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Sui彩の景色 #12 -荒療治-

「楽器も弾けないボーカルなんかロックバンドにいらない。」
 
榊原は僕にそう告げた。
小堀は黙ったままだ。
大事な話の時はいつもそうだ。
僕と榊原が揉めて小堀をはじめとした他のメンバーは黙っている。
というよりも榊原に物言い出来るのが僕しかいないと言った方が正しい。
だから、小堀以外の彼らは去ってしまったのだろう。
僕達のバンドには得体の知れない閉塞感が漂っていた。
 
外はもう木枯らしが吹いて肌寒い季節になっていた。

榊原と僕は入学して間もなくバンドを組んでメンバーを募集し、ベーシストの小堀とサブギターとドラムの2人を迎えて5人組のバンドを組んだ。
何曲かコピーする楽曲を決めて楽器屋主催のコピーバンド大会に出たり、
文化祭でライブをしてみたりと半年程活動してみたのだが、正直上手くいっているとは言い難かった。
 
理由は幾つもあるが、まず一つ目にオリジナル曲を持っていないこと、
なんだかんだまだ一度もライブハウスでライブをしていないこと、
それぞれのパートに実力者が揃っているのだが一体感がまるでないこと、
そして、榊原がやりたい曲しか出来ないこと。
他のメンバーがこの時どう感じていたのかは定かではないが、少なくとも僕はそのように考えていた。
そして、前に進まないバンド活動にサブギターとドラムの2人はとうとう僕達のバンドを辞めてしまった。
 
「オリジナル曲をやりたいならSui君が作れば良い。サブギターもSui君が弾ければ問題ないし、曲を書くには楽器が弾けないと話にならない。だから、まず楽器を弾けるようになったら良い。」
というのが榊原の言い分だ。
至極真っ当な意見だ。
 
「分かった。ギター弾くよ。」
僕はそう答えた。
 
確かにそうだ。
僕が楽器も弾けて曲も書ければ問題ないのだから、榊原のせいでも誰のせいでもない。
僕自身の問題なのだ。
 
結果で黙らせるしかない。
世の中そういうものだ。
 
「でも、ドラムをどうするか。それは考えなくちゃいけない。俺がギターを弾けるようになったとして曲も書いたとして。ドラムを叩きながらギターは弾けない。」
僕がそう言うと
 
「ひとまず僕としては上手ければ誰でも良いよ。」
榊原はそう言った。
 
上手いドラマー…
パッと思い浮かぶのは土田だ。
というかどう考えても土田しかいない。
そんな僕の考えを見透かしてか榊原は
 
「土田以外ね。」
と付け加えた。
 
ここ1〜2週間何度も議論してきた話だ。
 
「それはあいつのライブを観てから決めようって話じゃなかったっけ?」
僕がそう返すと
 
「まぁ、そうだったね…。」
と榊原は歯切れの悪い返事をした。
 
週末に土田が地元のライブハウスでライブに出るから観に来いよと誘ってくれた。
他校のバンドに加入したと言うのだ。
そのバンドというのが中学時代に僕と一緒に文化祭に出た大野率いるバンドだ。
僕達とは別の高校に進学した大野が中心になって結成し、ドラムだけなかなか見つからなかった。
そこで白羽の矢が立ったのが土田だ。
他校の生徒とバンドを組む事はざらにある事だったが、まさか大野と土田がバンドを組むとは…。
しかも、市内の同学年の様々な高校のバンドが何組も出る対バンイベントらしい。
気にならない訳がなかった僕は勿論行くと言って、土田からチケットを買って観に行く事にした。
 
榊原と小堀にもこの話をすると2人ともニュアンスや目的は違えど興味があるようだったので3人分のチケットを買った。
田舎の高校生イベントなのでチケット代は1人500円。
ライブハウス側も無料で貸すわけにはいかないので500円チケット×20枚の1バンドにつき1万円のノルマで5バンドくらい出演するのが大体の相場だった。
 
ライブ当日。
会場はお客さんで溢れ返っていた。
全バンド、今日が初ライブ。
厳密に言うとライブハウスでやる初めてのライブということだったので各バンド気合を入れて集客したのだろう。
勿論来ているのはファンというよりは高校の友達ばかりなのだが、それでも色んな高校の同学年の学生達が集まっていてフロアは異様な熱気を放っていた。
 
