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罪のない人を傷つけることは慎むというハッピネス 海野康代さんの『スキップ!』に寄せて

 海野康代さんの小説『スキップ!』が発売されました。

 海野さんに「小説を出したい」というご相談をいただいたのは、西瓜社が開業して間もなく、まだできたてのオフィス、机と椅子すら揃わずに、てんやわんやしている時期でした。
 始まったばかりの企画編集事業の、どこを気に入って指名してくださったのか、ずっと書き溜めていた小説を世に出したいというメッセージをいただき、ありがたく嬉しい気持ちとともに、これから頑張らないといけないことがたくさんあるぞ、と気持ちが高揚したのを覚えています。

 西瓜社には本を出版できる体制を作る予定がありました。そして海野さんも、執筆中の小説を完成させることを約束してくださり、お会いできる日を心待ちにしながら、私たちはいったん、今、自分たちがすべきことを進めていくことになりました。

 出版事業者コードを取得し、Amazonでの書籍販売をスタートさせ、ようやく体制が整った頃、遠方から東上野のオフィスにいらしてくださった海野さんは、小柄でかわいらしくて、繊細な女性でした。
完成した原稿を拝見しながら、
「何かキラキラした善いものが、僕にこれを書けって言ってくる、というフレーズがとても好きです」
 とお伝えすると、海野さんは丁寧な言葉で思いを語ってくださいました。
高校生の頃から小説を書き続けていること、人生でつらい時期があったこと、つらいなあ、世界が平和にならないかなと思っていたときに、『世界はもっと多様性に満ちている』といった文章が目に触れて、それが原体験になっていること、その言葉を読み解くつもりで、これまで文章を紡いできたこと。

 『スキップ!』は、心に苦しみを抱えながらも世界平和を願う主人公が、『イクサバイバイ』という小説を書き上げる物語です。『イクサバイバイ』の世界では、中学生達が武力放棄のために力を合わせ、戦争のない國が実現します。
(地の文を明朝体、主人公が書く小説をゴシック体で表記させていただきました)

 その作中には、ところどころに「キラキラ」という言葉が出てきます。

 人生がつらいとき、毎日が苦しいとき、うまくいかないなあって泣きたくなるとき、そこから見る世界は、やっぱりキラキラ光るんです。そのことを知っているから、私たちはいくつになっても諦めきれずに、本を作らずにいられないのだと思います。

 すべての人が楽しく簡単に本を作れて、自分の作品を出版することを諦めないでいい、そんな時代になればいいなと、この業界に入ったときから本気でずっと変わらずに思っています。だけど、本を出す、ということは、やっぱり人生の一大イベントで、お金だってかかるし、時間や労力、それに何よりも勇気が必要です。

 世界が平和であってほしい。戦争なんていやだ。そう考えて、出版というかたちで発信すること。
それは、自分の至らなさで人を傷つけたくないなあという気持ちと、剥き出しの覇気は両立するという、海野さんの文学性なのだと感じます。誰もが同じ意見を持つわけではないかもしれないけれど、その覇気を、海野さんが諦めない「キラキラ」を誰かの心に届けるお手伝いができたことを、嬉しく思っています。

 少年たちの松原での語らい、じれったいような色の海と空、遠くに見える富士山。

情景描写がとても美しい作品です。是非、『スキップ!』の小説世界に触れていただければ幸いです。

西瓜社 冨田聖子


※この本の印刷は盈進社、製本は小さな製本屋さんにお願いしました。
小ロットでのお願いにも快く丁寧なご対応をいただきましたこと、本当に感謝しております。



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