日常でも「息抜きにコーヒー、飲みたい。でも節約中だし、、我慢しようかな。」「この服まだ着る?とりあえず残しとく?思い切って売っちゃえ!」と脳内は些細な選択で溢れている。異国のこのシーンも些細な出来事ではあるはずだ。「乗り続けるか?」OR「降りるか?」。日常以上に旅先では選択の瞬間がくっきり強調されることに気付かされた。

目的地に着く前に

 ホテルは旅の目的地であってほしい。ボク自身はそんな想いもある。でも旅先での機微は目的地に着く前から始まっている。それがたとえ国内であっても。自分自身が日常と感じるラインを超えて旅先になった瞬間からより選択肢がはっきり輪郭を帯びてくるように強くなっていく。
 普通はホテルの話を書くのかな?と思いつつ。なんとなくこの話が一番最初に書いてみたかったことだった。ちなみにドトールのコーヒーをちょうど飲み終えたところ。これからも些細な選択は続いていく。


*星野リゾート社員が「旅」について書いています。

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