大野と土田のバンドの出順は最後、つまりこの日のトリだ。
正直他のバンドの印象はあまり残っていない。
各バンド持ち時間は25分程。曲数にして大体5曲程度か。
普通の高校1年生のコピーバンド。
そんな感じだった。
それでもそれなりの盛り上がりを見せていたし、各バンドの友達も沢山いるようだったので、身内ノリと言ってしまえばそれまでなのだが、終始暖かい空気が流れていた。
 
少し驚いたのは全バンドがそれぞれ1バンドにつき1つのバンドのコピーだった事だ。
故に各バンドに一貫性があって聞きやすいなと感じた。
この日ライブハウスに出ている人達は、コピーするバンドに成り切っている。
そのバンドへの強い憧れを感じる演奏だった。
 
僕達は今まで1つのバンドだけをコピーするのではなく、やりたい曲を適当にコピーしていた。
まぁ、やりたい曲と言ってもほぼ榊原がやると言った曲しかやれないのだが…。
僕らとしてはどうせコピーなのだから何をやっても別に同じというか、やるのはあくまで自分達で、自分達のスキルを活かせる曲や自分達をかっこよく見せられる曲ならなんでもありだったので、
その辺の考え方は良くも悪くも全然違うのかなと思った。
 
そして、迎えたトリの出番。
ギター、ベース、ドラム、そして、ギターボーカル。
フロントに立つのは中学時代一緒にステージに立った大野だ。
大野がボーカル…。
なんだか不思議な気分だった。
 
転換時間に機材をセッティングし終わると、メンバーの4人は裏にはけていった。
どうしたのかな?と思っていると照明が暗くなりBGMが大きくなった。
SEというやつだ。(ライブでアーティストが入ってくる時にかける音楽)
 
SEを用意していたのは大野のバンドだけだった。
上手のメンバーから1人ずつ入場してきて各々観客を煽ったり手拍子を促したり。
明らかに他のバンドとはオーラが違った。
そして、最後に大野が入場してきてステージのセンターマイクの前に立つ


そして、ギタースタンドに立て掛けてあったギターを持ち上げてストラップを肩にかける。
ギターを構えて腕を振り下ろし、コードを一発掻き鳴らしながら
「こんばんは!〇〇〇〇です!よろしくお願いします!」と叫ぶと
SEがフェードアウトしながら、ドラムや他の楽器も呼応するようにかき回す。
完全にロックバンドのライブのそれだった。
会場の空気を完全に掌握していた。
 
そこから雪崩れ込むように曲に入って、誰もが知ってるイントロのギターリフを上手のメインギターが弾くと会場は大盛り上がりだ。
ASIAN KUNG-FU GENERATION。
コピーするバンドが大野らしいというか、王道の邦ロックバンドでありつつも少し渋めのチョイスだ。
2曲目3曲目とアジカンの曲が続いたので大野はアジカンのコピーバンドなのかなと思って観ていた。
4曲目を演奏し終えると
 
「いよいよ最後の曲なんですけど、今日の為にオリジナル曲を作ってきたのですがやっても良いですか?」
と大野が聞くと会場から歓声と拍手が上がる。
 
「それじゃあ、最後の曲聴いて下さい!」
 
そう言って大野達のバンドはオリジナル曲を駆け抜ける様に演奏した。
そして、最後アウトロを掻き鳴らしながら
「次のライブは全曲オリジナルでやります!
また皆さん遊びに来てください!ライブハウスで会いましょう!〇〇〇〇でした!ありがとうございました!」
と叫びこの日のライブを締め括った。
 
ライブが終わるとアンコールの声が響き始めたが、僕と榊原と小堀はフロアの扉を開けて会場の外に出た。
3人とも無言で歩き始めると、遠のく会場から歓声が湧くのが聞こえた。
大野がマイクで何か喋っている。
アンコールに応えてステージに戻ってきたのだろう。
 
