髪のみぞ知る ♯1 〜体験的育毛大成功報告〜
これからボクが語る話は実話のみである。
タイトルにある通り、今、ボクの頭髪は年齢(58歳)の割にはふさふさと言って良い状態にある。
いや、むしろ鼻毛、産毛、顔毛、指毛、全身から発毛が続き、結構毛だらけの嬉しい悲鳴が続いている状態だ。
しかし、ここに至るには長い道のり紆余曲折があるのだ。
なぜなら、ボクが15年前の2006年に出版した『博士の異常な健康』(アスペクト)の帯で「博士の頭に髪の毛が生えてきた」と一度は増毛法成功の勝利宣言をしている。
しかし、そのときの治療法では、長くふさふさ状態を維持することは難しく、その後、加齢と共に頭髪の後退を余儀なくされてしまった。
しかし、2015年に、ある画期的な投薬療法との出会いにより、ボクの頭髪事情は見事なV字回復を遂げたのだ。
しかし、その後、2018年に体調不良で半年間芸能活動を休養し、投薬による育毛治療を中断したのだが、その際にも、再び抜け毛と共に頭部のハゲ散らかし状態が止められなくなってしまった。
つまりは、逆説的には、それまでの投薬治療は功を奏していたということなのだ。
そして、今、またまたまた頭髪の勢いは回復している。
むしろ全身から毛という毛が新たに発生していると思えるほどに。
これから、その経緯を書いていきたい。
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名古屋の惨劇~第二次毛髪砂漠化現象
それは今から6年前のことである。
2015年10月10日──。
前から、その惨状には気がついていた。ただ、その現実を自覚はしたくなかった。
しかし、この日、ついに目をそらしていた過酷な現実を突き付けられる大惨事がボクの身に起こったのだ。
一度は完全に回復を果たしボクの頭部は、この世の春を味わっていたはずなのだが、もはや寄る年波には勝てないのか、歳をとるたびに、鏡に映る己の頭髪、それは第二次危機的状況~毛髪砂漠化現象は手の施しようがないほど進行していた。
この日にスタートをしたテレビ愛知の新番組『情報バラエティ土曜コロシアム』にボクはレギュラーとして出演していた。
第一回目の生放送のオンエアを見た、マネージャーNが放送終了後に血相を変えてこう言った。
「スイマセン。博士、もう隠しようがありませんって‼」
そうか、やっぱりもう無理か……。
実は、この番組のオープニングはクレーンを使った上方からのカメラアングルで番組はスタートするのだが、その際にカメラは砂漠化したボクの頭頂部がバッチリ映し出したいたのだ。
たぶん、テレビを見ていた名古屋の視聴者は「博士、ハゲとるじゃにゃーか‼」と、中日ドラゴンの元エース・頭皮で経費を嵩上げしていたB東英二氏も「ほんまにもう~博士、ワシがええ植毛業者紹介したるわ!」と嘆いていたに違いない。
髪は私を見離した。
ザ・デイ・審判の日は、ついにやってきたのだ。
魔法のふりかけ
いや正直に言えば、この時期すでにボク個人の心象の上では、紛れもなく、禿げていくことが現在進行形の自覚はあった。
芸能の仕事をしていて、薄毛を強く実感するのは、テレビ局のメイク室である。
各局のメイクさんが本番前にボクの頭髪をじっと見つめると、思案するような表情で髪の毛を右や左に流し盛り付け、薄いところを上手に隠してくれる、そういう偽装工作は常のことだった。
毎週、生放送を担当してくれている仲の良いMXテレビのメイクさんは、ボクを極力傷つけないように、言葉を選んで接してくれた。
向こうは月に四回以上、定点観察しているはずだから、ボクの頭部のハゲ化に気づかないわけがない。
ボクは毎回、自虐も含め「もう限界だよね……」と薄毛をネタにヘアメイクさんをからかっていた。
「いやあ大丈夫ですよ、博士さん、まだありますよぉ!」
「もうダメだよ。だってこれ相当後ろから髪の毛を寄せているよね?」
「そ、そんなことないですよ‼」
「いや、でもボクも鏡を見ているから分かるよ。ちゃんとハゲているって言えばいいじゃん!」
「だから、そんなことないですって‼」
毎回、薄れ行く事態に会話も希薄になっていった。
事態が決定的になったのは他局で髪の毛のセットが終わったと、思ったその時だ。
次の瞬間、ボクになんのことわりもなく、業界で有名な、あの魔法の粉〝スーパーミリオンヘアー〟を頭のてっぺんにパッパとふりかけられてしまったのだ…。
芸能界、一般社会にまでその乱用が叫ばれる頭皮用合法黒粉、粉末増量ヘアーの代表格がスーパーミリオンヘアーだ。
ペットボトルに詰められたディーゼル車の黒煙と思しき物質が、ひとたび薄頭にふりかけられれば、それはハゲたちに笑顔と幸せを呼び戻す幸せの黒いPM2.5へと早変わりする。
正直、大ヒット商品であり、素晴らしい人間の英知のたまものだ。
大手事務所の不倫報道隠し、スキャンダルつぶしなどよりも圧倒的に芸能界で隠蔽力が高いと言われるこのミラクルヘアメイクツール、業界人はそれを永谷園でない方の〝大人のふりかけ〟として崇め奉っている。
ルアン株式会社の商品名『スーパーミリオンヘアー』に代表される、それら粉末類は、地上波の人気番組のスポンサーとして、はたまた全国のUHF、民放BSなどの埋め草番組として人目を忍びつつ、されど空白の時間をあまねく渡り歩くゲリラ戦法を駆使し、 各局の有閑帯を通じ、人々の心のスキマに、しっかりとたくましい毛根と認知度を張り巡らしている。
