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好きな人とZoom飲みをした話

GWの午後3時、こんなにもジャイアントコーンが幸せをもたらしてくれるとは思わなかった。紅茶をすすりながら、甘い余韻に浸った。

◇◆◇

「Zoom飲みしましょう!」と誘えたのは、意外にも、向こうからのLINEが発端だった。

感染症の影響が心配になった、と声をかけてくれたのだ。東京の私は既に在宅勤務となっており、地元にいる先方は医療関係ということで出勤しているのだという。

むしろ、あなたの方がリスクが高いのでは…と思ったが、実家暮らしのため、一人暮らしの私を案じてくれたのだとみれば、本当にうれしいとしか言いようがない。

私は在宅勤務をそれなりに楽しんでいたが、好機逸すベからず、「人と話せないのはさみしいですね~」と巷で話題のオンライン飲み会に誘った。

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※やる気に満ち溢れている写真

で、きたる20時。仕事から帰って支度をしてるのが画面に映った。

カービィが描かれたグラスに、ぶどうジュースかのように赤ワインが注がれる。後ろには鶴と花くす玉が壁につるされ、横には背の低いポールハンガーが見えた。すべてを置いてきた自分と違って、幼い頃からの面影が残る部屋にドキッとした。

私もグラスを持って、画面越しに乾杯した。初めてのオンラインに少し戸惑いつつも「そっちは大丈夫?」と話してくれる。そんなことより、ちょうど地元で感染者が出たとニュースになっていますよね。そう話を振ると、細かくそのニュースの内容について教えてもらえた。

そして「この自覚なく感染してた人、いま辛いだろうな」と話を結ばれた。Twitterで批難轟々の言葉が漂うなか、久しぶりに当事者目線の反応を見た。昔からそういうところ好きだ。

働き始めてから、論理的、合理的な話し方が求められた。私もそれを学び、全体最適解を求めることが正義だと思っていた。課題については、次回アクション、どう改善するか。それを述べることで社会は動くんだ。

でも、どうにも、それがしっくりこないことがある。正義とのずれが自分を苦しめたりする。そのとき必要なのが優しさだと、またこの人が教えてくれた。

心の中はそんな感傷に浸っていたけど、話題はすぐ移って、最後に会ったときに訪れた居酒屋さんの話になった。「自粛でお店やってないんだろうな。すっごくおいしかったからまた行きたいね」と、その時食べた焼き鳥やお酒のおいしさを語ってもらえた。私は、色鮮やかなロックグラスに触れる手や口元が思い起こされて、ますます恋しくなった。

お互い酔いも回ってきて気づけば22時だった。
「外出できるようになったらどこ行きたいですか。私はドイツ」と、近状報告も終わってきたので、未来の話を振ってみた。

「うーん、横浜と九州かな。」海外だと?
「スペイン。」あ、好きなキャラの。
「海鮮のおいしいところに行きたいね」いいですねー函館とか。
「そういえば北海道、修学旅行で行ったよね、そこのスープカレーがとってもおいしかった」え。それは食べてないです!
「落ち着いたら、国内は行きたいね」行きましょうよ。

話の途中、締めにアイス食べたいと、ジャイアントコーンが出てきた。「最近ハマってて」と一口パリッという音がする。私も追随しようとカップのバニラを開けた。また一つ好きな人の好きなものを知れた。

もうそろそろ寝なきゃね、と言いながら気づいたら1時間過ぎていた時の幸福感といったらない。付き合いの飲み会だと、うわー…なのに、好きな人とだと、相手が時間を忘れてくれていた喜びがすごい湧き上がってくる。

「欲しいものあったら言ってね、食糧とか送るから」
「そちらこそ、感染リスクがあるんですから、気をつけてくださいね」

と言葉を返して、気づいた。
もしかして、逆に心配されたかったのかな。プライベートも職場の人とゲームって言っていたし、地元だと、誰かから気を配られるということは少なそうだ。勝手な妄想ではあるが、そうだとしたら、だいぶ可愛い。え、すごい可愛い…!

「物資は大丈夫です、それより誰とも話せなくて寂しいので、また話してください」

そうして、Zoomを切った。

地元を離れ、諦めようとして3年半、また未来に希望を持ってしまった。

◇◆◇

アイスを食べるとなったら、バニラのシンプルなカップアイスを選びがちだった。また、この間も今日もアイスを食べたい気分でもなかった。でも、余韻に浸りたくて1つ買ってみた。

今日食べるつもりでもなかったけど、買ってからなんとなくその人が思い浮かび、おやつの時間だしな、と理由をつけてぺりっとめくった。

甘いチョコレートとナッツに軽めのバニラアイス、コーンは記憶よりもふわっとした感じで、5月のサービスエリアを思い出した。

今年は帰れない、けど、去年よりもっと近くに居れそうで、諦めたくても諦められないんだなあと思いながら、GW初日を切った。

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