結婚とは、好きな人のパンツの柄を選ぶということ

ではないが、今日はじめて夫のパンツを購入したため、記念にこの感情を記しておく。

夫のパンツを買うイベントが、私の人生にはじめて発生した。
旅行に行くのに、やや枚数が不安なので追加購入してきてくれないかと頼まれたのだ。
頼まれた時はさほど、特筆すべき感情は湧かなかった。
在宅ワークを終えた後、近所のguに向かう。

今日は今年初めてダウンコートを引っ張り出すほど寒かった。
寒さを懸念して、張り切って着膨れる上半身は暖かいが、薄手のジョガーパンツは冷たい風を通して、寒かった。
下半身はわざわざそんなに厚着をしなくても大丈夫だと高を括った。
1年経つと、どうしてだか何度も体験しているはずの冬の寒さという感覚を忘れる。人は愚かだ。

3枚まとめ買いで1290円、というのが狙いだった。圧倒的に安い。
guの売り場の、明るすぎる照明がまぶしい。
大して不慣れでもないその店の風景が、目的が違うだけで少し違うものに見える。
メンズの陳列棚をなみ縫いするように歩いてみる。
最近は夫について回ることが増えたが、あまり歩く機会のないメンズの売り場の勝手がわからない。
下着売り場がどこなのかわからない。

女性の下着売り場は、女が見ても特別だ。
商品の並ぶ棚が仕切るように、女性の下着売り場は別世界だ。
それ自体がしめ縄のようにも見える。
とにかく多種多様のデザインの下着が、神々しく並んでいる。

売り場がわからないので、私の足跡はなみ縫いから返し縫いになってくる。
たぶんパジャマとか靴下の売り場に近いはずなのに、その周りを探しても見つからない。
もうどこを歩いていないのかわからない。
何周かしてみて、突然、男性の下着売り場に辿り着いた。
そこはもうすでに歩いたと思っていた場所だった。
うっかり見逃したのか、うっかり確認し損ねたのかわからないけど、あまり存在感がなかった。
女性の下着売り場のような引力はなかった。

辿り着けたことにほっとしながら、夫のパンツを選び始める。
驚くべきことに、可愛らしい柄が数種類並んでいた。
お座りしている犬、走り回って遊んでいる犬、まったりしている猫、4本足でのっそりと立つクマのパターンプリント。
か、かわいい。思わず手に取った。

瞬間、結婚したんだ、と思った。
入籍して3ヶ月ほど経つが、初めてに近い感覚だった。

私は夫が履くパンツの柄を選ぶ権利がある。
夫は私が選んだ柄のパンツを履く義務がある。
そう思うとたまらなく嬉しくなり、無難な色を選ぼうとしていた気持ちが霧散する。

母が父のパンツを買ってきた記憶がある。
それを特別に思うことはなかった。
けれど、それはすごく特別で、愛おしい瞬間だったのかもしれない、と気づいた。

一応。
無許可でキュートなトランクスを押し付けるのは、人としてどうかと思い、冷静になって夫にラインをいれる。
「かわいいパンツ買ってもいい?」
すぐに「任せるよ笑」と返信が来る。

いやだよと、言わないことはわかっていた。
夫はきっと喜んでくれると知っていた。
見えないところで私の存在を感じられるから、私が選んだ可愛いパンツをきっと会社に履いていく。

私は夫を愛している。
この先ずっと夫のパンツの柄を選びたい。

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