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【藤井風】「やば。」の考察

「やば。」に出てくる<墓>って何?
お盆に行くあのお墓のこと?
やばって、何がやばいの?

こんな風に思っている「やば。」好きの人は多いんじゃないでしょうか。

今回、LASAアルバムの歌詞カードとMUSICA(5月号)でのインタビュー内容などを参考にした「やば。」の私なりの考察を書きます!

まず、「やば。」という曲は、風さんのセルフライナーノーツ(LASA Listening Party 18:40〜)において、「天使のような自分と、悪魔のような自分が痴話喧嘩してる感じ」の曲とされています。言い換えれば、”天使=こうありたいと願う理想の自分”と”悪魔=理想の自分に反抗してしまう情けない自分”の対話といったところでしょうか。2者の対話の構造に注目しながら、歌詞を読み解いていきます↓


  1.  冒頭<気づいて欲しい 認めて欲しい> から <追いかけ続ける あの絵空事>における歌詞の語り手の視点は”理想の自分(天使)”。ここでは愛は本来自分から与えるものであるのに愛を求めてしまう"自分(悪魔)"の過ち・愚かさが客観的に表されている。

  2.  <さっさと行こうか もっと遠くへ高いところまで>からは、同じく”理想の自分”視点で"自分"に対して、より高いところの自分=理想の自分(ハイヤーセルフ?)に近づこうよ、と語りかけている。英訳における主語も”理想の自分”が”自分”に話しかけるかのように <You(あなた)>が用いられている。

  3. そしてそのままサビの<何度も何度も墓まで行って 何度も何度もその手合わして>に入る。初めてこの曲を聴いたときに引っかかったこの<墓>という表現。これは物理的に墓場に行き手を合わせるという情景描写ではなく、”理想の自分“から見た"自分"の心情描写だろう。英訳において、行ったことを意味するYou’ve been to the graveではなく、あえて入ることを意味する<You’ve been into the grave>と表現されているところからも内面的世界を描いていることが補強される。
    また、<何度も何度もその手合して>の手を合している先の対象は、<墓>から連想されるご先祖様的なものではなく、英訳における<lord>つまり神のような存在、おそらくここでは理想の自分であることが読み取れる。ここの流れを整理すると、”理想の自分”は”自分”に対して、「あなたはすがるように何度も理想の私に祈りを捧げ、こうありたいと願うけれど、結局あなたはいつもその期待を裏切る。」と不満げに指摘している感じだろうか。

  4. 続く<もうそれ以上何も言わないで>以降は、メロディー的には<愛した日々は確かだっけ?>から繋がっているように思えるが、歌詞の語り手の視点は"理想の自分"から”自分”に明確に切り替わっている。これは、歌詞カードにおいて意図的に<もうそれ以上何も言わないで>が改行されていることや、英訳において主語が<I(わたし)>になっていることからも視覚的に表されている。つまり、<もうそれ以上何も言わないで>は、"理想の自分"からの指摘に対しての”自分“の嘆き・叫びと言えるだろう。その後、”理想の自分”の<傷付けないでよ 裏切らないでよ>に呼応するように、<傷付けないから 裏切らないから>と言う反省の言葉が続く。<もう、もう、もう、もう>からは、もう同じ過ちはしないと言う反省に加えて、言葉にならない"自分"に対する失望や呆れ、苛立ちといった感情が強く感じられる。

  5. ここまでの歌詞の法則を2番以降の歌詞にも当てはめると、<今さら何言ったって>から<愛した日々は確かだっけ?>までは”理想の自分”視点であると言える。そして、<もうそれ以上何も言わないで>からはまた"理想の自分"から”自分”へと視点が切り替わる。


この“理想の自分”と”自分”の対話という繰り返しの構造からは、思うように理想に近づけない現実の”自分”のもがきの模様が色濃く伝わってくる。そして、曲は”自分”視点の「もう、もう、もう、もう。」と言う長い嘆きで不完全さを残したまま締められ、どこか報われないようにすら思えてしまう。

ただ、この曲の唯一救われるところは、"理想の自分"は、同じ間違いを繰り返してしまう"自分"を決して見捨てていないところにある。2番の歌詞にあるように、"理想の自分"は、<君が望むまでいつまでも>一緒にいてくれる存在なのだ。

そう考えると、この「やば。」と言う曲は、新曲「grace」と深く繋がっているように思える。「grace」の世界において、<わたし>が自分の中にいる絶対的な存在の<あたし>と向き合い一つになったことで、ようやく「やば。」の世界における”理想の自分”と”自分”の対立は乗り越えられ、苛立ちや苦しみから真に解放されたのではないだろうか。


とまあ自分なりに気付いたことや感じたことを書いてみました!間違ってることもあるかもしれないけど、風さんも好きに解釈してちょうだい、とのことだったので(笑)
日本語の歌詞だけだと掴みきれない部分も、歌詞カードに載ってる英訳を見ることで理解が深まったりして面白かったです。


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