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fetishismⅣ 手

中学生の時、ひどく中性的な手をした同級生がいた。
大きくて、サイズで言うと間違いなく男性の手なのに、細い指ときれいな爪。水泳部でよく灼けていたのに、何でか手は白かったのもあるかも知れない。何となく触りたくなったのを、覚えている。思春期なのもあったし、関係性もあって、そんな気軽に触れるものではなかったけれど。
以来、人の手に視線を走らせることが多くなった。
どちらかというと、鑑賞目的だ。あまり触れたいとかは思わなかった気がする。フェチというやつかな、なんてぼんやり思っていた。

* * *

あの人を好きになったのと、触れたいという気持ちが生まれたのと、どちらが先かよくわからない。というか覚えていない。同時だったかもしれないし、何となく話題に「頭を撫でる」なんて話が出たことがあったから、頭を撫でるあの人の手をほんの少し想像したのかもしれない。とにかく、私はあの人の手に触れたくて、触れられたいとかなり初めのころから思っていた。
視線を走らせる、見る、鑑賞用。そんな生易しいものではなかった気がする。あの人の手は、中性的なわけでも白く細い指でもなかった。どちらかというとしっかり男性の手で、広く丸い爪は整えられていて、少し骨ばっていて。
どうぞ、と少し笑って私に差し出された掌を、両手で触れて指を絡めた。
人差し指の第一関節に触れて、爪先を撫でる。
する、と恋人つなぎのように繋ぐと、骨ばった指の間にやたらしっくりと自分の指が挟まった。少しばかり乾燥していてさらりとした感触。
あの人に会って、緊張していたのと、好きなのを持て余して落ち着かない気持ち。それと相反する、あの人の手に触れてものすごく落ち着く安心したような気持ち。綯い交ぜになった結果、子供のようにあの人の手を抱えたまま、随分と大人しくなっていたらしい。後で笑われた。
あの人は意外に思うかもしれないけれど、実をいうと恋人つなぎってあんまり好きじゃなかった。私があまり細くない指をしているせいで、しっくりこないからだ。あの人と手を繋ぐのは、あまりにも馴染みすぎて恋人繋ぎしかしなかった。手が冷えるから普通に繋いでと言われるくらい。繋いだまま指先を撫でるのが好き。ずっと触れていたくなる。どんな理由でも、手を離すのは無性に名残惜しかった。

頭を撫でられるのも、引き寄せられるのも、肌に触れられるのも、心地よかった。何が合ったのかよくわからない。確かに好きな気持ちが先に来れば、触れるのは心地よいだろうし触れられて安心するのも自然だ。それでも、それだけで片付けるにはあまりにも―――

まぁ、そんなこと感じていたのはきっと私だけなんだろう。

* * *

フェチの人って最高の対象に出会った後いったいどうするんだろう。
決めつけるのは早い?
他にもあるはず?
至極ごもっともだけれど。ただ漠然とした勘。予感。感触。
「この感じ」は、もう訪れないんじゃないかな、なんて―――薄い確信。
ひとつ首を傾げて考える。
出会えただけよしとするべきかもしれない。偏愛対象を抱えた人間が、誰しも己がミューズに出会えるわけではないだろう。一つ満たせば一つ欠けてを繰り返していくような。

―――ああ、でも。
もう一回触れたかったな。




#触れる #手 #爪を撫でる

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