「まぁ、ライブってああいう事だよな。」
いつもは真っ先に喋らない小堀がボソっとそう言った。
 
「でも、上手い人はいなかったけどね。」
榊原はそう言った。本心ではあるのだろうが、少し強がっているようにも見えた。
 
「上手いとか下手とかそういう問題じゃないんだよな。」
小堀がそう言った。
 
「確かに。俺もそう思う。」
僕は小堀に同意した。
「でも、榊原の言ってる事も分かる。榊原より上手いギタリストも小堀より上手いベーシストも俺より歌が上手いと思うボーカルもいなかった。でも…」
 
「お前より良いボーカルはいたね。」
小堀が僕の言いたかった事を言った。
 
「なんだよ。お前今日めちゃくちゃ喋るじゃん。」
僕がそう言うと、小堀は、そうかな?という顔をしてみせた。
 
「まぁ、とにかく悔しかった。」
素直な気持ちを僕が伝えると
 
「俺も。」
と小堀は同意してくれた。
 
「あんなんで盛り上がっちゃうお客さんに僕はムカついちゃうけど。」
榊原はどこまでも強気だ。
まぁ、良さでもあるのだが。
 
「とにかくドラムを探そう。というか今日の演奏観て確信したけど。どう考えても土田は上手いだろ。土田も自分の学校でバンド組みたいって言ってるし、大野達的にメンバーのバンド掛け持ちが有りなんだったら絶対土田に叩いてもらうのが1番良い。」
僕がそう提案すると、
 
「そりゃそうだけどー…」
小堀が榊原の方を見ると
 
「良いよ。」
榊原があっさり認めた。
 
「え、良いの?」
聞き間違いかと思い、念の為僕が再度確認すると。
 
「うん。」
とだけ榊原は応えた。
でも、今まで嫌がっていた理由や今更OKにした理由は聞くなと顔に書いてあったので、これ以上追及しない事にした。
機嫌を損ねられて、前言撤回されても面倒だ。
まぁ、今日のライブを観てちゃんと悔しかったのだろう。
連れてきて良かった。
 
「オッケー。じゃあ、週明けに早速土田を誘う。土田がなんていうか分からないけど。あと、大野達もね。あと、俺ギター買うわ。その為に先月からバイトしてたし。」
そう伝えてこの日は解散となった。
 
少しずつ。
ほんの少しずつ。
僕らのバンドの音が。
近付いてきているような気がした。
 
P.S
そんな高校時代から時は過ぎ2022年。
 
肌寒くなってきましたね。
皆さんお身体の具合はいかがですか?
僕は最近頭が痛いです。
知恵熱も出ます。
なぜかというと制作期間だったからです。
ずーっと部屋にこもってヘッドホン被って曲作って歌詞書いてという日々。
時間とか日付とか曜日とかの概念がどんどん薄れていって、サウナとジムで汗をかくのを日課としていなかったら今頃人間ではない何かになっていたところです。
だから、サウナは偉大です。
あと、筋トレも。
 
そして、YouTubeチャンネル登録者5000人突破ありがとうございます。
という事でそれを記念してトーク&ライブ配信もやらせて頂いたのですが、超楽しかったね。
観てくれた皆さん重ねてありがとうございました。
いやー感慨深いですね。
最初は0人だったからね。マジで。
登録者0。再生数0。
自分達でチャンネル作って自分達で投稿始めたからこそ知ってる現実があるので、やっぱりこの5000人という数字は素直に嬉しいです。
勿論まだまだなんだけどさ。
でも、嬉しいじゃないですか。
出会ってくれた皆さん本当にありがとう。
 
配信でチラッと話したけど
5000人突破記念のグッズも鋭意製作中なのでよろしくね。
普段使い出来そうだしめちゃくちゃ良さそう。
また、各種SNS等でお知らせしますね。
 
近々新しい楽曲のお知らせも出来そうです。
なんてたって制作期間だった訳ですから。
そりゃね。
なんの制作してたか勘の良い皆さんなら分かりますよね?
こっちもめちゃくちゃ良いよ。
 
という訳でこれからも楽しい時間を沢山共有していきましょうね。
今後ともSUIRENをよろしくお願いします。

写真は夜のお散歩中に迷い込んだ謎のガチャガチャと
クレーンゲームエリア。
カメラ持って出歩くだけでちょっと楽しい。

(2022.11.15)


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