映画『侍タイムスリッパー』に影響を与えた、映画『カメラを止めるな!』に寄せて。
『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督は、あらゆるインタビューで『カメラを止めるな!』から自主映画の製作姿勢の影響を語っている。
2018年の映画で、『カメ止め』現象と呼ぼれるほど映画シーンに切り込んだ。自主映画の代表作だ。
この映画のパンフに一文を寄せていたので再録しておきたい。
『カメラを止めるな!』に寄せて。
〜2018年公開パンフレット寄稿文〜
パンフの解説文を頼まれたが既にDEADLINE (締切)ギリギリだ。
ゾンビ映画の批評に「最高だった!」という一言以外の言葉を探す日々が続いている。
本作で描かれるクランクインの前日の映画監督のようにボクも今、泣き出しそうに焦っている。それでも公開日は決まっている。
そもそも『カメラを止めるな!」をボクに紹介してくれたのは、『ケンとカズ』(2015年)で長編映画デビューした小路紘史監督(31)だった。
低予算のインディペンデント、ジャパニーズ・ノワールという題材で、周囲の予断を覆す完成度の高い作品を撮り切った小路監が同じ境遇のライバルの映画をここまでめちぎったのは異例だった。
それも普段は物静かな好漢が、まるでゾンビの如く、尋常ならざる人格に豹変しながら、この映画をボクに”鬼レコメンド”してくれたのだ。
果たして……
ボクもこの映画の鑑賞後は小路監督同様のクチコミ・ゾンビ症状に感染してしまった。
本作は、上田慎一郎監督(34)の長編デビュー作でありながら、既に内外の映画祭で高評価と受賞済みだ。
今後も世界でカルト映画的な話題となるどころか、時と共にスタンダードとして映画史に残るであろう最高級に奇跡的な出来栄えと断言できる。
新人監督、無名キャスト、しかもゾンビ映画、それだけの先入観で舐めた想いでスクリーンに臨めば、完全にその観客の予断を遥かに超えたデッドゾーンに持っていかれる。
「感染」と称したが、この映画への愛着と共にひとりでも多くの人々に知らしめたい衝動に駆られ、それは、まるで10代の頃の一映画ファンに戻ったかのようだった。
ボクがこの映画を見ていて想起したのは、巨匠・ブライアン・デ・パルマ監督(77)が80年代前半(まだ40代で新鋭監だった頃)『ミッドナイトクロス』(1981年)『ボデイ・ダブル』(1984年)などで湧き上がるアイデアをぶち込み、映画の舞台裏を好んで描いた作品だ。
当時、これらの作品は批評家からはヒッチコックのエピゴーネンと揶揄されていたが、すでに亜流を超えた独自性に身悶え歓喜していた10代のボクは「オトナはわかってくれない」と、憤懣やる方なく過ごしていたものだ。
映画の内幕ものとしては、「(カメラの)スイッチ切ったら叩き殺す!」の『蒲田行進曲』(1982年)を連想し、ゾンビ映画やホラー映画の撮影現場で言えば『スクリーム』シリーズや『桐島、部活やめるってよ』(2012年)、はたまた二重構造のホラー映画といえば、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996年)も蘇る。
ルビッチ、ワイルダーの系譜もあるだろう。
しかし、なによりもこの映画から類似の感動を喚起させられるのは、三谷幸喜の舞台だ。伏線が次々と回収され、後半に笑いが渦巻く興奮は、まるで最上級の三谷喜劇だ。
実際、上田監督に直接尋ねたところ「三谷作品で一番好きなのは舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン幕を降ろすな』です。タイトルから滲みでるように、かなり影響受けてます」とのことだった。
つまり、この映画は、「三谷幸喜監の映画が芝居ほど面白かったら良いのに」……という、邦画ファンの見果てぬ夢を既に叶えている。(三谷さんDISってスイマセン!次回作への期待込みです!)
DISよりDEADがLINEを超えて大活躍する本編を"マバタキを止めて"酔いしれよ!!
最上級の喜劇の傑作は観客の笑いを止めること無く、むしろ泣くことを強いるのだ。