見出し画像

498日ぶりにライブハウスに帰還した日

2021年6月6日、本当に久し振りにライブハウスに足を運んだ。

最後に行ったのは、2020年の1月25日だった。当時は確かにコロナの話が出始めてはいたものの、日本国内でここまで蔓延する想像はできていなかった。ましてライブハウスに行く事もままならない日常になるなんて、それがこんなにも続くなんて、全く考えもしなかった。

ライブハウスは早いところでは昨年の初夏頃から公演を行っていたし、地下アイドルファンなどは特に早い段階で戻っていったように思う。ただ公演数は以前と比べて格段に少なく、依然として無観客で行うものも多くあった。

ライブハウスの公演数が徐々に増えていったのは、2020年の秋頃だったろうか。自分としてはタイミングが合わず行けないものもあったし、興味があるものがない訳ではなかったが、以前よりも自分の中でのGOサインを厳しくして、どうしても行かなければ気が済まない公演が決まるまでライブハウスに行くのは控える事にした。

そして月日は流れ、2020年5月。6月6日にSCOOBIE DOが80人限定での有観客+配信で公演を行う、という知らせがあった。1部では2004年リリースのアルバム「Beautiful Days」、2部では2006年リリースのアルバム「SCOOBIE DO」をそれぞれ再現するのだという。

「Beautiful Days」は特に思い入れのある作品で、2004年の夏にずっと聴いていた。夏の朝から夜までの1日の流れを表現した名作だ。しかも初めて一人でライブに行ったのがこのアルバムの発売記念インストアライブ(タワーレコード新宿店屋上)で、初めて一人でライブハウスに行ったのも今作のレコ発ワンマンライブ(LIQUID ROOM ebisu)だった。当時のライブハウスはとても煙草臭く、少し背伸びして大人の場所に足を踏み入れたような気がした。

よくある名盤企画で今作が挙げられるのは正直見た事がないが、個人的には人生で5本の指に入るほどの素晴らしいアルバムだと思っている。そんな名盤の再現ライブとくれば、ライブハウスから離れたこの1年4ヶ月の封印を解くのには相応しい。「Beautiful Days」は17年経っても、自分にとってはじまりの作品だった。

会場は渋谷La.mamaだ。THE YELLOW MONKEYゆかりのライブハウスとして知られる歴史あるハコだが、過去に行った記憶が無い。有名なライブハウスは大抵行ったつもりだったが、知ってるようで知らない事は世の中未だ未だある。

久々のライブハウスは、入場時の検温、アルコール消毒からだ。過去何百回と払ってきたドリンク代というシステムすら何だか懐かしい。

驚いたのは、ラママのドリンク代が400円だった事だ。著名なライブハウスでは今時相当珍しいと思う。増税のタイミングで500→600円に値上げした店も多いうえ、ライブハウスは今や経営の危機である。そんな中での400円据え置きはお財布には優しいけれど、別に500円でもいいのにな、と思ったりもした。それに結局多くの客が500円玉か1000円札で支払うので、おつりの100円玉を常に大量にストックしておくのも地味に大変だろうなと思う。

場内に入ると最前列から約3列分下がったところに白線が引いてあり、それよりも前に出てはいけないルールがあった。これは演者とのソーシャルディスタンスを保つ為だ。床には立ち位置指定のマスはなく、自主的に隣の人と距離を取るルールだった。ポジショニングは観客に委ねられている。

ただこの会場の難点は、フロアの真ん中に柱がある事だ。場所によっては死角が生まれ、どうしても見られないメンバーが出てくる。視界良好な前方ブロックに立ち入れない事を考えると、ステージが見やすい場所は限られる。正直、ソーシャルディスタンスに不向きな会場であると思う。自分は端ではあるものの最前列を確保したため、一応メンバー全員を見られるポジションにつく事はできた。

一部は名盤「Beautiful Days」を収録曲順に披露するライブだ。会場ではSEが流れていたが、後日配信版も確認したところ映像のみで音はカットされていた。これはSEの権利上の問題だろう。

MCでは再現ライブについて「よくよく見ると変わったところもあるかも知れない、変わってないところもあるかも知れない」と話していたが、確かに当時とは違う部分も随所に見られた。そもそもアルバムではホーンやコーラス、ストリングスといった外部ミュージシャンを贅沢にフィーチャーしていた。当時のレコ発ライブでもゲストを迎えて披露しているので、4人でやるだけでも必然的に違うものにはなる。

例えば「ラストナンバー」は原曲よりキーを下げているし、「パレード」はAメロのギターがカッティングではなくストロークになっている。このあたりまでは以前のライブでも確認できていたが、他にも「Urban Souls」ではサビに入る前のドラムのリズムが音源とは大幅に変わっていたし、当時よりも楽曲が幾分力強く感じられた。さんざん聴いたアルバムでも新たな魅力を発見できるのが、再現ライブの醍醐味である。

