高千穂水晶の葛藤
国産水晶といえば山梨県甲府。そう思っている人が多いだろう。
実は宮崎県でも質の良い水晶が採れる。かつては宮崎県産水晶は甲府へ運ばれ、加工されていたそうだ。宮崎県の名が消えてしまったのは、それも要因かもしれない。
今は違う。昨年、宮崎県高鍋町に一軒の店ができた。
「Crystal Earth」
宮崎県、特に高千穂周辺の水晶を採石して販売している。
近頃は鉱物好きの女性も増えた。私も手伝いに行くミネラルショーでは、原石を買う女子も多く、キラキラと輝く水晶に吸い付けられている姿はしょっちゅう見かける。
石好きの間では「高千穂水晶」の存在も知られてきた。
と、同時に問題も増えている。
「Crystal Earth」の採石は土地所有者の許可を得ている。採石は手掘りのみ、埋め戻しもする。木は切らない。もちろん、ゴミなど捨てたりしない。
しかし、美しい水晶の存在が知られると共に、それを目当てに心ない人間がやってくるようになった。
やってきて、勝手に掘っていく。
水晶を採るという行為以外、Crystal Earthの真逆のことをしていく。
私は山を守りたい
美しい原石のままの水晶は、物理的な何かに役立つとはいえない。健康に役立つともいえない。
でも、七色の分かれる光や結晶面にしか見られない独特の艶。
偶然を装いながら、自然の理を体現した形。
人間がデザインしたものとは別種の美しさが、原石にはある。
そこに吸い込まれるように見入っている人達は、心ゆくまで石を見続けた後に
「はぁ〜、 綺麗……」
そう言って清々しい顔をする。
顔が変わる。本人は気付いてないけれど。
美しい水晶は、形ないものを清らかにする。お客様達の顔を見て、いつも私はそう思う。
けれど、産地である高千穂の山々は平穏ではない。
勝手な採石(=盗掘)は増えている。採った石をフリマアプリで販売できることも一因だ。知られれば知られるほど、山が荒らされる。
心ない人達を通して石が流通していく。
石好きにとって、これは大きな葛藤だ。
いつの時代も。
来週から伊勢丹浦和店に出店する Crystal Earthさんの手伝いに行く。私にとって、これは大切な場所。高千穂水晶の素晴らしさや、ジュエリーとは違う石の楽しみ方を知ってもらうことはもちろんだが、この葛藤を知って欲しい。
沢山売りたいんじゃない。
高級品を売りたいんじゃない。
すっと心を軽くしてれる石がある。
石を持った時、カタチのない澱が流れていくような不思議な感覚を知って欲しい。
そして、そんな石と共に日々を過ごす。そんな生活もあるよ、伝えたい。
きっと私は、デパート催事場のあの雑多な氣の中で、輝く水晶達とそんな想いを分かち合うだろう。
大きな葛藤をきちんと抱え、それでもひねくれず裏切らず、精進していれば、石や山々の恩恵に与ってもよい日がくるだろう。
普通に接客して販売しながら、きっと私は、何かを祈っているだろう。
新しい目標は、他店で購入されたブレスレットのメンテナンスもできる店になること。商売的には難しいことですが、それがちょっとでも「山を守る」ことになれば…