見出し画像

宮川慶子が【 Suisui 】に20の質問をするゆるトークインスタライブ-中編-

こちらは、2022年11月30日(水)にInstagramのライブ配信で開催された美術作家のSuisuiへのロングインタビューの文字版アーカイブです。
音声データから文字起こしをした後、文章として読みやすいように編集しています。
ちょっと長いので記事を前編・中編・後編に分けて掲載しております。

前編はこちら
後編はこらち


作品について(つづき)

⑦最近の作品は植物を画面いっぱいに描いている中に、動物がちらちらと見える内容が多くなってきてるのはなぜですか?

【宮川慶子】
また次の質問なんだけど、過去の作品を見ると、犬が単体で描かれていたり、ひとつのモチーフを描く印象が強かったんだけど、最近の作品は植物を画面いっぱいに描いている中に、動物がちらちらと見える内容が多くなってきてるのはなぜですか?
さっきの話を聞いていると、 境界からちょっと顔を出そうとしてる生き物がいたりだとか、守られていたりとか、Suiちゃんが小さい頃から見てきた自然の風景だとか、神社の周りに木が生えていてそれが自分や建物を守ってくれるような感覚になっているのが、今の制作にも繋がっている印象です。

【Suisui】
そうだね、それは大きいかも。
あと、垣間見えるということは、その物事の一端を知るということです。多面的な物事のすべてを掌握することは難しく、とてもわかりきれないということを自覚することと、それでもその一端を掻き集めてわかろうとする姿勢や欲求を意識しています。

守られているという側面と、垣間見えるということも含めて、植物の向こう側にいるということを描くようになりました。

木の葉の向こうで
2021
大色紙(232×272mm)
岩絵の具、アクリル絵の具、アートグルー、画仙紙
(個人蔵)

【宮川慶子】
うん、うん。

【Suisui】
守るということで言うと、慶子ちゃんが言ってくれたように以前はもっとしっかり犬が描かれていたり、 モチーフが向こうに隠れてるものばかりじゃなかったんだけど、 これまで犬を描いていると、私の本当に追求したいテーマよりも、描いた犬の姿形が鑑賞者の好みかどうかという見られ方をすることが多々あって。

それはそれで見る人の自由であり、鑑賞者を過度にコントロールしたいわけでもないんだけど、もしかしたら愛玩の対象である犬の写実的な形というものが、鑑賞の邪魔をしているのかもしれないなと考えたんです。 もっと本質的に、見た人の内側に向かうような表現の必要性を感じました。

そこに付け加えて、作品の中の生き物の姿形を…例えばペットショップに並ぶ子犬たちに向けられるような、ルックスをジャッジされる視線から少し守りたいなという気持ちも芽生えて。
なので植物の向こうにいるように、ちょっと守るような気持ちで、向こう側に配置するようになったというのはありますね。

【宮川慶子】
大きいですね、それ。

【Suisui】
作品としては良くなったなと思ってて。
あと、もっと形自体から自由になりたいなと思ってます。

【宮川慶子】
形自体から自由になって、解き放たれたいんですね。


⑧制作では何を大切にしていますか?

【宮川慶子】
そこから、8問目の質問で、制作では何を大切にしていますか?

【Suisui】
最近特に大切にしてることは…表現に必要なものだけで作品を作っていかないといけないんじゃないかという思いが強まっているので、必要なものを見極めていきたいなと思っています。
変に囚らわれることがないように、大事なところを見誤らないようにしたい。

【宮川慶子】
楽しいからとか、そっちの欲求に行っちゃうと、絵の本質が見えなくなっちゃうということですね。

【Suisui】
例えば、描けるから描くとか。
私は浪人していたこともあってデッサン力を鍛える期間があったから、ある程度は写実的に描こうと思ったら描けるんだけど、それが本当に絵にとって必要かどうかということですね。

【宮川慶子】
形は時間をかければどんどん良くなるもんね。

【Suisui】
本質的に必要な表現にできるかっていうのを私は大事にしないといけないなと、自戒を込めて最近は特に思ってますかね…。


制作方法について

⑨制作に使用してる画材や素材を教えてください。

【宮川慶子】
なるほど、ありがとうございます。
じゃあ、制作方法について3つ質問をします。
制作に使用してる画材や素材を教えてください。

【Suisui】
ずっと使っているのは岩絵の具で、最近はアクリル絵の具も使っています。支持体は綿キャンバス、メディウムは膠じゃなくてアクリル樹脂製のアートグルーを使っています。
土佐典具貼紙っていう薄い和紙を使って木版画の技法も取り入れ始めてるんだけど、版木はIllustratorでデジタルデータを作ってレーザーカッターに細かいところを彫ってもらって、広い面は彫刻等で手彫りして作っています。

Suisuiのアトリエ風景

【宮川慶子】
結構いろんなものを使っている!

【Suisui】
結果そうなってきた。形態としてはミクストメディアですね。

Swing the boundary 1, 2
2022
F30(910×727mm)×2
岩絵の具、アクリル絵の具、水干、アートグルー、ヤマト糊、土佐典具帖紙、綿キャンバス


⑩岩絵の具と土佐典具貼紙について教えてください。

【宮川慶子】
アクリル絵の具とか綿キャンバスとかは知ってるんだけど、さっきの薄い和紙の種類についてとかは、私はちょっとわかんなかったので、岩絵の具と土佐典具貼紙について教えてください。

【Suisui】
ます岩絵の具はざっくり言うと、鉱物や色ガラスを粉にしたもの。
天然の鉱物を砕いた「天然岩絵の具」というものがベースにありつつ、 「天然岩絵の具」の色数の少なさを補うために人工の岩絵の具も今はたくさん開発されています。
例えば、「新岩絵の具」という人工岩絵の具は、釉薬の技術を応用してガラスの塊を作ってそれを砕いて作られていますし、他にも、方解末に着色した「合成岩絵の具」や、環境に優しく人体にも安全な岩絵の具なども開発されています。

【宮川慶子】
天然岩絵の具と人工岩絵の具だと、値段が全然違ってこない?

