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【京大吹零会 起業家インタビュー】株式会社Halle Game Lab 坂井 冬樹さん 京都大学大学院卒
「京大吹零会」とは、京大出身(在学中も含む)の起業家を集めた、起業家コミュニティです。京大には変人が集まると言われるように、京大出身の経営者も変わった人が多いので、周りに理解されず、孤独になってしまうこともあります。そんな「吹き零れ」たちが集まり、経験をシェアして切磋琢磨する、唯一無二の会です。メンバー同士の交流を促すため、また、これから起業したい方に吹零会メンバーを知ってもらうため、隔週で「京大吹零会 起業家インタビュー」をオンラインで放送中。このイベントで収録した起業家たちの講演内容を書き起こし記事としてお送りします。
【要チェック!】
公開インタビューのスケジュールや、記事を見て「起業したい!」と思った方のための「京大・起業相談デスク」についてはコチラをご覧下さい。
学生時代のこと。
元々は東京工業大学で「世界を知りたい」という思いから物理を学んでいました。毎週恐ろしい量の宿題をこなしていたんですけど、学部4年生の時にはディズニーランドでポップコーンを作ったりもしました。一回くらいは接客しないとな…と思いまして笑。学生らしい生活もできて、この経験はかなり良かったですね。ただ改めて自分に向いていないことも分かったので、そういう意味でもいい経験でした笑。あとはゲームの友達とオフ会をしたり、研究関連の若手の会に入って企画をつくったりもしていました。
その内に自分の中で“日常生活の楽しい瞬間とそうでない瞬間”のギャップの大きさに気付いたんです。そして「人はどういうモチベーションで行動するのか?」というところにすごく興味が湧いて、“物理+生物”両方の分野で次の挑戦ができる場所を探していました。そんな中でたまたま弟が京都大学に通っていて、いいな~と思っていたのと、“生体高分子の分子動力学シミュレーション”の研究所があった京都大学大学院に入学しました。
在学中は、研究を通して「人が楽しく生きるためにはどうするべきか?」というテーマに挑戦していました。でも世界一のレベルからは程遠い日本での研究には限界があり、また良い結果がでても社会への還元には時間がかかることから、もっと早く社会にアプローチできる方法を模索していました。そしたらある日、投資家・David E.Shaw氏が当時最先端のスーパーコンピュータの1000倍もの性能を誇る“Anton”を自身が設立した研究所で開発に成功した、と。強い衝撃を受けましたね。その時から「自分の力でインパクトを出し、世界を良くしたい」という思いを抱くようになりました。
研究者がそれまで積み上げていったものだけでは恐らく作り出せなかったものを1人の力で成し遂げた、というインパクトを出せるのは面白いし、そういう人になりたいとも思いましたね。あと、研究の場にいるだけではダメだなという反省もある気がしましたね……。衝撃の強すぎる原体験でした笑。
その後就職するときは、学生時代からゲームが好きだったのと、ゲームの楽しさが上手く活きていかないかなというところがモチベーションだったので、まずは自分でゲームを作れるようになりたいと思っていました。あと「人が楽しく生きられる世界を作る」という意味では、“教育”の領域がかなり重要だなと思っていて。その教育段階で楽しい経験を作り出せるような状態を作れたら最終的に世界全体が良くなると考えているので、ゲーム以外のアプリを作ることも重要だなと思っていました。
そこで、まずはサイバーエージェントで1年半、ゲーム・教育アプリ開発に携わりました。特に英会話アプリ『GLOBAL CROWN』が独立するタイミングで、フロント(演出を作る)側だけではなく、インフラエンジニア(バックエンド)の修行もしようと思って2,3年オランダに行きました。
実は“ゲームを一本作り切る”って結構難しいんですよね。途中でこけるポイントが多いので、“作り切ってリリースまで”という経験は中々ない。最初のプロトタイプの時点でほとんど全滅してしまうんです。ここでゲーム開発者人生が終わってしまう人も多かったりします。でもだからこそ、なんとかして自分一人でゲームをつくれるようになりたかったんですね。難しい世界です。
海外でも就職したのは、純粋に海外で働いてみたかったからですね。あとは「日本から出ていけ!」と言われた時にどうしたらいいか、という反骨精神的な実験でもあったんですけど笑。オランダにしたのは、教育先進国で幸福度が高いからです。日本とは異なる特殊な国だったので行ってみたいなと思ったので行きました。
その後京都に戻ってきて、Happy Elementsに入社しました。ちょうど会社自体が大きく伸びていってるときで、女性向けアプリで日本No.1の『あんさんぶるスターズ!!Music』というアプリのエンジニアのマネージャーとしてリリースまで関われたので、自分で作れるという状態はできたかなと思いました。
起業のこと。
「いつかしたいな」とはずっと思っていた一方で、ゲームの開発・運用をしていると忙しくて。起業するタイミングを見つけるのが難しかったんですけど、ちょうど会社でフリーランス制度が導入されたんですね。それまでと同じ条件でフリーランスになれて、引き続き仕事もあるならノーリスクで起業できると思ったので、早速2022年の1月に起業しました。中々こういうチャンスも無いかなと思いまして。
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起業するにあたって「いかにして現実世界にゲームの楽しさをもってこれるか」に挑戦したいと考えました。その第一歩として、現実世界のアバター(自分自身の身代わり)を作れないかという試みをしています。まだ様々試行途中ではありますが、業界動向的には徐々にメタバースの世界からリアルとの連携が少しずつ評価されつつある段階にきていると思っています。というのも、今年の夏頃にバーチャルマーケットがVRとの連携イベントをやっていて、かなり好評だったんですね。コロナ禍でゲームにハマった人たちが、コロナが明けてリアルとの連携を求めてきている結果かなと思っています。
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また先ほど述べたテーマである「人はどういうモチベーションで行動するのか?」を考える上で、極論「人が生きる意味」とかも考えたとき、意味なんてないのではないかと思うし、生きるために理由なんて必要ないと思うんですよね。それだったら“人生楽しく過ごせたらいいよね”という感じで考えています。でも実際は“より楽しい世界”ってつくれそうなのに周りはやらない、またはできないように見える、というのはちょっとおかしいのではないかと。ここにもチャレンジしている最中です。
アプローチは進んでいて、今起業している場所が“けいはんな学研都市”という関西で唯一の学研都市なんですね。そこにはリアルなアンドロイド開発で高名な石黒先生も所属している、ATRという研究所があって、そちらで客員研究技術員を行いながらアバター技術を研究しています。実は今後やっていきたいことは脳科学との連携なんです。人が現実世界をアバター越しにリアルに感じるためには「臨場感」が大事だなというのをひしひしと感じていて。カメラの品質とか立体視できるとかも大事なんですけど、“思った通りに動ける”を実現させたいと思っています。“Galea”という脳波とVRを合わせた端末があるんですけど、こういうものを使って実現出来たらと考えています。
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20代でやるべきこと。
非常に悩ましいところですけど、自分が20歳に戻れたらという体でいうと「人とコミュニケーションをとる」、「先生の言うことをよく聞く」、「何をしたくないかを知る」ですかね。
特に「先生の言うことをよく聞く」だと、若いころは経験も無いのに反骨精神だけはあったので、もっと素直に聞いておけばよかったと思う場面もありましたね。研究内容とか論文の掲載とかについて先生の助言とは異なることもしていたんですけど、言う通りにしておけばもっといい結果が得られたかもしれないな…とか思うときもありますから。