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スイスのブドウ品種⑤ PETITE ARVINE:プティ・アーヴァイン 

スイス国内のブドウ畑の約1.5ー2%である約250haしか作られておらず
どの言語で検索しても情報があまり出てこないブドウ品種です。

  • ワインの作り方によって辛口から甘口まで、幅広い表現が可能

  • 典型的なアロマも様々なため、ワイン生産者さんの探求心をくすぐる

  • バランスが取れた構成になりやすくそれを欠いたワインは稀な、安定感

ヴァレーで作られていて、弱く、栽培条件が難しいために
『要求が厳しすぎる領主』に例えたがる専門家もいるとか。

これからの発展が楽しみなブドウ品種の一つです。


原産地

かつてSavoy公国で栽培されていた大変古い高貴とされる品種の一つです。

1700年の時点ですでにスイスの南にSavoy公国が広がっていたことがわかります。

シャスラの回でもSavoy(サヴォワ)は登場しましたが、同じエリアで栽培されていた可能性があります。

最初にこのPETIT ARVINEが歴史に登場したのは1602年のMolignon村とされています。

また、1878年の国際Ampelographic(ブドウ品種学)協会の学会
Geneva(ジュネーブ)で行われたときに以下が定められました。 

PETITE ARVINEは、世界中でもスイスのValaisにしかないユニークな
ブドウ品種であると宣言する。

※ ただし、どのような調査に基づいてこれが決定されたのか、信頼性が担保されていたかは不明

現在の生産地はスイスのValaisがほぼメインで、ほんの一部が
イタリアのValle d'Aosta (ヴァレ・ダオスタ)でも栽培されています。
やはりかつてSavoy公国のあったエリアで、国境はあるものの
ほぼ同じ地域といっても過言ではありません。

スイスのValaisの南に接する、AOSTA谷(Valle d’Aosta)

1970年代には14haしか栽培されていなかったPETITE ARVINE。
いまではその品質が認められたため生産量は増え始め、かつての30倍以上に
なっています。



名前の由来

Petite: 房が小さい
Arvine:Valle d’AostaエリアにあるArve Valley
=(シノニム)ARVENA / ARVIN / ARVINA / ARVINAZ / ARVINE /
ARVINE BONNE / ARVINE BRUNE / ARVINE DE SION /
ARVINE GRINGE / ARVINE MAUVAISE / ARVINE ROUGE /
AVENA BONNE / ERVINE / ERVINAZ / ERVINE / ERVINE BRUNE

vivc.de

つまり、名前からも推察できるのは:

Savoy公国であったValle d'AostaからスイスのValaisに(南から北上)
PETITE ARVINEが入ってきたこと

ブドウの起源がこの周辺であることもほぼ間違いないでしょう。

ただしここで注意があります。

ARVINE  ARVINE GRANDE = SILVANER のシノニム

Silvaner.PETITE ARVINEよりも粒が大きく、全く異なります。

Grosse Arvine(Grande Arvine) ≠ PETITE ARVINE
(Grosse ArvineはPETITE ARVINEの子孫とされます。)

つまり、Arvineだけが記載されているワインの場合、PETITE ARVINEなのかSILVANERなのかわかりません。
さらに、Grosse Arvineとの混同も避けなくてはなりません。

PETITE表記は19世紀にGrosse Arvineと区別するために修飾語として
あてられることになった、常に必要なものなのです。


『要求の厳しすぎる領主』とは

イメージ画像:Le Droit Du Seigneur 1874, Vasily Polenov

ブドウ栽培上PETITE ARVINEは傷みやすく繊細で、収穫を無事に終えるには生産者さんの手を煩わせます。
その様子が厳しい領主を髣髴とさせる、というのです。

PETITE ARVINE
  • 房が壊れやすいので風から守る必要がある。

  • 若い新梢も脆くて風に弱く、簡単に折れる。

  • 葉っぱは更にもろい。

  • ペド病、ダニ、灰色かび病(Botrytis cinerea)、除草剤、水ストレスに弱い。

  • 石灰質のよく露出した土壌で、日当たりも水はけも良く、夏の乾燥に悩まされない土壌を特に好む。

  • 日当たりは良くても上述したようにもろいので風はNG。

  • 夏の乾燥しすぎはNGだが、肥沃で湿った土壌とは相性が悪い。

  • これだけ大変にも拘らず、発芽は早いのに非常に晩熟で、完熟には多くの日数・日照が必要になる。(Chasselasより1カ月も熟すのが遅いことも)

PETITE ARVINEを完熟させるとシロップのようなワインを作ることもできるため、生産者さんは大切にPETITE ARVINEを育てています。

なお、PETITE ARVINEの一般的なOechsle指標は95-110°Oeです。

Oechsle指標とは:
°Oe = <1ℓの果汁(20℃)の質量> ー <1ℓの水の質量(1 kg)>
例:1ℓの果汁の質量が1070gだと、Oechsle指標は70°Oe。
この質量の差は果汁中の溶解糖によるため、ブドウの熟度や糖度を示す。Oechsle指標が高いほどアルコール含有量が高くなる。

Wikipedia


DNA分析結果

PETITE ARVINEは孤児的ブドウ品種といわれる程、近縁が
見つかっていません。
2019年に発表された論文で、古代ローマ時代のブドウ種子のゲノムワイドシークエンスデータと関連性があることだけはわかっています。

Palaeogenomic insights into the origins of French grapevine diversity (Nature Plants | VOL 5 | JUNE 2019 | 595–603)

これによって、Amigneと近縁の噂は否定されました(完全に関係がないとは言えないものの、少なくとも近縁ではない)。

Amigne 。確かに、実の密集具合は異なります。(note loose bunch composition) © Vins du Valais

どちらかというとChasselasや上述したGrosse ArvineとDNAのつながりを
示唆されていますが、詳しくはわかっていません。

PETITE ARVINEを調べて見つけたこのブドウの図で、
なかなか存在感を放つSavagnin Blanc(HEIDA)と、古代ローマブドウ品種との関連にも驚きました。


PETITE ARVINEから作られたワインの特徴

The Oxford Companion to Wine– 2006/10/1では、『Valaisの特産ブドウの中で最高級』との記載があります。

The Oxford Companion to Wine– 2006/10/1

非常に個性的で、エレガント、複雑です。
基本的に非常にバランスが良くて、塩味の後味を持ったキビキビとした
フルボディの力強いワインを産みます。

塩味(ミネラル感)は、石灰質系の土壌から来ています。

骨っぽい辛口とねっとりした甘口まで幅広い

辛口だとグレープフルーツや藤の花系
甘口だとルバーブやパイナップル、マンゴー系になる傾向です。

フローラル系:白い花、オレンジブロッサム、ジャスミン

白い花の例:エルダーフラワー

果物系:グレープフルーツ、レモン、タンジェリン、リンゴ、メロン、
    パイナップル、グァバ、パッションフルーツ、バナナ

タンジェリン(皮の向きやすいオレンジ)

野菜系:ルバーブ(のジャム)、フェンネル、緑茶、グーズベリー、
    さやえんどう、ハーブ

ルバーブ。酸味を持つのでお菓子づくりにも用いられる。

穀物系:全粒粉パン、菓子パン、大麦

火を通した系:レモンの皮の甘煮、レモンキャンディ、フルーツジャム

ミネラル:砕いた石、塩味、火打石


国際的な評価を得た生産者の一部が、スイス以外のヨーロッパで
PETITE ARVINEの栽培を始めているとのうわさもあります。
Valaisは、PETITE ARVINEを保護するルールを設ける仕組みを作ろうと試みているようです。

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