machia.8【MATIere(LIEr)2】
部屋も綺麗になり、けれど心の澱は綺麗にならないまま季節が変わった。
そんな中、久しぶりの友人から連絡があった。
マチと俺を引き合わせてくれた友人。出会ったときは「気分転換したいだけで出会いなんて要らないのに」なんて思っていたけれど、今となっては感謝してもしきれない。
そんな友人に、マチと絶縁したことを話した。
「あんなにまーちゃんのこと気に入ってたのに手放すなんてどうした?」
「いや、鬱陶しくなって。」
「鬱陶しいって……そんな言い方ないだろ。」
「都合よく遊べる相手だったのに『私のことどう思ってるの』とかなんとか言い出したら鬱陶しいだろう流石に。」
「ライの『都合よく遊べる相手』ってどういう……」
「そういう。」
友人は呆れたように溜息をついた。
「まーちゃんさ、今どうしてるか知ってる?」
「SNS見たら引っ越すみたいな感じで書いてたけど?」
「栄転だってよ。東京だって。」
SNSには「最後の粗大ごみも片付いた。」なんて引っ越しを思わせるようなことを書いていた。
どこに引っ越すか等は書いていなかったから、せいぜい地方都市の中でも大きな都市に引っ越すのだろうと思っていた。
まさか東京に引っ越すとは……
「どうしてマチの近況をそんな細かく知ってるの?」
「あぁ、まーちゃんが引っ越すからってうちの佳映と子供と遊んだときに聞いたんだって。俺も最後に会いたかったけど仕事でさ。ちょっと通話しただけで。」
絶縁したから当然といえば当然なのだが、俺にはさよならの一言もなかったのは淋しい。
「で、ライは彼女とかいないの?」
唐突に俺の話にされてしまった。
「いたらマチと何年も遊んでないだろ。」
「まーちゃんは相手いても遊んでたけどね。もっともここ数年は彼氏いなくてライと遊んでいたみたいだけど。」
それは初耳だった。彼氏と別れたらその都度報告していたのに、その報告がないということはそのまま続いていたのかと思っていた。
もしかしたら「お兄さんいつも私の話聞いてないよね」のその話の中に彼氏と別れたことが含まれていたのかもしれない。東京に引っ越すことも。
だとしたら、本当に俺はマチの話をちゃんと聞いておらず、マチとの行為のことしか考えていなかったことになる。
「知らなかった。てっきりうまくいっているのかと思っていたから。」
「結婚の話になったとき、相手はまーちゃんに仕事辞めてほしかったみたい。でもまーちゃんは大学生のときのアルバイトから社員になって今まで頑張ってきたから、絶対辞めたくなかったみたい。そこで意見がどうしても合わなくて別れたって言ってたよ、佳映が。」
またしてもかえちゃん情報だった。
「俺なら仕事いくらでも続けさせてやるのにな……」
思わず呟いていた。
「『何々してやる』って言い方、彼女できたらマジでやめたほうがいいぞ。」
「なんで?してやるって言い方そんなにおかしいか?」
「いや、分からないならいいよ、そのままで。」
友人はまた呆れたように溜息をついた。
まるで言い方を改めないと彼女ができないみたいな言い方をした割に、このご時世出会いも増えたし、年齢いって結婚してもお金さえかければ子供が望めるなんて話をして帰っていった。友人のところも不妊治療の末子供を授かったと聞いた。
「昔では考えられないけれど、今ではクローン技術の応用で子供ができるんだもんな。」
その一言が妙に頭に残り、俺は不妊治療でクローン技術を応用している病院を探し始めた。