引きこもりの犯罪率 悪夢から目覚めるために
2023年6月、私が居住する宮城県石巻市で「50歳の息子が、75歳の母親の首を包丁で刺して殺害する」という痛ましい事件が発生しました。現場はウチのすぐ近所です。
この50歳の息子はいわゆる「無職・引きこもり」の状態で、息子の将来を心配した高齢の母親が「精神病院に入院して心の治療を始めてはどうか?」と提案したことが事件の引きがねになったとされています。
母親としては、停滞した生活状況を改善するための前向きな提案のつもりだったのでしょうが、家を追い出されると勘違した息子に首を刺され、その後は救急車すら呼ばれず居間に放置され、結局出血多量で亡くなってしまいました。
弁護側は「被告は以前から統合失調症を患っていて、事件当日は心神耗弱状態で正常な判断ができなかったので減刑すべき」と主張しましたが、裁判所は「落ち度のない母親に対して躊躇なく首を狙った悪質な犯行だ」として、2024年7月、この男に「懲役11年」の判決が言い渡されました。
母親の年齢は70代ですが、形としては、高齢の親が引きこもりの子供を経済的に支え、その支援スタイルの破綻が近づいて来た時点でトラブルが発生してしまう「8050問題」の典型的な例と言えるかもしれません。
手塩にかけて育てた息子に理不尽な理由で殺されてしまった母親の無念はいかばかりのものだったのでしょうか・・・。
ただ、裁判所の判決文には「落ち度のない母親」と書いてありましたが、状況を冷静に分析すると、残念ながら必ずしもそうとは言い切れません。なぜなら、この母親には「これほど息子の精神状態が悪化するまで、引きこもりを長期間放置していた」という重大な落ち度があるからです。自分の残り寿命がそれほど長くない年齢になってようやく重い腰を上げたような感じなんですね。
つまり、母親が行動を起こすのが「あまりにも遅すぎた」のです。
この男が具体的に何年引きこもっていたかについては新聞記事に触れられていなかったので分かりませんが、犯人の50歳という年齢を考えれば10年~20年単位の長期の引きこもりだったことは間違いないと思います。
人間の心も筋肉と同じで、長期に渡って「外的な負荷」をかけられないままの「無重力状態」にあった場合、忍耐力や決断力が極端に低下します。
私はおととし右足首の骨折で入院しましたが、たった2か月足を使わなかっただけで驚くほど足の筋力が落ちてしまい、骨がくっついた後もなかなか自由に歩くことができませんでした。ゆっくり慎重に歩いていても、右足のあちこちの筋肉がビリビリと痛むんですね。
この弱った筋肉を回復させるためには、少しずつ「リハビリ」を重ねて行くしかありません。私が昔のように走れるまでに回復するには、近所の散歩を繰り返しながら「1年」もの歳月が必要だったのです。
もし「10年以上の引きこもり」となれば、「心の筋力」は完全に衰えていて、他人に「笑顔で挨拶」すらできないほどに対人コミュニケーション能力が落ちてしまっている可能性が高いのではないでしょうか?
そんな「寝たきり老人」のようなヨレヨレの精神状態だった50歳の彼に、母親が良かれと思っていきなり「精神病院に入院してはどうか?」と言ってしまったわけです。
被害妄想傾向がある息子にはこれが「社会復帰のための第一歩を踏み出しなさい」という冷酷な命令に聞こえてしまい、恐怖心からパニック発作を起こすのはあり得ることだと思います。
少なくとも「専門の引きこもり支援員」や「心理カウンセラー」の人であれば絶対に言わないような「唐突な無茶ぶり」を母親がやってしまったんですね。
ずっと働いていなかった彼にとって、外の世界は「魔物が住む迷宮」に見えていたかもしれません。心の筋力が「ゼロ」の彼にとって、最弱のスライムですら自分の命を脅かす存在になりかねないのです。
「外に出ればストレスに耐え切れず、自分は必ず憤死する」ぐらいには思っていたでしょう。
人によっては、自分の身の安全を守るための逃避衝動が「暴力」という形で暴発してしまうこともあるのです。そこまでしてしまうほど彼は「外に出るのが怖かった」のです。
つまり、引きこもりの子供を抱えた親御さんは、子供の「心の筋肉」が完全に退化してしまうよりも前の「早い段階」で具体的な「働きかけ」を開始しなくてはいけないんですね。
もし精神疾患を抱えている疑いがあるなら「入院治療を勧める」のは正しいのですが、その働きかけをするのには「適切なタイミング」があります。病状がさんざん悪化し、妄想するのが「当たり前の日常」になってしまった相手に対してそれを勧めても、とっくの昔に「手遅れ」なのです。
では、適切な働きかけ期間(タイムリミット)はどれぐらいだと思いますか?
内閣府の調査によると、引きこもり経験者のおよそ70パーセントが「3年以内に社会復帰を果たしている」ことが分かっています。
逆に言うと、3年以内に社会復帰できなかった場合、その子の引きこもり状態は「極めて長期間に及ぶ可能性が高い」ということです。最悪の場合は「一生続く」こともあり得ます。
これは西洋占星術の理論においても同様の結論が得られるんですよ。
引きこもりの「きっかけ」となるのは、トランジット海王星が、その人の出生図(ネイタル)内の太陽か月と角度(0度、90度、180度)を形成したタイミングである場合がほとんどです。トランジット海王星には「現実逃避願望」を助長する力があるからですね。
このサイクルはおよそ「42年に一度」のペースで発生しますので、誰でも現役世代(学生時代も含む)の時に、一度ぐらいは「すべてを投げ出して現実から逃げてしまいたい」と切望してしまう時期が来るわけです。
だから、「一時的に引きこもってしまうこと」自体は決して異常なことではないんですね。「心のインフルエンザ」みたいなものだと考えると近いかもしれません。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?