machia.5【MATIere-4】
マチと体の関係含め元通りになってから1年、俺の両親が立て続けに他界した。
その際、意外な額の現金と家を相続した。
今まで独り暮らしだったが、それを機に実家に戻ることにした。
俺一人に対して部屋数が多く、誰かとシェアするにはちょうどいいと思い、マチにルームシェアの提案をしてみた。
「それって実質同棲じゃん。振った相手、ましてや彼氏がいるって相手にそんな提案するなんて流石お兄さん流石だね。」
と、「流石」を重ねて皮肉を返されてしまった。
「好きな時に来ていいから。家では自由になんでも使っていいよ。」
俺はそう言ってマチに合い鍵を渡した。
皮肉を言っていた以上断るかと思ったが、案外素直に受け取った。
マチに家の鍵を渡して以来、食事すらせずひたすら家に籠りセックスという付き合いになっていった。
「たまには外に遊びに出ようよ。」
ベッドに押し倒されたマチは恨めしそうに俺を見上げるが、
「彼氏に見つかったら?」
「外に出るよりずっと中に居ようよ。」
と言うと黙って俺のされるがままになっていた。
多少疎遠になっていたとはいえ、家族が立て続けに亡くなるのは言いようもないほどの悲しみがあり、マチに甘えることでそれを癒していたのだと後になって気が付いた。
マチはそれに気づいているのかいないのか、甘える俺を許してくれていた。
ベッドの上ではただ抱き合うだけではなく、沢山話をした。
「まぐわい」という単語を辞書で引くとこう書いてある。
「 目と目とを見合わせて愛情を通わせること。 めくばせ。」
「 男女の交接。 性交。」
目合い、まさしく目と目を見合わせて愛情を通わせていると思っていた。
ただ、その「目合い」というのは俺の独りよがりで、マチとしては「話の通じない宇宙人とドッジボールをしている」という認識のようだった。
その認識の誤差が致命的なものだと気付いたのは、何度目かの「お兄さん、私この前言ったよね。」というマチの発言がきっかけとなる。
両親が亡くなってから3年、マチとの連絡が途絶えがちになった。
久しぶりに家に顔を出したマチに、
「最近全然会えないけど何かあった?」
と聞いたら
「お兄さん、私言ったよね?何回も言ったよね?昇進したから出張が多くなって、今迄みたいには顔を出せないよって。」
「統括マネージャーになったから出張増えるよって、昇進決まってから会うたびに言ってたよ?」
「お兄さんはそのたびに『そっか。』って。最初に言った時もお兄さん『そっか。』って。コイツ『昇進おめでとう』すら言えないの?って呆気にとられたけど、もうそれはどうでもいいんだよ。」
「どうして私の話ちゃんと聞いてないの?なんでちゃんと会話しようとしないの?それはただのセフレが求めちゃいけないことなの?普通の会話がしたいだけなのに、そういうことは全部彼氏が引き受けて、気持ちいいところだけでいいの?」
「目の前で話すときもそうだし、メッセージのやり取りでもそうだけど、お兄さん私の話は聞かないけど自分の話は聞いて欲しがるよね。しかも私の話終わってないのに話し出すよね。」
「お兄さんさ、私のこと本当にただのセフレとしか思ってないよね。分かってたけどさ。分かってたけど、10年以上そばにいたのにずっとセフレでしかなかった?合い鍵まで渡されて、それでもただのセフレ?」
矢継ぎ早にマチは俺を責め立てた。
そうか、マチと初めてセックスしてからもう10年以上経っているのか。
だから肌も少しくすんできたし、ムダ毛処理の後の毛穴の黒ずみも目立つし、太ってきたし、でもその分抱き心地も、あの具合も、良くなったんだな。
「ただのセフレなんて思ってないよ。」
俺はこの場を収めてさっさとマチとセックスしたくて、適当なことを言った。
「じゃあ、何?いっそ『ただのセフレがガタガタうるせえよ、さっさとヤラせろ』くらい言われた方がよっぽどマシだよ。」
マチは瞳に涙を溜めてそう吐き捨てた。
まるで俺が振ったあの日のように。
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