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#026お祝いの席での食事(2)~古文書に見る食べ物、いろいろ(3)

  そういえば、しばらく放りっぱなしになっておりました、お祝いの席での献立について。続きを見ていきましょう。ここでは、菓子椀、焼物、吸物、丼と4つの品物が出てきます。

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 菓子椀には、「薯蕷製ショジョ懸ケ、青レイシ、蝋引さごし」とあります。薯蕷はじょうよ、しょうよと読む、長芋、山芋の別名ですね。「ショジョ懸ケ」はどういう調理法かは判りませんでした。引き続き調べてみます。「青レイシ」は青霊芝で、サルノコシカケ科のキノコです。「蝋引さごし」はさわらの幼魚の時の名前のさごしに、調理法でしょうか。蝋引きの紙袋に入れて蒸し焼きにするのではないかと想像します。焼き物には「大鯛」。横に掛れているのは「生付」。一瞬、「いけづくり」と読むのかと思いましたが、焼き物なので違うでしょう。おそらく「うまれつき」と読んで、うまれたまま=そのまま=尾頭付き、という意味なのではないかと推察します。次の「花月台」は盃を乗せる足つきの盆のような台で、掛盤などとも呼ばれるそうです。上には「三ツ盃」、つまり婚礼で使用する3つの異なる大きさの盃が乗せられています。次の吸い物は「富久さ味噌 夫婦鮒 粒山椒」とあります。ふくさみそは白みそと赤みそを合わせたものでお祝いの席で供されるもの。夫婦鮒ということですので、2匹の鮒を煮炊きしたものでしょうか。丼には「焚合 しら糸長芋 鶴身込」とあり、白糸とあるので長芋を細長く切ったものでしょうか、鶴の身と一緒に炊き合わせています。

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硯蓋には「小鯛形蒲鉾、熨斗海老、あわひき寿子、ちしやのと味噌漬、三枚笹 厚焼、はじかみ、仏手柑」とあります。小さな鯛の形をした蒲鉾に、のし海老、あわびのきずしなどが一緒に盛り付けられています。ここで良く判らなかったのが、「ちしやのと味噌漬、三枚笹 厚焼」。「ちしやのと」はおそらく「千社唐(ちしゃとう)」ではないかと思われます。ちしゃとうは別名「茎レタス」とも呼ばれます。これは味噌漬けにされたりするので、ちしゃとうで間違いないのではと思いますが、日本への流入時期が確認できなかったので一応ペンディングしておきます。「三枚笹 厚焼」は厚焼きの笹かまぼこが3枚、ということでしょうか。これも良く判りませんでした。この器の最後には「はじかみ、仏手柑」とあります。はじかみは現在も食事の添え物で出てきますはじかみ、芽生姜の酢漬けですね。仏手柑も現在も出てきますね。柑橘類の一つで、実の先端が千手観音の腕のように分かれたもので、食べ物というより茶席や正月飾りの花材として目にすることの方が多いかもしれません。丼には「焚出し 兵庫いんど」「鱧 よば 牛房」とあります。「兵庫いんど」とある「いんど」は、おそらくえんどうのことでしょう。兵庫きぬさやえんどうという品種が現在もあり、きぬさやえんどう自体が中世には日本に伝わっているとのことなので、同様の品種のものだと思われます。「鱧 よば 牛房」はそれぞれ鱧、よば=ゆば、牛房=ごぼう、ということなので、きぬさやと鱧、湯葉、ごぼうの炊き合わせなのでしょう。吸い物には「すまし 鶴」とあるので、すまし汁に鶴の肉の入ったものであることが判ります。

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こちらのページには、「浜焼」として「筏やき 大鯛、小串焼 雲丹焼、海苔焼、但し青竹串、あしらひ 明ケ茸」、丼に「白あんあへ 赤にし、ゆりね」、吸い物に「魵 松露」、丼に「焚出し 丸むきうど、えそ白焼、みぶだし」と書かれてあります。「浜焼」は取れたての鯛などの魚を製塩用のかまで蒸し焼きあるいは塩焼きにしたものを指す料理名ですが、ここでは塩焼きにしているという事を指すのでしょう。「筏焼 大鯛」は鯛を塩焼きにして骨から身を外して、尾頭付きの骨の上に身を乗せたものをいいます。次には「小串焼 雲丹焼、海苔焼、但し青竹串」とあるので、青竹串に挿された雲丹や海苔を焼いたものでしょう。「あしらひ、明ケ茸」とあるので、あしらい=料理の添え物としてミョウガタケ、つまり現在のみょうがが薬味として添えられています。次の丼には、「白あんあへ 赤にし、ゆりね」、吸い物として「魵 松露」とありますが、魵は「えび」と読み、松露は春に松林などに映える球形のきのこですので、えびときのこの入った吸い物ということでしょう。最後の丼には「焚出し 丸むきうど、えそ白焼、みぶだし」とあります。丸むきは切らずに丸ごと皮をむくことですので、皮をむかれたうどのこと。「えそ」は小骨の多い小魚で、現在はあまり流通しておらず、主にかまぼこの原材料として使用されている魚だそうです。このえそを白焼つまり素焼きしてもの。最後の「みぶだし」は、すいません、調べてみましたが、今回は判りませんでした。

 普段、史料調査をしていても、ほとんど調査の本筋に当たらないために注目されないお祝いの席での献立を、今回じっくり見てみました。意外と現在のわれわれの口に入らないものがいろいろあって、なかなか興味深かったのではないでしょうか。こういうものを見て、地域の過去の伝統的な料理、調理法、あるいは地方色の濃い野菜、食材などを見ることで、今は失われてしまった食材、調理方法について知ることも出来ます。こういうものから、今度はこんな料理を食べてみよう、調理をしてみようという、参考にしてみることも面白いのではないでしょうか。

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Nobuyasu Shigeoka
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