アフターコロナのライブと向き合う
ライブに行かなくなった7ヶ月半
緊急事態宣言が明けてから、早5ヶ月。依然として収束しない新型コロナウイルスだが、エンターテインメント界は少しずつ活気を取り戻しつつある。但し、以前とは違うやり方で。
政府によってイベント自粛要請がなされたのは、2月26日のこと。その後も一部のライブハウスで営業は続いていたが、クラスター発生報道によるバッシング、4月の緊急事態宣言発令によって有観客でのライブは一時期完全になくなった。
個人的には、2月25日のPerfume東京ドーム公演を最後にライブの現場から離れた。ライブハウスの営業が可能になったのはそれから約4ヶ月後、6月19日の事だ。
しかし、ライブ興行が再開されても正直あまり気乗りはしなかった。
もう新しい日常とやらに慣れてしまっていた。ライブがなくても生活は何事もなく続いていく。なんなら金銭面でも少し助かる。
自分の中でライブに行くハードルは年々下がり、好きな事でありながらも少し麻痺し始めていた。だからこそ、次に行くライブは本当に心に残るようなものにしよう、と暫くは静観する事にした。
結果、コロナ前最後のPerfumeから7ヶ月半が過ぎた。ここまで行かないのは15年振りだったが、かつては当たり前に消費していたライブに、なんだかドキドキする感覚を取り戻せた。ここからは、そんな10月以降に行った3本のライブについて記していく。
①COSA NOSTRA REUNION@Billboard Live Tokyo
久々のライブはCOSA NOSTRAだった。90年代渋谷系シーンで活躍したバンドの1日限りとなる再結成公演(※6月より延期)で、これを逃すと次の機会があるか分からないため、参加を決意した。
ビルボードは元々ライブハウスのような密集にはなっておらず、大人がゆったりと座って音楽を楽しめる空間だ。その点ではコロナによる影響は他会場よりマシとも言える。
それでもレイアウト変更の影響は見られた。例えばステージに最も近い3Fエリアは、以前であれば観客同士が向かい合い、飲食をしながらライブを観ていた。
しかし飛沫対策によりこの配置はなくなり、全員がステージに向かって座るようになった。ビルボードに1人でも行く身としては知らない人との相席を気まずく思った事があるので、正直これは助かる。
今回はカウンター席であるカジュアルエリアからライブを堪能した。「Girl Talk~Never Fall In Love Again~」に始まり、「Share Your Love」「Living For Tomorrow」、代表曲が次々と演奏された。後追いで知った曲ばかりなので、音源に閉じ込められていた90年代のフレーバーを2020年の空気で感じる事ができたのはとても良かった。佐藤タイジとのTHEATRE BROOK「ありったけの愛」のセッションも、コロナ前までとは違う新たな響きに思えた。
現役だけあって桃子さんのヴォーカルは音源と比べても遜色なかった。そもそもこのツインヴォーカルでCOSA NOSTRAのステージに立つのは1999年以来(!)らしい。その後、桃子さんのステージに玲子さんがゲストとして出る事はあったものの、現在玲子さんが宮崎に住んでいるため、今後も共演する機会は限られるのだと思う。
アンコール「Jolie」での全員集合の大団円を見届けてはハッピーな気持ちで帰宅し、翌日もずっとライブの感覚が残っていた。今まではライブの感覚が早々に身体から抜け、翌日には次のライブの予習を始めていた。ようやく思い出した、この感じだ。
②藤井風@日本武道館
藤井風は昨年から配信での楽曲リリースを重ねていて、コロナ禍の5月に初のCD作品である1stアルバムをリリース。いきなりチャート上位に食い込むヒットで本来なら今年の夏フェスに引っ張りだこになるはずが、コロナの影響で全て中止。ここ数ヶ月で魅了された新規ファンは生で観る機会をことごとく奪われていたわけで、なかなかの渇望状態にあったと思う。
9月に1本だけ大阪でVaundyとの対バンイベントに出演したものの、東京でのライブは昨年11月のLINE CUBE SHIBUYA公演以来。なのにいきなり武道館単独で、チケットはきっちりソールドアウト。ソーシャルディスタンスで座席数が減っていたとはいえ、規格外の新人っぷりをまざまざと見せつけられた。
