とりあえず今日は自分を褒める

坂口恭平さんの個展に行ってきた。
坂口さんは本も描いてるし絵も描いてるし楽器もひけるし音楽も作れるしととにかく多才だ。
シミュレーションは何度もしていた。
でもそのシミュレーションはとてもフンワリしたものだったので、いざ本人を目の前にすると
話のとっかかりにしたかった本のタイトルも何もかも吹っ飛んだ。

かろうじて生き抜くための事務を買ったことを伝えた。
『持ってこなかったの?』
と優しく問われ
『はい』
と頷いた。
『明日もいるけどその時にしようか。それかメモ用紙にサインする』
と優しすぎる申し出に
ますます恐縮する。
あのとき持っていけば良かった。持っていって話のとっかかりにすれば良かった。めちゃくちゃ緊張しいなのに、なぜ空手形で挑んでしまったのかと今 文字を打ちながら後悔している。
おそらく私が中学生の頃、芸者ガールズのポラロイド写真を買うほどハマっていた松本人志さんが「俺が好きな人にあったならばサインじゃなく握手をしてもらう」って言うようなことを言っていたからそれが深層意識から抜けていない。
新刊を隣の部屋で買おうかともよぎっていたのだけれど、途中で寄った郵便局で磁気不良ですと通帳がatmから突き返されていたので財布には二千円も入ってなかった。
消費税いれたら足りない可能性がでてくる。
すみません。ちょっとお金がないです。 なんてやりとりが談笑している隣の部屋にまで聞こえてしまったら、もうこの空間には留まることができないと思って断念していた。

そして上記の感じである。理想としては
本の感想をのべて、握手をしてもらって、サラリとお気に入りの香りなんです。といってお香を渡そうと思っていた。
けれど全部 ふっとんだ。

「今日は絵を見て握手をしてもらいたくてきたんです。」
声を振り絞った。「絵は観れたんで握手してもらっていいですか」
ちゃんといえたのかどうか覚えていないが快く応じてもらえた。
良かった。ポケットを漁ってお香を渡す。
渡せた。ミッションクリア。
それじゃあ、これでと踵をかえそうとしたところ坂口さんがお香について、色々ときいてくれた。優しすぎる。しどろもどろにアワアワと答える。しどろもどろでアワワなことにますます焦ってくる。
あたふたと帰った。あたふたと帰りながら、挙動不審な奴からもらったお香 使うの怖すぎんかと落ち込んだ。

帰り道 夕陽を見上げていた。

さんざんだった。
やっぱり私 自分に自信がないんやなと肩を落とした。

でも頑張った。
本当はもう帰ろうかと思っていた。
一度 個展部屋に入ったとき坂口さんはファンの方と話していた。書籍やXのとおりフレンドリーで垣根のない坂口さん。ファンの方も快活で、話の邪魔にならないように絵を凝視していた私は、だんだん緊張してきた。
絵を見終わっても話はまだ終わってなかったから隣の部屋に移り本をみるともなしに見る。
また絵を観に入る勇気がでなかった。
無理だよな?もう帰る?いやいや、頑張れ私。
握手をしてお香を渡す!これだけ!できる!頑張れ!
このときのために着てきた私の心の灯火であるチャンス大城さんのtシャツをギュっと、握って自分をふるいたたせた。
そうして経過はどうあれ渡せた。
だからクヨクヨすんのさよそう。
頑張った 私 頑張った
そう自分を鼓舞している9月5日PM19時4分

追記
次の日 これから先 坂口さんのツィートを見るたびにあの黒とまではいかないけれど灰色の思い出が浮かぶのが嫌だなっと思っていた。
だから髪をあげてチャンスさんから悪魔くんのtシャツに着替えて颯爽と別の本を書い
「サインいいですか?」と快活な調子で再び坂口さんの個展を訪ねた。
「もちろん」
と坂口さんは朗らかに応じてくれ
「黒(のペンで)いい?」と聞いてくれた。
「いいえ、金色で。」
と私はあらかじめ持参していた金色のペンを渡し
「今日の日付と☆マークをかいてください」
とハキハキとお願いした。☆は顔が書いてあって可愛い。
「ありがとうございます。」
私は深々とお辞儀をして帰った。
坂口さんもおそらく私と気づいてないと思う。
そこまでの顛末を幼馴染にいったら、
「いや、気づくやろ!」
と返された。
そんなことない。人はたくさんいた。ひとりひとりの顔なんて覚えれるわけがないし麦わら帽子を深々と被り俯きキョドキョドしていた1日目とうってかわって2日目はデコだしに持てうる限りの明るさ前面に押し出しフルパワーで挑んだ。だから大丈夫だと説得して私は自分で過去を上書きできたことにちょっと自信を持てた。


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