machia.1【repLICA-1】
「おめでとうございます。かわいい女の子ですよ。」
白衣を着た男が嬰児を抱え、俺の方を振り向き微笑んだ。
俺は白衣の男から嬰児を受け取り、抱きかかえた。
「お名前は決めているのですか?」
「はい。リカにしようかと。」
「戸籍を作るのでしたらこちらと、こちらの書類を役所に提出してください。戸籍を作らないのでしたら、破棄していただいて構いません。」
白衣の女が俺に書類を見せる。淡々とした口調は事務的で、よくできたアンドロイドのようだった。
戸籍を作るもなにも、そもそも親は俺しかおらず、母親といえるモノは目の前にある嬰児が入るくらいのガラスの筒と、鉄のような海のような匂いのする少し粘り気のある培養液と、マチの髪の毛から採取したDNAくらいだ。
「戸籍は作りません。俺は結婚していないし、この先もできるとは思わないので。書類は破棄してください。」
「かしこまりました。」
白衣の女はそう答え、書類を仕舞った。
「お願いがあるのですが。」
俺は白衣の男を見た。
「なんでしょうか。」
「うちのリカを15歳くらいまで成長させていただけませんか?」
「オプションですね。ありがとうございます。
培養液から取り出す前でしたらもう少しお安くなっていたのですが……本当によろしいでしょうか。」
「構いません。」
金ならいくらでも……とは言い難いが、普通の同世代の奴らより貯金はあると自負している。金で解決出来るなら解決してしまいたい。
それに、今のリカはマチとは似ても似つかず、マチのように愛せる自信が全くなかった。
自分の遺伝子が入っている、愛する妻が産んだ子供であればきっと愛せるだろうし、可愛いとも思えるだろうが、自分の遺伝子など入っていない、まして愛する人の遺伝子ではあるもののレプリカの嬰児など、何の興味もない。
「クローンとはいえ成長は環境に左右されるので、自分好みに育成するのも楽しいとは思いますが……」
「それだと意味がないので。好みではなくこのDNAの持ち主と同じように育つことが重要なので。」
俺は白衣の男の言葉を遮り、言った。
そう、リカはマチと同じように育たなければ意味がない。
「では、15歳くらいまで育ったらまた連絡ください。」
「……かしこまりました。おそらく来月になるかと。
15歳程度の知識、知能になるように脳にAIチップを埋め込みます。事前ヒアリングでお伺いしているDNAの持ち主の情報も一緒に入れるので、おそらくそこまでオリジナルとはかけ離れた人格になることはないと思いますが、もし万が一オリジナルとかけ離れた人格になってしまった場合、当方では責任を負いかねますので今一度ご承知おきください。」
「大丈夫、分かってますよ。」
「では、リカちゃんをお預かりしますね。15歳になったらご連絡差し上げます。」
白衣の男は笑った。
「眠り姫の逆ですね。眠り姫は15歳で眠りにつくのに、リカちゃんは15歳で起こされるなんて。」
違法なクローン作製業者のくせに、男はロマンチストだった。
白衣の男の腕に戻されたリカは俺の方を見つめていた。まだ何の感情も芽生えていないはずなのに、何か言いたげに。
15歳、マチが俺と出会う1年前の年齢。
連絡が来るのが楽しみだ。