密を避けるためブロックによって入場推奨時刻は違ったものの、過ぎても問題無く入場する事ができた。待ち時間が長くなるのを考慮してか、場内ではFM802飯村さんがナビゲートするラジオプログラムがオンエアされていた。これまでの活動を振り返る内容になっていて終盤には本人も登場したが、場内は拍手のみで声出しなし。武道館にこれだけの人が集まっているのに会話すらないという異様な光景だった。
注意事項としては
・ライブは2部制で合間に換気時間があること
・一席ずつ空けての着席
・サイリウムや応援グッズの使用は禁止であること
などが読み上げられ、18時54分にセンターステージでカウントダウンが表示された。残り10分からのスタートで、0になったところでライブは本編へ。
「帰ろう」のインストストリングスver.が流れる中、中央のステージに藤井風は1人で入場。原点を思わせるピアノ弾き語りで第1部がスタートした。1曲目は、まさかの「アダルトちびまる子さん」。これはかつてYouTubeに投稿された「おどるポンポコリン」のジャズアレンジver.で、その後も好評だったカバー曲を超絶テクで披露していく。
普通のミュージシャンなら原点といえばインディーズ時代にあたるだろうが、彼の場合はそれがYouTubeでのカバー投稿だった、というわけだ。また、英語で挨拶しつつもフリートークを始めると広島弁というギャップは生で見るとかなりのインパクトがあった。
第1部後半は1stアルバムから2曲を披露し、15分の換気時間へ突入。第2部は打って変わってバンドセットとなり、ギター、ベース、ドラムを加えた4ピースで進行していく。1stアルバムから一部で披露した2曲以外を順に披露していき、「キリがないから」ではPVにも出ていたアンドロイド役のダンサーが登場した。
考えてみると5月リリースの1stのレコ発ライブは実現していないわけで、1夜限りの武道館が事実上それにあたる事になった。アルバム曲が残り2曲になると映像がスタートし、ここから初公開の新曲披露がスタートした。「へでもねーよ」はこれまでの流れを受け継ぐ広島弁の歌詞ながらもエッジの効いたダンスナンバーで、更にサプライズでもう1曲披露された「青春病」はシティポップ風の新境地的な楽曲。個人的には「青春病」派で、イントロ一秒でこれは売れる!と思えるほど。"青春はどどめ色"というフレーズには会場中が唸った。帰り道では誰もがどどめ色を検索したに違いない。
ラストの「帰ろう」では天井から羽根が舞い、感動的なフィナーレを迎えた。アンコールは無く、披露されたのは第1部第2部合わせて17曲。来年にはアリーナクラスでもチケット入手困難になっている気がする。
③THE YELLOW MONKEY@東京ドーム
4月から延期されていたイエモンの東京ドームが、予定通りで有観客開催される事になった。なんでもコロナ禍以降ドームでライブを行うのは初めてのケースであり、19,000人もの人が集まったライブはなかったんだとか。通常時に50,000人を収容する事を考えればそれでも半分以下なのだが、このライブが上手くいくかどうかはアフターコロナのエンターテインメントを左右しかねないという点で、非常に重要であった。
開演は18時だが、開場時刻は15:30だった。この2時間半を30分ずつの5ブロックに分け、来場者の座席によって入場時刻が異なるというシステムだった。電子チケットを見ると、開場時刻は一番早い15:30-15:55のブロック。遅れた場合は最後の案内になる事もあるとアナウンスされていたが、入場列が混んでいなければその時間帯を過ぎてもそのまま入場可能という事だった。ただ入場は思いの外スムーズだったようで、大きな不満は聞こえてこなかった。
COCOAアプリの提示、アルコール消毒、検温、手荷物検査、電子チケット提示とややタスクは多かったがなんとか入場を済ませ、自分の座席へ。今回はなんとバルコニー席だった。1階と2階の間に位置し、僅か5列しかないという座席数の少ないレアなエリアだ。その分ゆったりとした空間で、椅子もフカフカしていて気持ちがいい。アリーナや1階の方がステージには近いが、妙に居心地が良かった。野球だったらVIP的な人も座る場所であろう。
