【小説】ゴースト・ゴーストライター × ライター
私は超有名な小説家です。
そんな私の秘密は,私に「ゴーストライター」がいることです。そんなこと話して大丈夫なのか?と思われるかもしれませんが,大丈夫なのです。絶対に証明しようがないのですから。
なぜなら、
私のゴーストライターは幽霊だから。
「ゴースト・ゴーストライター」というわけ。
名前はゴスロミオ。
漫画から出てきたようなポップな見た目です。
ゴーストなので実体がないし,
会話はテレパシー。
私は彼から受け取った小説を実体にして,
私の名で,世に流すのです。
そう。写して,流すだけ。
その小説に私の意思も何もないのです。
もはやどっちが「ゴースト」なのかわかりません。
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昔の話です。
私だって1人で小説を書いていた時期がありました。毎日毎日必死に書き続けていました。
評価が得られなくてもずっとずっとです。
ある日,完璧といえる作品ができました。
私の伝えたいことを書き切った。
心の底からそう思いました。
投稿。
しかし結局,誰からも反応はありませんでした。燃え尽きて,諦めのついた私はその投稿を削除して,小説を書くことをやめました。
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小説を書かなくなってからしばらく経って,私は新しい就職先で頑張っていました。
退勤後,職場裏でタバコタイム。
ここが彼との出会い。
いつか幸福が来ると信じて,吸い続けていたラッキーストライク。その紫煙から現れたのが,ゴスロミオだったのです。
ひょうたんのような体に,青く燃える目。
確認できない口で,開口一番。
「お前、小説書かないんなら俺の代わりに書いてくれよ!」
ゴスロミオは志半ばで死んだ小説家の幽霊でした。私は彼を気の毒に思い,手伝うことにしました。慣れない新しい仕事で毎日忙しかったのですが,完成された文章を書くだけなのでそこまで苦ではありませんでした。何より彼の小説はとてつもなく面白く,書きながら次の展開にワクワクしていました。そうして投稿した一作目は空前の大ヒットを記録しました。その後も出せば出すだけ売れていきます。数年も経つと,私は莫大な金を得て,新しい仕事も新しいうちに辞めました。
「よかったな。俺のおかげで大金持ちだぜ。」
嬉しさよりも嫉妬が勝つ,そんな気持ちでした。ゴスロミオはいいやつです。ちょっと生意気ではありますが,いつだって小説に一生懸命だし,私が疲れている時は無理して書かせません。特に大長編だった一作目は,完成までになかりの時間がかかりましたが,ゴスロミオは気長に待ってくれて,完成した日にはこいつこのまま成仏するんじゃないか?と思うほど喜んでくれました。そんな彼を見て,私も嬉しくなったことは確かです。でも,小説を書いていた身として,彼の才能が,周囲からの反応が,羨ましく,恨めしい。そう思わずにはいられませんでした。
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ある日,私はとんでもないことを思いつきました。あの日消したあの小説。私の全て。
今の私名義で投稿したらどうなるんだろう。
木棚を探すと,案外あっさりと
あの小説の原稿が出てきました。
今や私(ゴスロミオ)の作家名は全国に轟いています。何より私はこの作品に自信を持っていたはずなのです。今読んでみても,秀作だと思います。なぜ反応が得られなかったのかわかりません。これを今,投稿したら?
みんなが私を見てくれるかもしれない。
本当の私を見てくれるかもしれない。
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今日も私の小説はバカ売れです。
某ブログサイトにも投稿している小説の一部はいいね数10000を超えています。
でも私の1番大切な,私の自信作にはひとつも反応がありません。
結局のところ,私は,私(ゴスロミオ)とは別の名義で小説家として再出発しました。もちろんデビュー作はあの小説。いまのところひとつも反応はありませんが、それでいいんです。
「お前才能ないな,でも嫌いじゃないぜ」
そう言って笑う彼はゴースト・ゴーストライターで,私はしがないただのライターです。