#024ドラゴン退治とバラと書籍ー書籍にまつわる文化、あれこれ
今回は、ちょっとわき道にそれまして、書籍についてのお話です。仕事柄、どうしてもたくさんの本を読み、購入するので、書籍とは切っても切れない関係となるので、書籍にまつわる閑話休題。
先日、ロンドン博物館のHPで、所蔵品の絵を好きなようにダウンロードして、色を塗って遊んでください、出来た作品を博物館に共有してもらえると嬉しいです、といった企画ページが紹介されていました。
いくつかの絵を見ていて、下の絵に目が留まりました。ちょうどHP閲覧をした日が4月23日でしたので、そういえば「サン・ジョルディの日」だったか、ということを思い出しました。
上の絵は、「聖ジョージとドラゴン」と題された絵で、聖ジョージ、聖ゲオルギス、聖ジョルジュなどとも言われる人物がドラゴンを退治している図です。この話は、カッパドキアのセルビオス王の首府ラシアというところのお話で、そこには巨大なドラゴンがいて、毎日羊を2頭差し出すことで町は難を逃れていたのですが、とうとう差し出す羊が無くなってしまい、人間をいけにえに差し出すこととなったそうです。その際に、くじ引きでそのいけにえを決めることとなったのですが、運悪く王の娘がいけにえに当たってしまいます。自分の娘を差し出すことになった王が途方に暮れているところに、聖ジョージが通りかかり、ドラゴン退治を買って出ることになります。聖ジョージはドラゴンを倒し、その首にひもをかけて町まで連れ帰り、町の住民に「このドラゴンにとどめを刺してほしければ、キリスト教に改宗しなさい」と迫り、町の住民はキリスト教に改宗した、というお話になっています。この際に、とどめを刺されたドラゴンの流した血が赤いバラになったという言い伝えがあり、この故事から聖ジョージと赤いバラを結びつける伝承となっていったそうで、赤いバラ=花、キリスト教=聖書→本、という、「サン・ジョルディの日」成立に関係するものがこの伝説の中で出揃います。
「サン・ジョルディの日」というのは、最近あまり聞かれなくなったかと思いますが、もともとはスペイン・カタルーニャ地方から発祥のイベントで、親しい人に本を贈るという記念日です。この記念日にはさまざまなバリエーションがあり、プレゼント用に本を買うと書店で赤いバラがもらえる、男性が女性に赤いバラをプレゼントし、女性が男性に書籍をプレゼントする、男女がお互いに本を交換する、などというものもあるようです。後にスペインからの提議で、ユネスコが「世界本の日」に制定しています。
上記URLのWikipediaにもある通り、日本では1986年に日本書店商業組合連合会と日本・カタルーニャ友好親善協会などが「サン・ジョルディの日」として4月23日を設定して、書籍と花に関するイベントを行うとしています。1986年というと、自分の記憶では、中高生のころで、書店に本を買いに行くと、書店で「サン・ジョルディの日 書籍くじ」というのを配布していたというのを記憶しています。最近はもっぱらネットで書籍を注文することが多くなってしまっており、書店に行くことが少なくなってしまっているため、最近の様子をしらないので、ネットで日本書店商業組合のHPを探してみました。
上記URLのページの下の方に「※ご愛顧いただいた書店くじは、2020年秋をもって終了いたしました。長い間のご支援、ありがとうございました。」とあります。今はQRコードを用いたプレゼントの抽選を行っており、時代の趨勢で紙の書籍くじは去年でなくなってしまったんですね。
また、このころの書店ではキャンペーンソングが流れていたことを記憶されてる方もおられるかもしれません。「♪サン・ジョールディー」と若い女性が歌っている歌が良く流れておりました。この歌は、誰が歌っていたのかな、とも思い、調べてみましたら、Youtubeで下記のものに当たりました。
宮里久美「ふたりのサン・ジョルディ」(1986年、ビクター)。3年くらいしか活動していないアイドルですが、当時のアニメが好きな方ならご記憶にあるかもしれません。「メガゾーン23」というオリジナル・ビデオ・アニメのヒロインの声と歌を担当されていた方です。当時は「超時空要塞マクロス」というメガヒットアニメがあり、そこに登場する人物の声と歌を飯島真理という歌手が担当しており、アニメともども歌手本人も非常に注目されておりました。今でいう番組のアイドルのタイアップ、というのが成立したころでしたので、飯島真理の爆発的な人気をうけて、2匹目のどじょう、ということもあったのだと思います。それを受けて恐らくデビューした宮里久美の第3弾シングルが、この「ふたりのサン・ジョルディ」だったようです。今も当時も、とんとアイドル事情に詳しくありませんが、当時、4月23日前後には店頭でしきりと流れていたことを記憶しています。
少し懐古趣味的な話で恐縮ですが、土用の丑の日やバレンタイン・デーのような日の目を見ることなく、現在ではもうほとんど知られることが無い「サン・ジョルディの日」にまつわる話として、当時の思い出と少し調べたことを記しておきます。
いただいたサポートは、史料調査、資料の収集に充てて、論文執筆などの形で出来るだけ皆さんへ還元していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。