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小貫信昭『いわゆる「サザン」について』刊行記念特別寄稿

本書(『いわゆる「サザン」について』)は「サザンオールスターズ」というバンドそのものに対する、言わば長文の“ライナーノーツ”である。

意外なことに、デビュー46年を迎えた彼らなのに、その歴史を「物語」として著したものは本邦初だそうだ(“データブック“と呼ばれるものは、過去に2度ほど出版されているが)。


なぜ僕は、この本を書けたのだろうか?

理由はシンプルだ。

幸いなことに、80年代初頭より空白期間なく、彼らをずっと取材し続けて来られたからなのだ。


その際、最も長くインタビューしてきたのは桑田佳祐、その人だ。

彼こそが、数々の名曲の作詞・作曲を担ってきた。

この本は、彼らが世に放ち問うてきた名作・問題作(?)の数々を核としているので、取材を通しその言葉を聞いてきたことには大きな意味があったと言えるだろう。

文中に引用した発言も、桑田から直接、同じテーブルに座り、僅か1~2メーターの至近距離で伺って来たものばかりだ。


実は本の執筆が進むなか、彼からこんなメッセージが届いた。

「サザンの陽のあたる部分だけじゃなく、それ以外のところも描いて欲しい」

結果、これまであまり表に出なかったエピソードも含めた内容となった。

筆者自身、今回、執筆にご協力いただいたなか、初めて知り得た事実や“本音”も多かった。

もちろん、詮索しようとしてこれらを書いたのではなく、あくまで執筆作業の中で、作品誕生の真実に迫りたかったからだ。

これまでのサザンオールスターズに、もし様々な“プロジェクトX”があったのなら、ぜひ“ガイアの夜明け”まで見届けたかったのである。


世の中から“国民的バンド”と称え上げられることも多いサザンオールスターズだが、彼らも時には悩み、ため息もつきながらバンドを「運営」してきた。

“国民的バンド”などというと頑強なものに思えるが、実は彼らこそが、まさにひとりひとりの“国民”であることを、執筆しながら痛感したのである。


ひとつ留意したのは、サザンオールスターズは2024年現在も新曲を世に送り続け、次のコンサートへの準備を怠らない、まさに働き盛りな“現役バンド”であることだ。

化学反応・細胞分裂を繰り返す物質を遠心分離し、成分表を突きつけるなどということは不可能だ。

今、この原稿を書いている瞬間も変化・進化していく(実際のところ、本年6月25日にも様々なインフォメーションが届いた)のである。


それに従い本書の最終章は、よくアナログ・レコードの時代にあったような、片面最後はしっとりバラードで終わっていく、などということにはなっていない。

もしかしたら、むしろ最終章がいちばんアクティヴな内容かもしれないのだ。


思えば僕が初めてサザンオールスターズのライブを取材し、終演後にインタビューしたのは1982年の11月30日のことだった。

場所は福井。

その時の記事を読み返すと、「桑田さんはデタラメ英語を歌いながら作曲するそうですね?」などと、彼にしたら「またその話かよ!?」みたいなありきたりで失礼な質問をしてしまっている。

でも、そんな時でも嫌な顔ひとつせず、「そこばかり強調されると困るけど…」と前置きしつつ、「歌には語感を味わう喜びもある」と教えてくれたのだった。


さて最後に。

いつかは書きたかったサザンオールスターズの本を上梓させていただき、僕はこの仕事を続けてきて、本当に良かったと思っている。

多くの方々のお力をお借りしてこそ実現したことである。

こういう時に浮かぶのは、「人間は、一人では生きていけない」という、普段はこそばゆくて言えない言葉だ。


みなさん、ぜひお読みください。

サザンオールスターズというバンドの喜怒哀楽が、時系列に沿って、随所に詰まっている内容であることは、筆者の僕が保証いたします!

小貫信昭

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小貫 信昭 (おぬき のぶあき)
1957年東京都生まれ。1980年、『ミュージック・マガジン』を皮切りに音楽について文章を書きはじめ、音楽評論家として 40年以上のキャリアを持ち、 長年にわたりサザンオールスターズの魅力を言葉として紡ぎ続けてきた。著書に『歌のなかの言葉の魔法』『小田和正ドキュメント1998-2011』『Mr.Children 道標の歌』『槇原敬之 歌の履歴書』など。