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machia.4【MATIere-3】

それからさらに数か月が経ち、また彼氏と別れたとマチから連絡が来た。
「今回はダメだった。どうしても好きになれなかった。」
その連絡の後、マチから呼び出された。
いつもなら気軽な感じで呼び出すのに、今回は少し重たい気がした。
「ちょっと、話が。」
なんてマチらしくもない。
いつも通りご飯を食べて、その後ホテルにでも行くのだろうと思っていた。けれど、マチから「海に行きたい。」と珍しくリクエストがあり、シーズンオフで静まり返っている海水浴場へ向かった。

マチは気まずそうに俺を見た。
「降りないの?海だよ?」
俺はマチに車から降りるよう促したが、降りないでそのまま話を聞いてほしいと止められた。
「ライくん。」
彼氏とのセックスの時に名前を呼び間違えると困るからという理由で、いつの間にか呼ばれなくなっていた名前を久しぶりに呼ばれた。
「ライくん。好きです。付き合ってください。」
名前を呼ばれたかと思ったら次は意外過ぎるワードが飛び出してきた。
「どうしても好きになれなかったのって、ライくんのことが好きになってたから。だから別れたの。」
驚いて言葉を失っている俺にマチはそう畳みかけた。
マチも俺と同じように、ただ性欲を満たしているだけで、そこに何の感情もないと思っていた。
だからこそ気楽に続けられたし、マチも「彼女にして」なんて言わなかったし、俺も「付き合って」なんて言わなかった。
けれど実際蓋を開けてみたら、相手を都合のいい存在にしているのは俺だけで、相手はいつの間にか俺に対して好意を寄せていた。

ふとマチを見ると、握りしめた手が小刻みに震えていた。
どうやら冗談ではないらしい。
沈黙が辛いのか、さらに口を開く。
「ライくんは私のこと嫌い?」
「嫌いじゃないよ。」
マチはふっと顔を上げた。期待したような瞳だった。
「でも、マチと付き合いたいとは思わない。ごめん。」
いつの間にか「まーちゃん」ではなく「マチ」と呼ぶほどの仲にはなったが、マチに望むのは「彼女」ではなく「都合のいい遊び相手」なのだ。
「……ライくんは、好きになった人に好きになってもらえた幸せな人?今までの彼女はみんなそうだった?」
「相手がどうかは分からないけど、でも好きな相手としか付き合わないから。」
「私のことは好きじゃない?」
マチは涙を浮かべて俺の方を見た。
その表情が妙にそそられたが、まだ答えを出していないから手は出せない。
「恋愛では好きじゃない。だから、付き合えない。」
付き合わないけど、いつまでも都合のいい相手でいてね。と心の中で呟いた。

付き合えないの言葉を切欠に、ついにマチは涙を零した。
それを合図とばかりに俺はマチを抱きしめた。
セオリー通りならキスして、そのまま押し倒すのだが、
「やめて!」
キスをしようとしたら突き飛ばされてしまった。
生理の時以外で拒まれたのは初めてで面食らってしまった。
「……どういう神経してるの?今振った相手に何しようとしたの?」
振られて悲しいという表情から一変、怒りに満ちた表情に変わった。
マチが怒るのは無理もないが、その表情すらそそられてしまうので俺は本当にどうかしていると思う。
「ごめん。無神経だった。でも、泣いてるマチが可愛くてつい。」
俺は取り繕うように言った。
マチは大粒の涙を流しながら、呆れたように俺を見ていた。
さすがに今日は無理だと悟り、マチを家に送り届けた。

マチにしては珍しく半年近く間が空き、それからまた別の男と付き合うようになった。
振ってからすぐは連絡が返ってこないことが多かったが、段々と連絡が返ってくるようになり、半年経つ頃には体の関係を含めて元通りになっていた。

まさかマチと付き合わなかったことがこれほどの後悔を生むことになるとは、その時は思いもしなかった。

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