海原はるか・かなた両氏の漫才のように、フゥっと吹いたら飛んでしまうのではとの心配はご無用だ。
黒襟のタキシードに蝶ネクタイ姿の肥えたグッチ裕三氏のような阿部稔社長が、すしざんまいの木村社長のようなエンドレススマイルで、毎度自ら、ふりかけ、シャワーを浴び、豪風を浴び、その万能、無敵性を証明し続けている。
ちなみに価格は、20g、3000円台から。
三島食品の純国産青のり、5g200円からすれば、実に4倍以上もする末端価格であるにもかかわらず、手頃に手を出しやすい入門用ハゲ隠しとして需要は尽きない。
しかし、一方、将来的により高額でトリップ感の強いハードヘアパーツに重度依存する流れをつくってしまうゲートウェイハゲコスメとして、その不可逆的危険性も指摘されているとか、いないとか。
せめて合コンの一夜だけ、同窓会、面接の一日だけ……。
刹那的な快楽を求めて、日々、若年層、低額所得者層にまで〝ミリオネアー〟が増殖しているという矛盾した異例の事態が日常化している。
芸能界での乱用者の名はボクの耳にもすでに届いている。
同業者である人気お笑いコンビ、NインティNインのOK村隆史氏も、芸能界黒い粉使用疑惑の捜査線、その芋づる検挙のXデーで、必ず名前の挙がる筆頭候補であった。
こともあろうにOK村氏は、以前から自身にふりかかる黒い粉使用疑惑について、軽薄にも自らの深夜放送でAナイトNッポンで明け透けに使用歴を語っていたのだから恐れ入る。
ある日の映画撮影で、ヘアメイク女史がメイク中に突然、OK村氏に何ら伺いを立てることなく、完全な自己判断で頭頂部にスーパーミリオンヘアーを〝追加トッピング〟してきたことがあったらしい。
そしてその日、ヘアメイク女史は撮影でカットがかかるたびに魔法の粉を手に走り寄り、OK村氏にぶっかけ行為を繰り返したという。
ボクより数段上のテレビ界のめちゃ人気者だけに心中察するに余りある陵辱的な惨劇である。
撮影中、監督、カメラマン、大勢のスタッフ、共演者、エキストラ等々の衆目監視の中で、こんな屈辱行為を繰り返されて心が粉々に砕けない方がおかしい。
この模様を仔細に、深夜ラジオで白状、ゲロッパしたOK村氏。
数々の大舞台を踏んできたOK村氏も、この一件ばかりは「無問題だ!」と笑って受け流すことはできず、これはもはや、モウマンタイではなく、深刻な「毛問題」だと悟り、その場しのぎに過ぎない対処療法から逃げるように、AGAクリニックの門を叩き、本格的な投薬、根本治療への道へと進んでいったという。
大人のふりかけ乱用問題は高額の損害賠償請求に至るケースもある。
2017年3月、ツイッター上のとあるツイートから磁力と電波で体内を可視化するMRI装置により検査を受けた男性が、こともあろうに〝ミリオネアー〟だったため、高額な機器を故障させる事態を招いてしまったという話がネットに拡散した。
もちろん以前から、MRI受診者には事前の注意事項として、本格派カツラ、イヤリング、金歯、銀歯、ペースメーカーなどなど金属性物質の装着を徹底申告することにはなっていたが粉末ヘアーにまでは、どうも注意喚起が足りなかったようである。
粉末ヘアーには各社さまざまなタイプがあり、その中には金属製物質が含まれている商品も存在する。
ちなみに、大手ルアンの『スーパーミリオンヘアー』は、植物系繊維セルロースが主成分であり、この場合の磁力には干渉しない。
しないが、静電気で髪の毛に付着しているので精密機器が吸い込み、故障の原因となることは十分に考えられることから、この商品であってもMRI受診の前は当然、使用を控えることが大前提となろう。
そもそも、これから頭の中、脳内の奥の奥まで精密に調べられる絶対的マシーンと対峙しようとする時に、小手先のふりかけでパラパラと雑に頭皮を隠して何になるというのだ。
この、その場しのぎを、他の状況で言い換えれば……。
ソープランドに行ってステンレス盆で前を隠してどうする?
上野クリニックに行く前に手で剥きグセつけてって何がしたい?
という話なのである。(極論です)
もちろん、多くの愛用者は、それでも満足しているのが現状だが…。
ことはMRI受診という非日常的なケースだけの問題ではないのだ。
金属物質が含まれている粉末ヘアーが存在するということは、空港のセキュリティーゲートでも多くの同士が日常的に悩みを抱え、毎回祈るような気持ちで金属探知機をくぐっているということでもある。
大人のふりかけという現実逃避、その一時のやすらぎの郷、ユートピアでこのまま、様々な社会生活上の困難と何とか折り合いをつけながら一生過ごすのか、それとも何かしらの根治手段を講じるのか……。
あの頃。
ボクの頭頂部の砂漠化問題は、もはや待ったなしだった。
今や、ハゲという客観的事実に完落ちし、あきらめの境地で達観しつつあるのだが……。
15年前に、ボクは既に一度、水で戻す前の春雨状態の絶望的パラパラ乾燥脱毛から一転、育毛に大成功し、その成功記はベストセラーにまでなった経験を持っているのだ。
その本とは、冒頭に紹介した『博士の異常な健康』(アスペクト)である。
そして、今回、語るのは、その後のはなしだ。
つづく