今回、ただでさえ1席ずつ空けたソーシャルディスタンス仕様になっていたが、同じブロックの同じ列にいたのは自分のみだった。かなり快適である。ちなみに終演後の規制退場でも一発目に呼ばれたのがこのバルコニー席であり、非常にラッキーな席だった。
開演直前、ステージに現れたのはTYMS PROJECTの担当者。TYMSとはTHE YELLOW MONKEY SUPERの略で、要するにイエモンの運営という事である。今回のライブは以前のようなライブと違うところが大変多く、そのアナウンスに来たのだった。諸注意としては以下のようなものがあった。
・座席は一席空けたままで移動しないように
・携帯の電源は切らずにマナーモードへ(COCOAアプリ起動の関係により)
・東京ドームアラートへ登録を
・フリフラの着用を(※手につけるリストバンド。自動制御で色が変化する)→空いた席にも用意されているので両手に着用してもOK。フリフラを使った演出があるので、その時はメンバーに当てて
・声援、歌唱は控えて。その分、タオルを広げるなど。
・本日は1万9000人、ソールドアウト公演。ここにいる皆さんで5万人以上の熱量を。
・スタンディング、手を挙げる、拍手、体を揺らすはOK。
・終演後は規制退場
最後に、今日はイエローモンキーにとって記念すべき日であり、エンターテイメント業界においても大事な日であると語っていた。ここまでの対策を見ていても、本当にやるだけの事はやったんだろうな、と感じていた。あとは、4人の登場を待つばかりだ。
いきなり「真珠色の革命時代(Pearl Light of Revolution)」でライブはスタート。厳か且つ感動的な幕開けで、「追憶のマーメイド」「SPARK」と往年のヒットチューンが続く。
「Tactics」ではライブ恒例のOh Yeah~のコール&レスポンスが、声出し禁止により今回は不可能だった。しかし吉井さんはそのパートもカットせず一人で歌唱し、「体で下さい!」と観客に求めていた。
エマのギターソロから続く重厚な日本語ロック「球根」を最後にメンバーがセンターステージに移動すると、インディーズ時代の楽曲を含むややコアなラインナップが続く。このブロック最後となる「JAM」ではこの日初めてフリフラが光り、ドームが真っ赤な海になった。"この世界に真っ赤なジャムを塗って"の歌詞通りの展開に、胸が熱くなる。
センターステージに戻ると「天道虫」で特効がキマるなど、いつものライブ後半とさほど遜色なく盛り上がった。そして、「バラ色の日々」へ。この曲ではいつもファンがサビを合唱するのが恒例だが、例によって歌唱は不可能。事前に募っていたファンの歌声を流し、観客は心の中で歌う。その場でみんなで歌えば済む事なのに、この微妙な距離感がもどかしい。これぞコロナ禍のライブ現場である。
「パール」では"夜よ負けんなよ 朝に負けんなよ"の吉井さんの絶唱がいつも以上に胸に響いた。本来ならば4月のドーム公演を最後にしばし活動を休止し数年後アルバムリリースとツアーをする予定だった彼らは、コロナ禍を受けその予定を撤回。活動を続ける事になった。本編ラスト「未来はみないで」の歌詞はリリース当時とは違った重みを持つようになり、やけにグッときた。
アンコールは「楽園」でスタート。「ALRIGHT」では、(準備)オーライ!の声が心なしか観客から聞こえた気がした。定番曲「悲しきASIAN BOY」では特効に加えピンク色の花吹雪が派手に舞い、「プライマル。」ではラストに花火が上がる演出が見られた。蓋を開ければライブは普段より長いかも知れない、2時間50分超えの大ボリュームになっていた。
今できる最大限の配慮で、今しかできない楽しみ方でライブを味わう。コロナ禍のライブは、ピンチをいかに工夫して楽しむか?、その姿勢が試されている気がした。
避けているとまでは思っていないが、依然としてライブハウスには行っていない。ホールやアリーナよりも、スタンディングで密になって楽しむのが普通だったライブハウスの方がこれまでとのギャップに苦しんでいると思う。そう遠くない将来にライブハウスにも足を運び、新しい向き合い方を見つけていきたい。