【Suisui】
天然の青や緑はめちゃくちゃ高い。あ、でもね、色(鉱物)によっては天然の方が安いっていうこともある。

【宮川慶子】
あ、そうなんだ。

【Suisui】
岩絵の具の特徴についてもう少し細かく言うと、綺麗な色の鉱物を砕いて色材にすること自体は日本独自のものではなくて、西洋画もそうだし、鉱物顔料は世界中にあるものなんだけど、その中でも岩絵の具の1番の特徴は、粒子の粗さと、その粗さにバリエーションがあり、同じ原料から作られた同じ名前の色でも粒径の違い(番手)で明度が異なる階調に分けられているところです。
また、色同士の粒子の粗さの違いや、同じ粗さでも鉱物の比重に違いがあるため、基本的に岩絵の具同士を絵皿上で混色することはできません。
使いこなすには難易度の高い画材ではありますが、その粗さによって鉱物自体のきらめきや色の美しさが際立ったり、絵肌に独特なマチエールが生まれるところが魅力かなと思います。

『めぐりみのる』作品部分

【宮川慶子】
面白いね。岩絵の具って単体だとくっつかないから、膠で溶いて使うんだけど、Suiちゃんは膠じゃなくてアートグルーを使ってるんだったよね。
粒子の粗い岩絵の具をアートグルーで溶いて、画面に塗っていくとどんどん分厚くなっていくってこと?

【Suisui】
そうだね、ひとつひとつの粒子が、例えば水彩絵の具や油絵の具より大きいから、厚みが出たりマチールがつきやすい。

【宮川慶子】
Suiちゃんの作品を生で見ると結構ポコポコしてる。

【Suisui】
それから土佐典具貼紙についてだったね。私は土佐典具貼紙に版画で模様を刷って、それを画面に貼り付けているんだけど。すごく薄くて強度のある和紙です。

土佐典具貼紙

【宮川慶子】
すごく綺麗。初めて見た。
えー面白い。もうちょっと分厚い和紙に版画を刷って貼ってるのかと思ってた。
そんなに薄いんだね。

【Suisui】
世界一薄くて丈夫な「蜻蛉の羽根」の異名を持つ和紙で、西洋画の修復とかにも使われたりしているらしい。

【宮川慶子】
めっちゃいい情報だ。なるほどね。
質問がきました。
「土佐典具帖紙は作品にどのように使っているのですか?」

【Suisui】
制作途中で貼り込みます。薄い土佐典具帖紙に版画で模様を刷ったものを、画面全体に張り込んでいます。その上からさらに加筆して仕上げていきます。
これによって画面に肉筆とは違う表情や、多層的な透明感が増す効果を狙っています。

『Swing the boundary』作品部分
個展「Swing the boundary」展示風景
(Gallery field, 2022)

【宮川慶子】
何で貼っているのですか。

【Suisui】
これもアートグルーです。

【宮川慶子】
貼るのは全部アートグルーなんですね。
アートグルーは黄変はしないですか?

【Suisui】
アートグルーはアクリル性樹脂ベースの水性糊剤なんだけど、絵画用として黄変しにくい樹脂が使われています。私は下地にアクリル絵の具も使っているので相性は悪くない。アクリル同士なので。


⑪岩絵の具でキャンバスに描くのと、木製パネルへ張り込んだ和紙に描くのとでは、違いはありますか?

【宮川慶子】
次の質問は、最近Suiちゃんはキャンバスに描いてるんだけど、岩絵の具でキャンバスに描くのと、木製パネルへ張り込んだ和紙に描くのとでは、違いはありますか?

【Suisui】
まず第一に、キャンバスは軽いな。

【宮川慶子】
そうだよね、パネルは重いよね。

【Suisui】
大きい作品になるとパネルだと本当に重くて。
実は2020年4月に交通事故で腰を痛めて、リハビリにもしばらく通ったんです。
それ以前にもギックリ腰になったり、前々から腰に不安を抱えていたんだけど、事故を経て、もう重いのはむりー!となって(笑)
私の場合、支持体として繊細で高価な和紙にこだわる表現的メリットが、軽くなること以上にはなかった。支持体の和紙の表情をすごく生かした表現をしているかっていうと、そうでもなかったから、私の場合はそこはこだわりポイントじゃないなと判断しました。

今は2階にアトリエがあるんだけど、2階に上がるための階段は大きい作品が通らないので、ベランダから紐で吊るして上げ降ろしをするからキャンバスだと軽くて助かってます。

【宮川慶子】
しかも、岩絵の具って絵を寝かせて描くよね。
大きさが1メートル超えてきたりすると、それだけでだいぶ腰に負担かかるもんね。

【Suisui】
寝かせてる画面に向かって屈んで描くこと自体、腰が痛いんだけど、制作中は絵を寝かせたり、起こして壁に立てかけたりを繰り返すから、軽い方がいい。

【宮川慶子】
じゃあキャンバスにはいつぐらいから変更し始めたんですか?その事故をきっかけにしてかな。

【Suisui】
事故の後すぐはまだパネルと和紙だったんだけど、やっぱり負傷した腰が痛くて。大きい作品をキャンバスに切り替え始めたのは、2020年の冬くらいからかな。

【宮川慶子】
いい決断でしたね。


後編へ続く!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?