個人的にも大好きなのが7曲目の「美しい日」だ。MCでは6曲目まではレコードでいうとA面、ただ次の曲がB面という感じでもなく、むしろその次の曲の方がB面の1曲目っぽいので、次の曲はA.5面だと説明していた。確かにこれ、とてもよくわかる。ベースがウッドベースに、ドラムがカホンに変更されるなど、アコースティックで柔らかなタッチはアルバムの中で、或いはキャリアの中でも異質だ。夏の日の1番暑い時、鎌倉駅から由比ヶ浜への道のりをイメージしているらしく、2年前を最後に行けていない鎌倉から海へと歩いて行く道を思い出しながら聴いた。

続く隠れた名曲「無敵のバカ」はホーンセクションが印象的だが、該当のパートはブルースハープでカバーしていた。久々に観た「風の恋人」でも、間奏のブルースハープから全く間髪入れずにAメロの歌に入らなければならず、ヴォーカルがその両方をこなすのは結構ハードに見えた。曲終わりで水分補給をするのも納得だろう。

ヴォーカルのコヤマシュウはこのアルバムについて、今までと違う事をしようと思い切って作り、完成した時は気に入って毎日聴いていたと話していた。自分が好きな作品を演者側も気に入っているのはなんだか嬉しい。でもアルバムのツアーが東京と大阪の2本しかできず、「みんなこのアルバムをどうやって聴いてるんだろう?」と分からない部分があったので、今日はそれが分かってとっても嬉しい、という話をしていた。声は出せないけれど、このアルバムを全身で感じる事ができて、本当によかった。

2部では最前列のかなりいい位置でアルバム「SCOOBIE DO」の再現を観る事ができた。今作を引っ提げて行われた野音のライブは人生の中でも指折りの素晴らしい公演で、自分がDVDに映っている事もありとても思い入れが深い。

このアルバムは17曲と非常に曲数が多く、近年ライブでなかなか披露されない楽曲が多い。「Funk of One Nighter」はイントロから照明が激しく動き、現場で観ると異世界感があり非常にカッコ良かった。ただ後日配信画面で見ると光のチラつきが激しく、視覚的には少々どぎつかった。テレビなら確実にポケモンショック対策案件である。

MCでは「このアルバムにゲスト参加しているRHYMESTERは出ません!SOIL&"PIMP"SESSIONSも出ません!」と話していたけれど、そこはFunky 4 Plus One Moreによる再現ライブなので何も問題無い、というスクービーらしい解決法に落ち着いた。

そのRHYMESTERが参加している「やっぱ音楽は素晴らしい」「What's Goin' On」の2曲は、メンバーによってラップパートがカバーされた。先日の関ジャムでBase Ball Bearの小出君がラップしながらギターを弾く難しさについて熱弁していたが、なんとスクービーはメンバー全員がプレイとラップを両立している。スキルがあるのは確かだが、半分はテンションでこなすしかないなかなかハードな案件だと思う。

アルバムの収録時間は「Beautiful Days」とほぼ同じ約60分だ。ただ17曲という曲数のせいもあってか一部よりもMCは少なめで、メンバーでさえも「何でこんなに入れちゃったのかな?」と疑問を投げかける始末だった。「野音が決まって張り切ってたのかな」「ビクター最後のアルバムだったから全部乗せじゃない?」という説が提唱されていた。

一応ファンとして覚えているところを書いておくと、当時このアルバムの3ヶ月前にも8曲入りのミニアルバムが発売されていて、新曲がかなり一気に増えたという印象があった。ただその前の1年ほどはリリースがなく、ライブで未発表の新曲が幾つも披露されていた。それらを一気に音源化し、更なる新曲も加えてリリースしたのがこれらの2枚のアルバムだった。

特に「SCOOBIE DO」は激しいロックサウンドからメロウなバラードまでバンドの持つ多面性が遺憾なく発揮されていて、まとまりこそ無いもののスクービーらしいアルバムだ。今作に限らずだが、つくづくもうちょっとブレイクしてよかったバンドだと思う。

一部中盤の段階で既に「再現ライブ、またやります!」という嬉しい言葉もあった。レコ発ツアーなら基本的にアルバムほぼ全曲をプレイするものだが、オリジナルアルバムの中にはどうしてもライブの流れに組み込みづらい曲というのが2~3曲はある。それらは後のライブではセットリストから外され、影の薄い存在になりがちなものだ。

しかしそういう曲にこそコアなファンの支持が意外とあるもので、それらを含めた完全版としてアルバムの世界が再現されるのはファンとしてはとても嬉しい事だ。懐かしくも今を鳴らす最高のライブだったので、個人的には次回は「BREAK ROCK」「Funk-a-lismo!」あたりをお願いしたいところ。ライブハウス、やっぱりいいなあ。

いいなと思ったら応援しよう!