Sui彩の景色 #04 -福音-
僕にとって、歌うことは喜びだ。
そして、勿論音楽自体が好きだ。
それは家庭環境も少なからず影響していると思う。
僕の育った家庭は比較的音楽が好きな家庭だった。
父はDeep PurpleやLed Zeppelin等、往年のハードロックが好きでよく聴かせてくれた。
他にもThe BeatlesやAerosmithやQueen等1960-70年代の音楽が多かったが、Michael JacksonやPrince達のような1980年代の洋楽も聴かせくれていたし、サザンオールスターズ、山下達郎、松任谷由実(※敬称略)等々、挙げればきりがないほどのお気に入りの邦楽も聴かせてくれた。
母もまた往年の歌謡曲全般から、その時流行りのJ-POP全般まで幅広く好きで、毎月TSUTAYAでその月のヒットソングのシングルCDを20-30枚くらいレンタルし、CDに焼いて今で言う所のプレイリストを作って車の中や家の至る所で流して聴かせてくれていた。
そんな風に自分の生まれる以前の音楽や、その当時最先端の音楽にも触れられる環境で育ったため、音楽を好きになるのはある種必然の事だった。
だが、恐らくこれだけであれば音楽をやろうとまでは思わなかったかもしれない。
聴く事と実際に人前で歌おうとか、音楽を仕事にしようというのは全く別物だ。
そんな僕が後に音楽の道を志そうと思ったのは、間違いなく合唱部での経験があったからだと言える。
合唱部に入部して練習が始まると遊びたい盛りの子供の僕にとってはそれなりに厳しいものだった。
平日は朝練がほぼ毎日あり、放課後や休日にも練習があった。
特に筋トレは辛く苦しい時間だった。
床に仰向けになって上体は起こさずに足をあげる。その状態のまま、メトロノームに合わせて校歌を歌うという内容のトレーニングがほぼ毎朝あった。
仰向けになって足を上げる体勢だけでも辛いのに、メトロノームのテンポはかなりゆっくりめに設定されていて、ワンコーラス歌い終わるまでにかなり時間かかる。
しかも、校歌は3番まであるのだ。
入部して間もない頃は、このトレーニングが始まるとたった一曲歌い切るまでがまるで永遠に続くように感じられたし、最後まで足を上げたまま歌い切れない子もいた。
勧誘される時に「楽しいよ」と聞いていたのに、これでは話が違うではないかと何度も思った。
そんな日々が始まってほどなくして、
合唱部顧問の先生が部員の生徒を集めて
「天使にラブソングを...」と「天使にラブソングを2」という作品の映画を観せてくれる事になった。
「天使にラブソングを...」は1992年に公開されたアメリカ映画で主演のウーピー・ゴールドバーグが演じるクラブ歌手の主人公がひょんな事から荒廃し閉鎖寸前の修道院で聖歌隊の指揮者を任される事になる。
彼女は曲調をアレンジしたり、聖歌隊を猛特訓して鍛え上げる。その結果、ミサが話題となり閉鎖寸前だった修道院を救う... というストーリーの映画で、「天使にラブソングを2」は前作で聖歌隊を指導し修道院を立て直した実績を買われた主人公が、今度は高校の音楽クラスの担任として雇われ聖歌隊を結成し不良の少年少女を更生に導くというストーリーなのだが、僕はこの2本の映画を観て歌うことはなんて尊くて美しいことなんだと感動したのを今でも覚えている。
特に印象に残っているのが「天使にラブソングを2」で聖歌隊結成後初の学内コンサートで生徒達が「Oh Happy Day」という曲を披露するシーンだ。
ソロパートを歌う黒人の少年の姿を勝手に自分と重ね合わせた。
あんな風に自由に歌いたい。あんな風に上手く歌いたい。
そう強く思った。
この映画は僕の人生のバイブルとなった。
歌は人生を変えられる。歌う事は尊く、そして美しいものだと強く感じさせてくれる。
そして、歌や音楽において最も大切なことも体現している作品だと思う。
それは、偏に楽しむという事だ。
先生もそれを教えたかったのだと思う。
先生は「上手くなればもっと自由になれる。」と言っていた。
「自由になれば楽しくなる。そう思えば上手くなるための練習も楽しく思えるようになる」と。
先生は厳しいながらも優しい人だった。
生徒一人一人とよく対話してくれたし、きつい練習の中にも映画鑑賞のような息抜きや楽しめる要素をちゃんと用意してくれていた。
しっかり、評価し努力を褒めてくれたし、人前で褒める事で競争意識を煽る事も忘れなかった。
やらせるよりも、こちらがやりたくなるようにモチベーションを管理してくれていたのだ。
だから、どんなにきつい練習でも耐える事が出来たし、なんなら楽しむ事が出来るようになった。
先生の言う通り、上達すればする程楽しくなったし、自由に歌えるようになった。
そして、それは僕の大きな自信となった。
兄に対して感じていた劣等感も、歌だけは負けないという気持ちが克服させてくれた。
どんな失敗をしても僕には歌があると思えるようになった。
気付けば僕は年頃の活発な普通の男の子と同じように、人と明るく話したり、学校生活を楽しむようになっていった。
先生は僕を勧誘する時に「君は歌った方が良いよ」と言ってくれた。
本当にその通りだった。
僕の人生は確かに変わりつつあった。
P.S.
そんな幼少期から時は過ぎ…2022年。
皆さんいかがお過ごしですか?
最近の僕はといえば撮影に制作にレコーディングにリハーサルにと大忙しです。
でも、おかげさまで楽しみな事が沢山控えています。
来月はいよいよTVアニメ「キングダム」第4シリーズがオンエアされます。
自分達の曲がオープニングで流れてくると思うと今からワクワクが止まりません。笑
そして、今月はとうとうSUIREN初ライブが開催されます。
やっと会えるね。
3/21Veats Shibuyaで皆さんにお会いできる事を楽しみにしてます。
(2022.03.15)
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2020年7月より活動を開始した“水彩画のように淡く儚い歌声を
響かせる音楽ユニット”SUIRENのヴォーカルSuiが、ヴォーカリスト
Suiになるまでのエピソードを描いた「Sui彩の景色」
音楽情報サイト連載記事のアーカイブとなります
文・撮影:Sui
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